著者
松沼 瑞樹 本村 浩之
出版者
日本魚學振興會
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.21-30, 2009-04-27

日本に分布するカダヤシ科グッピー属魚類には、日本各地の温泉地と琉球列島に生息するグッピー、および北海道室蘭市白老町に生息するコクチモーリーの2種が知られている。これら日本国内に生息するグッピー属魚類はいずれも人為的に導入されたものであり、本属魚類の原産地はいずれも中央アメリカである。鹿児島県の薩摩半島南部に位置する指宿市では、二反田川の南側に広がる市街を中心に多数の温泉保養施設があり、住宅地では一般家庭に温泉水が供給されている。それらの施設や住宅から排出された温泉水は、用水路を介して二反田川に流出している。鹿児島県レッドデータブックにおいて、米沢は指宿市の二反田川にコクチモーリーが生息することを目録的に報告した。しかし、本研究で指宿市のグッピー属魚類と北海道白老町産のコクチモーリーを詳細に比較したところ両者は別種であることが明らかになり、前者はPoecilia mexicana Steindachner、 1863に同定された。指宿市のP. mexicanaは二反田川の全流域にわたって、稚魚から成魚まで周年確認されており、本種は同河川で自然繁殖している。本報告では指宿市二反田川産P. mexicanaを記載するとともに、本種の成長に伴う形態の変化および性的二型を報告する。さらに本種には標準和名が与えられていないため新標準和名を提唱する。
著者
阿部 拓三 佐藤 長明
出版者
日本魚學振興會
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.159-163, 2009

ダンゴウオは、標準体長18mm程度で成熟する小型のダンゴウオ科魚類である。熊本県天草、長崎県野母岬から青森県下北半島までの日本各地、および東シナ海北部から黄海に至る広範囲から採集記録があり、日本周辺の浅海域に広く分布すると考えられる。しかし、本種の繁殖に関する知見はUenoによる成熟雌の卵巣卵の数およびサイズなどに関する若干の記述に限られ、詳しい生態は不明であった。本研究では、宮城県南三陸町志津川湾から得られた繁殖個体をもとに、野外における卵保護習性、産卵基質、一腹卵数、卵径および産卵頻度など、本種の繁殖生態の特徴を報告する。
著者
平田 智法 小栗 聡介 平田 しおり 深見 裕伸 中村 洋平 山岡 耕作
出版者
日本魚學振興會
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.49-64, 2011

A monthly underwater visual census was conducted in the coral-dominated habitat of Yokonami, Tosa Bay, Japan, from June 2006 to January 2009. A total of 12,586 individuals belonging to 168 species in 43 families were recorded during the study period. The number of species and individuals increased from June-August (summer), the highest numbers occurring in September-December (autumn), thereafter decreasing from January (winter) to the lowest point in May (spring). Labridae was the most dominant family in terms of species numbers (28 species), followed by Chaetodontidae (21 species) and Pomacentridae (18 species). In terms of individual numbers, Chaetodontidae was the most abundant (56.3% of total individual numbers), followed by Labridae (15%) and Pomacentridae (12.5%). The most dominant species were Chaetodon speculum (33.4%), Pomacentrus coelestis (11.1%), and C. lunulatus (8.2%). The fish assemblage was divided into 4 groups: (1) temperate fishes (1877 individuals in 26 species), (2) (sub-)tropical fishes (10,648 individuals in 136 species), (3) temperate-tropical fishes (28 individuals in 2 species), (4) unknown fishes (33 individuals in 4 species). Species and individual numbers of temperate fishes were high in summer and low in winter, whereas those of tropical fishes were high in summer and autumn and low in spring, suggesting that typhoons in summer and autumn, and low water temperatures in winter might affect fish recruitment and community density. Moreover, at least 44 tropical species were observed throughout the year during the study period.
著者
平嶋 健太郎 中村 和矢
出版者
日本魚學振興會
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.53-57, 2014

シマヒレヨシノボリRhinogobius sp. BFは,鈴木ほか(2010)によって近年認められたヨシノボリ属魚類である。しかし,これまで他のヨシノボリ類と混同されていたこと(明仁ほか,2013)や認識されて間もないことから基礎的な資料は少ない。本種の分布域は,瀬戸内海東岸を中心とした地域である。これは,シマヨシノボリR. nagouaeやカワヨシノボリR. flumineusなど同属のヨシノボリ類の分布域と比較して狭く(明仁ほか,2013),また,その生息環境は平野部の野池や河川下流域,わんどなどであり(鈴木・向井,2010; 平嶋,2011),人為による環境改変の影響を受けやすいと考えられる。加えて,環境省レッドリストで準絶滅危惧(環境省,2013),和歌山県版レッドデータブックで学術重要(中谷ほか,2012),愛媛県版レッドデータブックで地域個体群に指定(高橋,2003)されていることから,本種の生息地の保全が望まれる。その一方で,本種が他地域へもち込まれた場合に他種との交雑(向井ほか,2012)や競合など大きな撹乱の元となることが危惧される(鈴木ほか,2010; 鈴木・向井,2010)。また,本種個体群の分散や交流に大きく影響する仔稚魚期の生活史に関して,Tsunagawa et al. (2010)は耳石のSr/Ca比により本種が河川陸封性であることを明らかにしているが,仔稚魚が実際に沿岸や海域で生残可能かどうかは明らかでない。
著者
伴 和幸 福井 篤
出版者
日本魚學振興會
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.45-48, 2012

著者らは,房総半島沖,小笠原北東沖および九州南東沖から採集され,千葉県立中央博物館(CBM)および国立科学博物館(NSMT)に所蔵されていたトゲボウズギス属の4標本を精査した結果,これらはDysalotus oligoscolusに同定された。本報告では,これらの標本の形態を記載し,新標準和名を提唱する。
著者
水澤 信之 福井 篤
出版者
日本魚學振興會
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.149-152, 2009-11-05

全世界の中深層に分布するヒナデメニギス属魚類は、伸長する体、管状あるいは小袋状で背面あるいは斜め前方を向く眼、2本の鰓条骨、数列の鋤骨歯、および透明な皮膚と腹膜に覆われる消化管によって特徴づけられ、幼形成熟をすることが知られている。今回、著者らが青森県太平洋沖で採集され、国立科学博物館(NSMT)に所蔵されていたヒナデメニギス属の1標本を精査した結果、Dolichopteryx pariniと同定された。本種は小袋状で伸長しない眼、背鰭基底下に位置する臀鰭基底始部、および伸長する胸鰭条と腹鰭条などによって特徴づけられる。本種はKobylianskii and Fedorovによって、オホーツク海の北部および北太平洋の北部と東部、さらに日本周辺海域およびカリフォルニア沖にも分布すると報告された。しかし、日本周辺海域およびカリフォルニア沖からの標本は別種であり[前者はヒナデメニギス、後者はMoserのD. sp.]、日本周辺からはD. pariniは今まで知られていなかった。よって、本研究では、これを日本初記録として報告するとともに、本種に新標準和名を提唱し、その形態を記載した。
著者
佐藤 行人 西田 睦
出版者
日本魚學振興會
雑誌
魚類學雜誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.89-109, 2009-11 (Released:2011-03-28)
著者
馬渕 浩司 瀬能 宏 武島 弘彦 中井 克樹 西田 睦
出版者
日本魚學振興會
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.1-12, 2010-04-26

琵琶湖に生息するコイの中には、ユーラシア大陸のコイとはミトコンドリア(mt)DNAの塩基配列で明瞭に異なる個体が存在することが、2005年に明らかにされた。これらの個体が保有するmtDNAは、当初は琵琶湖固有のハプロタイプと考えられたが、その後の研究で、近縁あるいは同じハプロタイプが国内の他の水域からも発見され、現在では、日本在来のハプロタイプ(在来型ハプロタイプ)の一つであると考えられている。在来型ハプロタイプの存在は、「日本のコイはすべて中国から移殖したものである」としたJordan and Fowlerへの強力な反証であり、古琵琶湖層からの咽頭歯化石の発見や、縄文遺跡からの咽頭歯の出土と併せて、日本には有史以前から在来のコイが分布し、現在もそれに由来するコイが生息することの明白な証拠となっている。本研究では、琵琶湖内における在来系統の分布状況を知る第一歩として、湖内の各所から採集された750個体以上のコイについてmtDNAの型判別を行い、各生息場所における在来型、導入型ハプロタイプの出現頻度を調べた。また、2004年に猛威をふるったKHVの在来系統への影響を評価するため、蔓延時に湖岸で斃死していた100個体を超えるコイのmtDNA型判別も行い、上の結果と比較した。