著者
中村 文子
出版者
長崎純心大学・長崎純心大学短期大学部
雑誌
人間文化研究
巻号頁・発行日
vol.4, pp.94-84, 2006-03-01

「今昔物語集」は平安時代末期、院政期に成立したとされる我が国最大の仏教説話集である。説話の中には、恩をかけ恩に報いる話が収録されており、「恩」という語が散見できる。「今昔物語集」全三十一巻 (巻八・一八・二一は欠巻)は、天竺部・震旦部・本朝仏法部・本朝世俗部と四つの部立てで構成されており、収められている説話には依拠した文献の存在が明らかなものも多い。本稿では、「今昔物語集」の「恩」という語が依拠文献の表現を受け継いでいるのかどうか、依拠文献本文と比較・対照する。その結果を検討することにより、「今昔物語集」の恩についての考察の第一歩とするものである。「恩」という語を一例ずつ検討してみると、「恩」に関しては「今昔物語集」の本文と依拠文献との関係は複雑である。「今昔物語集」が、依拠文献の「恩」を踏襲していると考えられる例や、「恩」の複合語を使用している例、依拠文献にはないが「恩」という語を使っている例、対応する文がない例など、それぞれの依拠文献に「恩」という語がそのままあるものから、文そのものがないものまで多様である。依拠文献は、漢訳仏典・漢籍・本邦説話集など様々であるが、「今昔物語集」本文との関係については、特別な様相をみせる文献は、内外のいずれにも見出せなかった。結論的に「今昔物語集」の文章においては、依拠文献の文章をそのまま踏襲しているとはいえない。
著者
村岡 三奈子
出版者
長崎純心大学・長崎純心大学短期大学部
雑誌
純心人文研究 (ISSN:13412027)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.25-40, 2000-03-01

「ことばは肉体となった」-ジョン・ミルトン(John Milton, 1608-74)の後期三部作のうち『楽園喪失』および『闘士サムソン』に於いてそれぞれ寓意的に描出される「神の知恵」は、『復楽園』(Paradise Regained, 1671)に於いて、神の御子キリストの受肉として具現化される。キリストは自己の肉体を恩寵のトポスとして、ここに喪失された知恵の回復を実現するのである。一方、敵対する誘惑者サタンのレトリックは、知恵のデフォルメであるサタン自身の化身を示唆している。ルカ伝4章に基づく荒野を舞台に、詩人は受肉のリアリティと化身のヴァニティとの壮絶な戦いを展開して行く。
著者
稲垣 良典
出版者
長崎純心大学・長崎純心大学短期大学部
雑誌
純心人文研究 (ISSN:13412027)
巻号頁・発行日
no.13, pp.1-18, 2007
被引用文献数
1

In this paper, which is a part of my projected monograph on a philosophy of human person, I have attempted to clarify the essence of human person, namely that which makes the human person precisely "person." In this consideration of the "person-ness" of human person, I have tried, above all, to unify the seemingly contradictory aspects of "person-ness, " namely the subsisting individuality and the relatedness or the capacity of communication. The ontological consideration of human person which I have pursued in this paper, presupposes and requires a radical change in our way of ontological thinking. I propose to call this change "the personalist turn" in ontology.
著者
塩崎 弘明
出版者
長崎純心大学・長崎純心大学短期大学部
雑誌
紀要 (ISSN:02867249)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.17-28, 1980-03-31
著者
野中 募
出版者
長崎純心大学・長崎純心大学短期大学部
雑誌
紀要 (ISSN:02867249)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.88-81, 1985-12-31
著者
椎葉 富美
出版者
長崎純心大学・長崎純心大学短期大学部
雑誌
人間文化研究
巻号頁・発行日
vol.6, pp.62-49, 2008-03

大半の文学作品においては、作者が描いたりもしくは創り出した人物が登場し、さまざまに表現されている。それらの表現の中で、特に〈人物の指し示し方〉に作者の創意工夫が表れていると考えた。その創意工夫にあたる部分、すなわち「作者の内面的・主観的特性を言語という手段の中で表わそうとする意識」を「表現意識」と名付け、作者がどのような表現意識を持っていたかを、〈人物の指し示し方〉を手がかりに解明しようとする。『土佐日記』『蜻蛉日記』『和泉式部日記』『更級日記』を対象として、登場する人物すべてについて考察した。従来の研究では、「君」「上」などの単一名詞(「1単語」と呼ぶ)のみを扱うことが多かったが、指し示し方を幅広く捉えることが必要であると考え、人物の指し示し方の範囲を「その人物を直接指し示している表現のすべて」とした。例えば、「あづまぢのみちのはてよりも猶おくつかたにおいいでたる」という修飾部分が、「人」に収斂されているような場合、修飾部分を切り離して考えるのではなく、一括した表現(「2単語以上」と呼ぶ)として考察の対象とする。四作品すべての「1単語」「2単語以上」の指し示し方を対照・検討した結果、四作品それぞれに固有の表現意識があることがうかがえた。この方法によって、あらゆる文学作品において、作者が自身もしくは指し示す人物を、どのように位置づけようとしたかを見ることができるのではないかと考えている。
著者
松永 公隆 潮谷 有二
出版者
長崎純心大学・長崎純心大学短期大学部
雑誌
純心人文研究 (ISSN:13412027)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.133-151, 2007-03-01

本研究では、イギリスの障害者の就労支援に焦点を当てて、その状況を概観していったが、その結果、障害者就労施策は、ワークフェアとして、就労意欲を高めながら一般雇用を創出するための施策であり、その主要機関が利用者の身近な地域に存在するジョブセンタープラスであり、障害者雇用専門のアドバイザー(DEAs)が配置され、障害者の就労の専門的援助に当たっていること、(2)障害者のニューディールNDDPでは、ジョブ・ブローカーたちがネットワークを作り、各地域で雇用訓練プログラムなどを実施していることなどが明らかとなった。また、イギリス障害者差別基本法(DDA)の導入により、これまでの割当雇用制度による「結果の平等」から、「機会の平等」へと主要政策が切り替わっていることなどが明らかになった。イギリスにおける障害者雇用は比較的安定した状況にあるが、イギリスのようなワークフェアの政策には批判もあり、例えば、その代替策としてベーシック・インカムという政策の議論があることも確認した。