著者
杉浦 淳吉 吉川 肇子 鈴木 あい子
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.37-49, 2006-06-25 (Released:2020-08-28)
参考文献数
11
被引用文献数
3

本研究の目的は,商品販売・購入場面における交渉過程を再現した交渉ゲームを「説得納得ゲーム」(杉浦,2003)のフレームを用いて開発することである.説得納得ゲームは,説得役と被説得役の2つのグループに分かれ,相互作用を繰り返すゲームであり,当初環境教育のツールとして開発されたものである.説得納得ゲームを改変した『SNG:販売編』は,傘やメガネといった商品アイディアの開発を行い,その後,商品を販売する役割と,それを購入する役割に分かれて交歩を行う.販売者はなるべく多くの商品を売ることが求められ,購買者は賢い消費者として自分の気に入った商品を限られた金額の範囲内で購入することが求められる.大学生等を対象とした実践により,このゲームのバリエーションの有効性が確認された.最後に,説得納得ゲームのフレームゲームとしての消費者教育や交渉トレーニングヘの利用可能性が議論された.
著者
白鳥 令
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.1-10, 2020-07-10 (Released:2020-07-10)

政治は未来の目標を問題とする.「未来の目標を選択する行為」が政治である.政治が未来の目標を問題とする限り,誰も絶対的正しさを主張することはできないが,それゆえに,すべての人々が自分は正しいと主張できる.政治的決定は社会的決定として自分自身の将来を規定することになるから,すべての人々が,自分の問題として政治を語ることになる.こうして,政治の世界は,不確定な未来に自分の信念をかけて人々が相互に争うゲームの世界と強い類似性を示している.だが,政治が「未来の選択の行為」であり,目標を争うことを本質としている限り,初めから最終目標が設定され,そこにいかにして少ないコストで早く到達するかを目指す伝統的なゲームは,政治の本質を無視したものであり,政治の分析には不十分と言わざるを得ない.ゲームのプレイ中に最終目標と基本的価値観の変更を可能とする新しい発想のゲームを求めて,筆者は,この「政策形成と評価のシミュレーション&ゲーミング」特集号の「巻頭言」の中で,「政治とは何か?」の分析から,「イデオロギー」と「ユートピア」という人々を社会変革へと導く思想の二つのスタイルの対比まで,政治のさまざまな側面を検討し,「新しい発想のゲーム」を求める模索をしている.
著者
兼田 敏之
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.2-9, 2019-08-30 (Released:2019-08-28)
参考文献数
34

本稿では,社会工学アプローチ(問題解決アプローチ)の深化として「厄介な問題」を視野にゲーミング・エクササイズを中心に据えた筆者らのアクション・リサーチについて,その方法論の背景を含めて解説する.また事例として権利変換型再開発プロジェクトゲームURPG(Urban Redevelopment Project Game)の大学間移転についてのゲーミング・エクササイズに焦点を当てて,その経緯を概説する.とくにゲーミング・エクササイズ事例については,権利変換の概説と経緯,多主体系に付加されるべき権利変換の形式化の記述を踏まえて,URPGのデザインと名古屋からカブールへの移転を述べる.またディブリーフィングとその後の議論で生じたエピソードから土地権利にかかわる社会システム(文化的慣行)の違いが明らかになり,結果としてアフガニスタン国側で準備されていた法制度案の変更修正に結びついている.エクササイズを通じて得られた見通しも示すとともに,エクササイズ成立の条件についても言及する.
著者
久保谷 政義
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.127-138, 2003-12-25 (Released:2020-10-23)
参考文献数
24

西欧の連立政権の理論は,「政党システムが決まれば,政権構想が決まる」という,政党システムを独立変数,形成される連立政権を従属変数として規定している.しかし,現代日本政冶を見ると,先に政権構想があって,それに合わせて政党システムを再編しようという議論がなされており,単純な独立変数・従属変数の関係は規定できない.そこで,ゲーミングによって新たな視角から検討しようというのが,『政界再編ゲーム』の作成の動機である.ゲームを作成する過程では,政冶においてはゴールとは何かということに結論が出せないこと,協調と対立が同居していることなどを強く認識する必要があることが再確認された.また,本論文では,政冶とゲーミングシミュレーションの共通点を探ると同時に,今回の『政界再編ゲーム』の作成過程とルールのなかに組み込まれた含意,テストプレイを観察することに得られた知見,題材の特異性について論じる.
著者
市川 新 中村 美枝子
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.198-209, 2003-12-25 (Released:2020-10-23)
参考文献数
17

専門語は人類共通の財産であるから,大学の専門書入門の水準が必要最低限である.本稿では,ゲーミングのデザイン,構築,実施,評価に関わる専門語(ゲーミング専門語といえるだろう)を提案する.本稿で提案するゲーミング専門語は,111語である.ゲーミング専門語の中核語と位置づけ,それらをプレーヤーが知覚できる中核語,ゲーム運営者・ファシリテーターが知覚すべき中核語,設計構築者が知覚すべき中核語,評価者が知覚すべき中核語に区分して提案する.これらの中核語は,我が国におけるゲーミングの実践ならびに研究開発のために,専門語体系の確立の場を提供するのみならず,分野の異なる,あるいは,専門語の異なる者の相互交流を促進する言語となりうる.この中核語研究によって,ゲーミング専門語辞典の編纂ヘ一歩進むであろう.また,中核語体系の構成要素を精査している間,そこに,ゲーミング理論の主観的な枠組みを意識せざるをえなかった.そこで,表層化してきた仮定のゲーミング理論についても考察を加えた.
著者
渋谷 明子 坂元 章 井堀 宣子 湯川 進太郎
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.47-57, 2010-12-25 (Released:2020-07-10)
参考文献数
27

441名の小学校高学年児童とその保護者を対象にパネル研究を実施し,保護者が家庭でテレビゲーム接触の時間を厳しく制限していると,1年後の児童の攻撃性が低くなる傾向が男子でみられた.テレビゲームについては,他の指導万法の効果はみられなかったが,テレビ接触については,保護者がテレビ接触の時間だけでなく,テレビ番組の内容(暴力シーンを含んだ番組など)を厳しく制限していると,1年後の攻撃性が低くなる効果がみられた.
著者
須田 一哉
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.1-10, 2016-03-30 (Released:2019-11-01)
参考文献数
31

ゲーム依存はデジタルゲームの普及に伴って社会的関心が高まってきたテーマである.しかし,ゲーム依存の定義に資する社会調査研究の多くは欧米で行われており,これらの知見が日本のゲーム依存の実態解明にどの程度適用できるのかといった点については,十分検討されてこなかった.本研究では,先行研究で用いられている依存の定義から設計された尺度を用い,日本の高校生を対象にゲーム依存傾向とゲーム行動を調べる質問紙調査を行った.その結果,全体に占める依存者の割合や,依存者のプレイ頻度やプレイ時間が有意に多いこと,睡眠時間が有意に少ない点などにおいて先行研究との類似が見られた.一方,男子では依存者,非依存者ともにゲームがコミュニケーションの一部になっている実態が明らかにされたが,女子では依存者と非依存者の間にゲームを介したコミュニケーション行動に差が見られ,ゲーム行動における性差が,依存者で少なくなっていることが示された.特に女子依存者は,コミュニケーション行動における問題表出のひとつとしてゲーム依存がある可能性が示唆され,男女間でゲーム依存につながる要因に差がある可能性が示唆された.
著者
山本 喜晴
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.12-23, 2018-11-30 (Released:2019-06-17)
参考文献数
14

本研究では投影法心理検査の中からロールシャッハ・テストおよび箱庭を用いて,コンピュータゲームに対する親和性とパーソナリティとの関連を調べた.質問紙法調査によって,コンピュータゲーム親和性尺度を作成し,ロールシャッハ・テストの各スコアについて,コンピュータゲーム親和性尺度の高群・低群間の有意差を調べたところ,高群は色彩を伴いかつ形の明確な反応の数が有意に高く,血液反応の数が有意に低かった.このことから,コンピュータゲームへの親和性が高い人は,色彩を手掛かりにイメージを投影する傾向があり,外界に対する情緒的反応が程よい傾向にあることが考えられた.一方で,据え置き型ゲーム機を長時間プレイする人は,現実検討力に課題を抱えやすい傾向も示された.箱庭の結果からは,個性的な創造性に結びついた箱庭はコンピュータゲーム親和性の高群と低群の両方に確認できたが,特に,コンピュータゲーム親和性の高い人が創造性を発揮する際には,退行が生じやすい可能性が示唆された.
著者
倉橋 節也
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.52-63, 2017-12-25 (Released:2019-09-12)
参考文献数
17

本論文では,天然痘ウイルスおよびエボラ出血熱ウイルスをベースとした新型感染症の感染シミュレーションと,それに対する医療政策ゲームの有効性について述べる.インフルエンザや天然痘バイオテロに対する感染モデルとしては,SIRモデルが広く用いられてきたが,近年エージェントベースモデルあるいはIndividual based modelが普及し始めている.このモデルでは,一人ひとりの行動をコンピュータ上で表現することが可能であり,これらのデータを用いて人々の接触過程をシミュレーションすることから,感染症の広がりを表現することができる.本研究では,Epstein等の天然痘感染モデルをベースとして,医療政策として重要なワクチン備蓄量・抗ウイルス薬備蓄量・感染症対策を行う医療スタッフ数などをモデル化した.またエボラ出血熱ウイルスの感染モデルの実装を行い,有効なワクチンが開発されていない感染症での感染シミュレーションをモデル化した.これらの実験から,事前のワクチン備蓄量と医療スタッフの人員が,感染症の広がりを抑制するためにクリティカルな要因となっていることが見出された.また,これらのシミュレーションモデルをベースに,シリアスゲームとして感染対策を行う医療政策決定ゲームを作成し,その効果を検証した.ゲームの結果,ワクチン備蓄量などの決定に加えて,感染の発生が広がっている相手国への医療支援の意思決定タイミングおよび外出自粛や出入国制限が重要であることが見出された.
著者
杉浦 淳吉 吉川 肇子 鈴木 あい子
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.37-49, 2006

<p>本研究の目的は,商品販売・購入場面における交渉過程を再現した交渉ゲームを「説得納得ゲーム」(杉浦,2003)のフレームを用いて開発することである.説得納得ゲームは,説得役と被説得役の2つのグループに分かれ,相互作用を繰り返すゲームであり,当初環境教育のツールとして開発されたものである.説得納得ゲームを改変した『SNG:販売編』は,傘やメガネといった商品アイディアの開発を行い,その後,商品を販売する役割と,それを購入する役割に分かれて交歩を行う.販売者はなるべく多くの商品を売ることが求められ,購買者は賢い消費者として自分の気に入った商品を限られた金額の範囲内で購入することが求められる.大学生等を対象とした実践により,このゲームのバリエーションの有効性が確認された.最後に,説得納得ゲームのフレームゲームとしての消費者教育や交渉トレーニングヘの利用可能性が議論された.</p>