- 著者
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藤井 聡
竹村 和久
吉川 肇子
- 出版者
- 東京工業大学
- 雑誌
- 基盤研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 2002
いかなる社会システムにおいても,多様な価値観が共存している.こうした価値観の多様性は,共存共栄によって社会システムの潜在的な環境適用能力を確保し,より望ましい発展を遂げる重要な条件となる.しかし,一方で,深刻な対立を引き起こす"時限爆弾"でもある.例えば,現在深刻な問題を迎えている米国におけるテロ事件も,価値観の対立が生み出した悲劇と捉えることが出来よう.そして,平和と言われる我が国でも,局所的な価値の対立は近年の重要な社会問題を引き起こしている.本研究では以上の認識に基づき,人々の価値観,ならびに合意形成が問題となる社会行動についての調査を行い,社会行動における人々の価値観の演ずる役割を明らかにした.具体的には,原発事故や医療事故などの複数のリスク問題を例にとり,それぞれのリスク問題についてどのようにすれば「安心できるか」という質問を行った.その結果,そのリスクの規模が小さく,かつ,その確率が低い,といういわゆる客観的なリスクを最小化するような施策だけではなく,リスク管理者が「信頼できる」という条件がきわめて重要な役割を担っていることが明らかとなった.さらに,リスク管理者が関係する不祥事が発覚した場合,信頼は低下すること,ならびに,信頼が低下することで,リスク管理者を監視使用とする動機が増強されることも明らかになった.ただし,リスク管理者の対応が誠実であれば,信頼低下は抑制できることも示された.