- 著者
-
竹村 典良
- 出版者
- 桐蔭横浜大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2015-04-01
近年における電子機器の発展に必要不可欠なリチウムについて、世界の半数以上の埋蔵量を有するボリビア多民族国家における産業化による環境破壊と健康被害に関する調査研究を行った。結果として、下記の諸点が解明された。第一に、ウユニ塩湖とその周辺地域は豊富な動植物が生息する地域であり、人間と動物にとって重要な分水界であることから、ラムサール条約(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)によって保護されている。しかしながら、リオ・グランデ・デルタ地帯は、鳥や動物が通年使えるラグーンであり、塩湖の再生に決定的な流域であるにもかかわらず、国際保護機関から世界の34の生物多様性のホットスポットとして分類されている。第二に、ウユニ塩湖とその周辺地域は、大規模で大量の水を使用する産業化プロジェクトにより、これまでの過剰な水の使用に拍車がかかる虞がある。水不足の悪化は、地域住民の労働、伝統的な農業、生活に著しい影響を及ぼすことが明らかである。この地域の生態系が全体として汚染され、ますます破壊されるであろうことが予測されるにもかかわらず、ボリビア政府はウユニ湖とその周縁地域の深刻な環境破壊の警告に耳を傾けようとしない。このままリチウムから得られる利益の追求にまい進するならば、ボリビアの全生態系が破壊される結末となるであろう。第三に、リチウムの採掘・加工に使用する有害物質の環境への影響に関心を払わなければ、広範な環境汚染により動植物が危機に晒されることになる。人々の生活環境、動植物の生息環境を破壊するリチウム戦略は、ボリビア多民族国家が標榜する「よりよく生きる(vivir bien)原則」と「母なる大地の権利(right of mother earth)」と矛盾する。より包括的な形態の社会組織を市民社会の内部に形成し、より公正な政治・経済・社会システムを構築しなければならない。