著者
河村 哲二
出版者
法政大学イノベーション・マネジメント研究センター
雑誌
イノベーション・マネジメント (ISSN:13492233)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.21-46, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
61

第二次大戦後1950年代・60年代のアメリカ経済の「持続的成長」は、企業レベルの構造、とりわけ、アメリカの基幹的量産産業における大企業・巨大企業の戦後企業システムを、国内を中心とする経済成長連関の中核とするものであった。それは、アメリカ型大量生産システムとそれに適合的に確立された戦後「伝統型」労使関係、「ビューロクラティック」な経営管理組織を伴う「成熟した寡占体制」を主要な支柱とするものであった。そうした戦後企業システムは、長期の歴史的展開の産物であるが、最も直接には、第二次大戦の戦時経済における戦時産業動員体制によって決定づけられた制度的・組織的変容を画期として、戦後初期の戦後再転換過程で、一定の修正を受けて確立されたものであったとみることができる。本稿は、そうしたアメリカの戦後企業システムの重要な支柱となった「伝統型」労使関係」の形成と確立にとって最も重要な、1930年代に始まるアメリカ労使関係の歴史的転換を受けながら展開した、第二次大戦期の戦時産業動員と戦時経済のもとで生じた、「長期戦略・政策形成」、「団体交渉・人事政策」、「職場・個人/組織関係」という三つの層全体にわたる制度・組織転換のプロセスと主要点を明らかにする。
著者
竹内 淑恵
出版者
法政大学イノベーション・マネジメント研究センター
雑誌
イノベーション・マネジメント (ISSN:13492233)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.53-78, 2019-03-29 (Released:2020-03-31)
参考文献数
48
被引用文献数
1

多くの企業が、Facebookページ(以下、FBページ)を統合マーケティング・コミュニケーション戦略の一環として活用している。これまでの研究では、FBページを展開している企業が多数存在するにもかかわらず、少数のFBページに限定して調査する、あるいは、多数のFBページのデータを収集した後、集計して分析するというアプローチが採られてきた。そこで本研究では、38ブランドのFBページに対する消費者反応データを用いて、階層線形モデルの適用可能性を検討した。階層線形モデルは、個人レベル(消費者)と集団レベル(FBページ)という階層的なデータを適切に分析するための手法である。分析の結果、集団レベルの誤差を固定効果としたモデルよりも、変量効果としたモデルのほうが適合度が有意に高いこと、個人レベルの効果に関して、FBページ間の異質性を仮定したモデルのほうが、独立変数(信頼、相互作用、コミットメント)による従属変数(推奨意図)に対する説明力が高いことが明らかになった。また、集団レベルの変数である、年齢、男女比率、人気ランキングには有意な効果が認められなかった。一方、満足度、快楽的動機においては、個人レベルの効果のみならず、集団レベルの効果を扱うことにより、モデルの説明力が高まることが見出された。
著者
丹下 英明 新家 彰
出版者
法政大学イノベーション・マネジメント研究センター
雑誌
イノベーション・マネジメント (ISSN:13492233)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.49-70, 2022-03-31 (Released:2022-03-31)
参考文献数
18

本稿では、中小企業がサステナビリティ経営に取り組むプロセスと、従業員の意識変化について、事例研究と従業員アンケートから分析を行った。その結果、以下の三点が明らかになった。第一に、中小企業におけるサステナビリティ経営への取り組みは、現状に危機感を抱いた経営者が、多様なステイクホルダーと出会い、情報を収集するなかで、社会的課題解決に取り組むビジネスモデルを形にしている。第二に、サステナビリティ経営への取り組みは、新製品の開発や、新たな販路開拓につながっている。こうした過程では、認証の取得や経営陣の協力、既存の取引先の活用が寄与している。第三に、サステナビリティ経営への取り組みは、従業員の意識変化につながっている。一方で、中小企業は、サステナビリティ経営の方針を従業員に浸透させることに課題を抱えている。特にパート社員において、そうした傾向がみられる。以上のように、サステナビリティ経営に取り組むことは、中小企業に多くの利点をもたらす。中小企業は今後、サステナビリティ経営の視点を取り入れることが重要だろう。
著者
安士 昌一郎
出版者
法政大学イノベーション・マネジメント研究センター
雑誌
イノベーション・マネジメント (ISSN:13492233)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.125-140, 2021-03-31 (Released:2021-03-31)
参考文献数
29

本稿は、道修町の薬業者の活動を通して1870年代~1910年代における大阪薬業界の変遷を考察する。業界発展の一要素として先進的な経営者の存在が挙げられる。そして道修町はその典型的な地域であったため、当該地域を考察対象とした。医薬品産業は研究開発型産業の代表であり、明治・大正期にその礎が築かれた。政府は医薬制度の基盤に西洋医療を採用し、それを普及させる為の施策を行った。使用される西洋薬品は高額でかつ輸入に頼らざるを得ず、供給の不安定さを抱えていた。大阪の薬業者も業態を変化させて環境への適応を試みた。その中で少数の業者が西洋薬品の輸入をいち早く手がけ、環境の変化に反応して製薬企業に成長し、業界の発展に貢献した。彼らの活動には教育機関の創立や、共同出資による企業設立も含まれている。また第一次世界大戦の勃発はドイツからの医薬品輸入を途絶させ、市場は大混乱に陥った。政府は輸出規制および製薬事業の保護助成政策を打ち出したが、この決定には大阪の薬業者の関与があった。社史、業界誌等の分析により、彼らが医薬品産業の発達に貢献した過程を明らかにしている。
著者
山崎 泰央
出版者
法政大学イノベーション・マネジメント研究センター
雑誌
法政大学イノベーション・マネジメント研究センター ワーキングペーパーシリーズ = Working paper series
巻号頁・発行日
vol.24, pp.1-26, 2006-11-10

パーソナルコンピュータの歴史は、1971(昭和 46)年インテルによって世界初のマクロプロセッサ(MPU)「4004」が発表されたときから始まる。電卓用に開発された4ビット処理の「4004」は数字しか扱えなかったが、翌年、アルファベットも扱える端末機用 8ビット MPU「8008」が発表された。1974年、インテルは処理速度を格段に早めた汎用の 8ビット MPU「8080」を発売、75 年にはこれを組み込んだ世界初のマイコンキット「アルテア 8800」が米 MITS 社から発売され、全米にマイコンホビーブームが生じた。このアルテアに対してプログラミング言語「BASIC」を移植し、ソフトウェア・ビジネスを立ち上げたのが、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツとポール・アレンだった。1977年、アップル・コンピュータの「ApplⅡ」の他、コモドールやタンディ、日本のソードがほぼ同時期に、個人による机上利用が可能なデザインのマイコン=パーソナルコンピュータを発表した。パソコン時代の幕開けである。そして 1983 年、IBM は 16 ビットパソコン「IBM The PC」でパソコン市場に参入する。パソコンでは後発であった IBM は、開発期間を短縮するため、オープンアーキテクチャ構造を採用した。そのため、IBM のシェア拡大と同時に互換機市場も拡大していった。このとき、IBM-PC にインテルの MPU とマイクロソフトの OS(基本ソフト)が採用されていたことから、いわゆる「ウィンテル」がデファクトスタンダート(事実上の標準)の地位を獲得していったのである。 現在では「ウィンテル」の商業的成功ばかりが喧伝されているが、パソコン黎明期には実に多くの有名・無名の人々がパソコンの発展に貢献してきた。もちろん日本人の活躍も例外ではない。8ビットパソコンを第一世代、16 ビットパソコンを第二世代、そして現在の主流である 32 ビットパソコンを第三世代とすると、日本人はパソコン第0世代の MPU 開発から第二世代まで大きな足跡を残している。MPU「4004」のアイデアは日本の小さな電卓会社ビジコンが生みだし、その開発には日本人技術者の嶋正利が関わっている。アルテアを開発したエド・ロバーツよりも早く MPU を使って商用マイコンを作ったのは椎名堯慶が率いていたソードであった。また 16 ビットパソコン OS のデファクトスタンダートである MS-DOS はアスキーの西和彦がビル・ゲイツに決断を促したことによって開発が始まっている。その他、日米を含めて多くの人々やベンチャー・ビジネスの活躍が、パソコンを含む現在のIT(情報技術)産業の発展を支えてきたのである。 ここでは、パソコン黎明期に日本のパソコン産業をリードしながら、経営の失敗によって歴史に埋もれていったソードの椎名堯慶(しいな たかよし)と、同じく黎明期にパソコンの「天才」と呼ばれ、表舞台で活躍したアスキーの西和彦(にし かずひこ)を取り上げる。以下、彼らがパソコンの将来像をどのように描き、それを実現するためにどのような主体的活動を行ったのか検討していく。
著者
豊田 裕貴 木戸 茂
出版者
法政大学イノベーション・マネジメント研究センター
雑誌
イノベーション・マネジメント (ISSN:13492233)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.89-100, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
5

本研究の目的は、QCA(質的比較分析)とMDSO-MSDOによる質的分析手法と、ソフトクラスタリングといった定量分析手法とを活用し、個々の顧客の差異を検討し、ブランドマネジメントに資する情報抽出方法を提案することにある。QCAは、ブール代数をもとにした集合論的方法である。本研究では、個々人のブランド評価構造の多様性と因果条件を明らかにする目的で応用する。もう一つのアプローチであるMDSOおよびMSDOとは、Most Different cases, Similar Outcome/Most Similar cases, Different Outcomeの頭文字からなる手法である。MDSOは「結果が類似しているグループ内で評価基準が最も異なるケース」を特定し、MSDOは「結果が異なるグループ間で評価基準が最も類似しているケースを特定する」ために用いられる。本研究では、対象となる顧客データの中から詳細に検討すべき対象を特定する目的に応用する。ただし、MDSO-MSDOアプローチでは、極端に変わった対象が抽出されてしまう可能性があり、特定された対象が深く検討すべき対象であるかという懸念が残る。この点に対しては、ソフトクラスタリングを用いて抽出された顧客と類似する個客がどれくらいいるかを確認することで対象の非特殊性を担保する手順についても提案する。
著者
永井 武
出版者
法政大学イノベーション・マネジメント研究センター
雑誌
イノベーション・マネジメント (ISSN:13492233)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.119-140, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
28

産業クラスターにおける知的財産の戦略的活用政策は、テック系ベンチャーなどの新産業創出、更には地域経済活性化においても重要である。本稿では、産業クラスターにおいて集積する企業の中でも、特に競争力を持つ付加価値型産業である研究開発型産業や各研究機関等(以下「R&D型産業」という)を主な研究ターゲットとしている。この産業クラスターにおいては、各地域に特徴的な知的財産(本稿では「特許」を対象とする)も集積している。この知的財産が集積しているということは、知的財産を生み出す発明者の知識も集積していることが想定される。更には、この知識の集積現象を捉え、且つそのメカニズムを活用することができるならば、地域経済活性化を実現していくための地域産業政策を導き出していくことが可能となる。そこで本稿では、前述してきた問題意識を持ち、産業クラスター地域として首都圏と地方を結ぶ3地域を対象に、特許情報を活用して地域系特許集積から形成される特許集積群(パテントクラスターと称する)を導出し、分析結果の現象を活用した地域産業政策立案手法について検討を行った。
著者
鍾 淑玲
出版者
法政大学イノベーション・マネジメント研究センター
雑誌
イノベーション・マネジメント (ISSN:13492233)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.133-155, 2015 (Released:2018-10-23)

本稿は歴史的な側面から段階別に全家便利商店の展開を考察し、台湾でのファミリーマートの経験を通して、日本型コンビニの国際化におけるキーファクターの抽出を目的としている。まず、日本型コンビニの特徴を(1)直営店よりも加盟店が多い。(2)中食商品群の強化により、高い粗利益を確保する。(3)メーカーとの共同配送システムが重視されている。(4)情報システムの構築によって、チェーン運営の効率化を図っている。(5)S&QCが重視されている、の5つのポイントにまとめた。次に、全家便利商店の発展段階を進出期(1988~1993年)、成長期(1994~2005年)、成熟期(2006~2014年)の3つの段階に分けて、それぞれの段階において、日本型コンビニの特徴がどのように移転されたかを明らかにした。日本型コンビニの移転に障害となるものに対して、全家便利商店は一つ一つ革新を起こしながら克服し、台湾における発展を成し遂げた。本稿で明らかになった日本型コンビニの国際化におけるキーファクターを挙げると、コンビニは現地適応化が不可欠な産業であることから、良い現地パートナーの確保が重要である。一方、日本側の役割は資本投資以外に、最大限の資源による現地企業への技術ノウハウをサポートすることであった。そして、経営主導権は現地パートナーに引き渡すことで、現地社員のモチベーションを持たせることができ、イノベーションの発生につながったと考えられる。
著者
小山 浩一
出版者
法政大学イノベーション・マネジメント研究センター
雑誌
イノベーション・マネジメント (ISSN:13492233)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.41-66, 2015 (Released:2018-10-23)

本稿の目的は、中小企業経者を対象とした生命保険法人契約(以下「経営者保険」)の需要に関わる決定要因の分析を通じて、中小企業におけるリスク管理やその準備に資する生命保険業界の健全な発展のために示唆を得ることにある。経営者保険の需要は、経済合理的な一貫性を持つ経済準備必要性と、経営者の持つ価値観双方の影響下にある。考察の結果、以下のことが確認された。経済準備必要性は、経営中断リスク対処、退職金対処、予防的対処の3つに分類され、経営者保険の需要に正の影響を与える。価値観については、不確実性の回避と集団主義の影響が確認された。不確実性の回避は、加入者において需要へ負の影響を与え、集団主義は、未加入者において正の影響を与える。本研究から得られた主要な示唆は、価値観やその価値観が表れる顧客企業の経営方針等によるセグメント別コミュニケーション戦略の必要性である。