著者
今井 亮佑
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.5-23, 2009 (Released:2017-03-08)
参考文献数
18

「亥年」である2007年の参院選後に行われた意識調査の分析を通じて,「統一選で自分の選挙を戦い終えたばかりの地方政治家が,参院選時に選挙動員に精を出さないこと が,『亥年現象』を発生させる要因である」とする石川仮説の妥当性について,有権者レヴェルで実証的に再検討した。具体的には,地方政治家の中でも特に市町村レヴェルの政治家の動向に着目した分析を行い,(1)春の統一選時に道府県議選のみが実施された自治体の有権者に比べ,道府県議選に加えて市町村レヴェルの選挙も実施された自治体の有権者の方が,参院選時に政治家による選挙動員を受ける確率が有意に低かった,(2)後者の自治体の有権者の間では,参院選時に政治家による選挙動員を受けた人ほど棄権ではなく自民党候補への投票を選択する確率が有意に高かったという,石川仮説に整合的な結果を得た。
著者
鬼塚 尚子
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
no.17, pp.113-127,206, 2002

近年我が国で実施された衆議院の選挙制度改革に際し,中小政党は次の三つの戦略-合同して大政党を作り政権奪取を目指す「合同戦略」,一貫して野党にとどまり「抵抗政党」としての存在をアピールする「非合同野党戦略」,自民党との連立政権に参加して与党としての政策実現や利益誘導を計る「非合同政権参加戦略」-を採ってこれに対処したと考えられる。しかし,第三の戦略を採った政党は選挙で苦戦していることが観察される。本研究ではこの理由として,(1)連立参加に伴う政策転換が潜在的な支持層の票を失わせること,(2)中小政党の与党としての業績は有権者に認知されにくいこと,(3)新選挙制度が自民党と連立を組む政党に不利に働くこと,(4)選挙協力を阻害する要因が自民党支持者側にあることを挙げ,個別に分析を行ったところ,おおむねそれぞれを肯定する結果を得た。
著者
境家 史郎
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.20-31, 2012 (Released:2017-08-04)
参考文献数
25

本研究では政治家調査データを分析し,2010年参院選時におけるエリートレベルの政策的対立軸を示す。探索的因子分析の結果,「安保・社会政策における保守―リベラル度」「五五年型政治経済体制に対する賛否」「新自由主義的経済に対する賛否」「民主党目玉政策に対する賛否」と解釈しうる,4次元の統計的に有意味な軸が抽出される。これらの争点軸は,五五年体制期以来の旧来的政治対立構造に加え,90年代以降の経済財政危機,2009年の政権交代の実現等により累積的に形成されてきたものと考えられる。本研究では以上の結果から先行分析に対する再検討を行う。また,4次元軸上における主要政党の政策位置や散らばりの程度を示し,昨今の政党間・政党内競争のあり方に関する含意を得る。
著者
湯淺 墾道
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.51-61, 2009

選挙権の性質については憲法学界において論争が続いているが,被選挙権の性質についての議論は少ない。しかし近時,多選制限と関連して被選挙権は憲法上の権利ではないとする見解が明らかにされたことを契機に,あらためて被選挙権の性質が問われている。従来の通説では被選挙権は選挙によって議員その他に就き得るための資格,選挙人団によって選定されたときこれを承諾し公務員となりうる資格であるとされたが,昭和43年の大法廷判決などに触発され,被選挙権の憲法上の権利性を肯定する学説も増えている。被選挙権の憲法上の権利性を認めるとすれば,選挙権の中に含まれていると見るべきであり,選挙権の公務性(一定の公共的性質)から説明できる。
著者
若山 将実
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
no.17, pp.142-153,207, 2002

1970年代に入って支持の増大を経験したイギリスの第三政党は,現在では主要政党の一つとして定着している。本稿は,第三政党支持を変化させる要因を業績評価投票モデルから再検討する。業績評価投票モデルに依拠したこれまでの研究は,政権与党の業績に対する否定的な評価によって有権者は野党に投票するとした仮定がイギリスの第三政党に当てはまらないことを主張してきたが,本稿の分析は,選挙区レベルの経済状況の変化と政党競争の状況を考慮すると,第三政党は経済状況の悪化に対する有権者の不満の受け皿として支持を増大させていることを明らかにした。また,そうした有権者の不満の受け皿としての役割は,第三政党が野党第一党として定着している選挙区において特に大きいことが本稿の分析からわかる。
著者
辻 陽
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.16-31, 2008 (Released:2016-10-03)
参考文献数
15
被引用文献数
2

国会議員と地方議員はお互いの選挙での当選確率を高めるために「系列」といわれる協力関係を結んでいる。この「系列」が維持されているようであれば,1993年に始まった国政レヴェルにおける「政界再編」は地方政治にも影響を及ぼしたはずであるが,実際にはその影響は限定的であった。国政レヴェルでは多数の自民党議員が離党して新党を結成したが,「系列」に従って新党会派の結成を見た都道府県議会は少数だった。他方で,保守系会派から自民党会派に戻る議員も多数見られた。他方,「政界再編」が社民党の地方組織に及ぼした影響もまた,限定的だったといえる。社民党は国政レヴェルでひどく衰退し民主党も結成されたものの,2003年の時点でも相当の都道府県議会において社民党会派が存続していたのである。すなわち,自民党が約6割の議席率を誇る地方議会において,民主党が地方に基盤を築けていないことが確認された。以上を要するに,新党が地方において根付いていないことが明らかになった。
著者
大村 華子
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.104-119, 2011 (Released:2017-06-12)
参考文献数
39

本稿は,戦後日本政治において,政党の政策が世論の変化に連動してきたのか,そして世論に従って政策を変更する政党は選挙に強かったのかという,2つの密接に関連した問いを分析する。分析に際しては,各国の政党の政策公約を数量化した「マニフェスト国際比較プロジェクト(CMP)」のデータを用いることによって,日本の政党の政策位置を指標化し,世論の変動に関しては,内閣府による「国民生活に関する世論調査」のデータを使用して有権者の特定の政策分野に関する期待を操作化した。経済政策分野と外交政策分野の分析を通して,戦後日本の各政党は,(i)世論の動向に配慮して政策を決定してきたこと,(ii)世論に配慮することで政党の選挙パフォーマンスが向上することの2点が明らかになった。
著者
吉野 孝
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.14-25, 2010 (Released:2017-05-08)
参考文献数
20
被引用文献数
1

本稿の目的は,アメリカ連邦公職選挙における選挙-政党組織関係の変化を分析し,その特質を解明することにある。同国の連邦公職選挙では,1950年代に至るまで,集票が固定的人間関係に基づいて行われ,政党機関が選挙運動をコントロールした。1960代にテレビの利用がはじまると,党大会の運営と選挙戦略の立案においてメディア専門家が全国委員長に取って代わった。1970年代以降,世論調査,メディア広告,ダイレクトメールなどの選挙運動手段が発達し,選挙コンサルタントが登場すると,候補者は自身の選挙運動組織を形成し,政党組織は周辺に追いやられた。1980年代に豊かな資金を背景に全国政党機関が選挙運動の表舞台に復帰したものの,2000年代になると,候補者はインターネットを用いて直接的な選挙民への到達を試みた。要するに,新しい選挙運動手段に対応する過程で,政党組織は選挙運動の重要な役割を喪失してきた。

1 0 0 0 OA 書評

出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.115-132, 2015 (Released:2018-03-23)
著者
小野 恵子
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.41-57, 2017 (Released:2020-03-01)
参考文献数
43

米社会では長期的に見ると人種・民族の多様化が進み,性別や人種による格差が縮小する一方で,産業の空洞化によって低スキルの雇用は減り,学歴に基づく格差が拡大している。2016年の大統領選挙で共和党のトランプ候補は大量の移民が職を奪い,犯罪を増やすなどの主張を繰り返してきた。社会における白人の比較優位が失われる中,こうした社会の多様化と学歴格差の拡大の影響を強く受けている白人高卒有権者がトランプ氏の主張を好感したことが考えられる。本稿では州レベルの投票データと全米選挙調査などの調査データを使い,社会の変容を経済的,社会的な「脅威」と見る白人高卒有権者がトランプ候補に魅力を感じ,彼らの支持が同氏の当選に大きく貢献したことを示す。
著者
安野 智子
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.84-101, 2015

近年,日本でも,富裕層と貧困層の経済的格差の広がりが問題視されるようになっている。経済格差の議論で特に問題とされるのは,所得格差よりも資産の格差である。資産は次世代に受け継がれることによって格差の定着・拡大を招くからである。政治参加に関する海外の先行研究では,所得や学歴,人種などによって政治参加や投票行動の程度が異なることが見いだされており,経済的格差の拡大が民主主義を損なう可能性が指摘されている。しかし日本における従来の研究では,社会経済的地位と投票参加との関連ははっきりしなかった。本稿では,2013年の参院選時に行われたCSES調査のデータを用いて,資産状況が投票行動に及ぼす影響を検討した。その結果,株・債券という資産の所持が投票参加に,また,住宅の所有が安倍内閣支持に,それぞれ正の効果を持っているという知見が得られた。
著者
平野 淳一
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.39-54, 2012 (Released:2017-09-01)
参考文献数
30

地方分権改革,市町村合併といった一連の地方制度改革によって,市は規模と権限の両面でより大きな力を得るようになっている。市長選挙についても,それまで多数を占めていた国政与野党による相乗りの枠組みが減少し,脱政党化が増えるなど変化が起きている。こうした変化は先行研究でも指摘されてはいたが,データ収集の難しさから,その全体像は必ずしも十分に明らかにされてはいない。また,市長選挙における主要政党の関与が,何によって規定されているのかについても明確な説明がなされているとはいえない。以上のような問題意識のもと,本稿では近年の市長選挙における民主自民両党の関与についてのデータを構築し,55年体制期との比較を行うことで,いかなる特徴が見られるのかを探る。また,近年の市長選挙に見られる主要政党の関与について探索的な分析を行い,その規定要因を明らかにすることを試みる。
著者
境家 史郎
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.81-95, 2014

政治学において自然科学を範とする傾向がますます強まり,「より科学的」な研究を行うがための方法論争が盛んである。近年の実験的手法の流行もこの文脈において理解できる。しかしそもそも政治学者の想定する自然科学像ないし自然科学における研究蓄積過程のイメージは,どれだけその実態に即しているのだろうか。本稿では筆者自身のfMRI実験(Sakaiya et al. 2013)の経験もふまえ,認知神経科学における研究蓄積過程の実際を概観する。その結果,メカニズム追究,少数事例研究,帰納的分析といった,政治学にお いて意義の争われてきた方法が,自然科学分野において積極的に採られていることが示される。また,実験(という政治学者が理想とする検証方法)が可能な自然科学分野においても,少数の検証結果によって最終的結論に至るわけではなく,実際には同様の目的の実験を反復し,あるいは他のアプローチを併用するなど,きわめて慎重に議論が進められていることも示される。以上の観察は,政治学研究の「科学的」発展のための新たな方法論的示唆を与える。
著者
井出 知之
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.72-84, 2011 (Released:2017-07-03)
参考文献数
46

この論文は日本の社会階層論における政治意識研究の研究動向を整理し,課題と展望を議論するものである。社会階層論の研究においては,社会構造とその変動の分析枠組みの一つである社会階層について論じるに留まらず,その政治変動への影響なども論じられてきた。そのために階層的地位に関する変数と政治意識に関する変数との関連が分析されてきたのである。本論文がこれらの社会的変数と政治的変数の関連をめぐる議論をまとめることで得られる結論は,社会階層構造とその変動が政治意識に反映される際に,系統的なズレが生じるということである。それは政治意識が政党や政権といった要因で攪乱されるということと,客観的な階層が主観的な階層に変換されていく過程でズレが生じるということである。これらの点をモデルの複雑化でなくシンプルな理論の面白さに生かすことが問われている。
著者
飯田 健
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.107-118, 2010

これまでの投票参加に関する研究においては,問題の本質が投票率の「低下」という変化にあるにもかかわらず,結局のところ「誰が投票するのか」という極めて記述的な問いに対する答えが与えられてきた。それらは基本的に,クロスセクショナルなバリエーションから,時間的なバリエーションを説明しようとするものであり,「なぜ人は投票するようになる(しなくなる)のか」という変化について直接説明するものではなかった。本研究ではこうした現状を踏まえ,衆議院選挙,参議院選挙,そして統一地方選挙における投票率という三つの時系列から "recursive dyadic dominance method" を用いて「投票参加レベル」を表す年次データを構築し,それを従属変数とする時系列分析を行う。またその際,失業率,消費者物価指数,与野党伯仲度などを独立変数とする時変パラメータを組み込んだARFIMAモデルを用いることで,時代によって異なる変化の要因を検証する。
著者
平野 淳一
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.32-39, 2008 (Released:2016-10-03)
参考文献数
10
被引用文献数
2

本稿では,平成の大合併前後に行われた市長選挙の構図を描くことを試みる。従来までの合併を巡る研究は,合併の要因やメカニズムが主として扱われており,政治的効果という観点から分析したものは少ない。本稿では,市町村合併を行った市にみられる選挙の枠組み,当選者の属性,投票率等に注目し,その他合併を行わなかった市との比較でどのような違いが見られるのかを考察する。
著者
末木 孝典
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.120-130, 2011 (Released:2017-06-12)

第2回衆議院議員選挙において,第一次松方内閣は選挙干渉を行った。本稿は,選挙干渉の有効性を分析するため,①選挙の結果,政府支持派を拡大できたか,②選挙後の第三議会において,政府の方針に従う議員を増加できたかという2点について検討した。 その結果,まず,内務省の名簿により,選挙では幅広い勢力を取り込み,政府支持派を大幅に増加させたことがわかった。選挙後,政府は自由党や独立倶楽部などに対して多数派工作を行ったが,政府支持派と見ていた独立倶楽部が分裂するなど,成功したとはいえない。そして,第三議会における各議員の議案賛否をパターン分析した結果,基礎票で民党と吏党の差はほとんどなく,方針通りに投票した議員が民党側約90%,吏党側約75%と差 がついたことがわかった。以上のことから,選挙干渉は議会運営の円滑化には有効な結果をもたらさなかったといえる。
著者
三輪 博樹
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.97-108, 2015 (Released:2018-04-06)
参考文献数
20

インドにおける選挙制度改革をめぐる議論は,わが国におけるそれとは異なり,選挙の公正性や透明性の確保,政治腐敗の防止といった観点からのものが中心となっている。1970年代以降,さまざまな政府機関や政府任命の委員会によって選挙制度改革に関する提言がまとめられてきたが,そうした提言が実際の政策決定に反映された例は少ない。この背景として,選挙制度改革をめぐる議論自体が,社会政策を行う上での制約や政党政治の影響などを受けてきたことがあると思われる。しかしその一方で最近では,「ガバナンス」 に対する有権者の意識の高まりによって,市民団体による盛んな選挙監視活動など,選挙制度改革をめぐる議論に新たな要素が加わっている。こうした市民団体の活動は,インドにおいて選挙制度改革を進めていく上で,今後さらに重要になるものと思われる。
著者
小林 哲郎 稲増 一憲
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.85-100, 2011

社会心理学およびコミュニケーション研究の観点からメディア効果論の動向について論じる。前半は,マスメディアの変容とその効果について論じる。特に,娯楽的要素の強いソフトニュースの台頭とケーブルテレビの普及がもたらしたニュースの多様化・多チャンネル化について近年の研究を紹介する。また,メディア効果論において重要な論点となるニュース接触における認知過程について,フレーミングや議題設定効果,プライミングといった主要な概念に関する研究が統合されつつある動向について紹介する。後半では,ネットが変えつつあるメディア環境の特性に注目し,従来型のメディア効果論の理論やモデルが有効性を失いつつある可能性について指摘する。さらに,携帯電話やソーシャルメディアの普及に関する研究についても概観し,最後にメディア効果論の方法論的発展の可能性について簡単に述べる。