著者
渋谷 明子
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.85-98, 2012-06-25 (Released:2020-06-19)
参考文献数
107

本稿では,メディア表現が及ぼす影響についての実証的な研究と,これまで問題になってきたメディア表現の特徴を整理した.青少年への影響については,暴力表現,性表現,反杜会的表現.言葉・思想関連表現のすべての領域で,青少年が影響を受ける場合があると考えられる.年齢別にみると,暴カシーンの影響に代表されるように,幼児や小学生など,低年齢の子どもたちのほうがメディアの影響を強く受けやすいことから,青少年保護のための配慮をする根拠はある.また,残虐な暴力表現,暴力的な性表現,飲酒,喫婢などの衣現,少数派集団に対する差別的表現,実在する人物,団体,病気などの名前が使われた場合に,杜会的な批判を浴びやすい.大人でも影響がみられる場合もあるので,表現にあたっては大人を対象としたメディアでも配慮が必要だろう.一方で,多様な人々を描くことは推奨される傾向もあり,配慮しながら,描いていく必要があると思われる.
著者
吉川 肇子 中村 美枝子 杉浦 淳吉
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.50-59, 2021-06-25 (Released:2021-06-30)
参考文献数
12

本論文では,シミュレーション&ゲーミングを使ったオンライン授業の例を紹介する.紹介するのは主にThiagiの手法(Thiagarajan 2005)によるものである.1つは,オンライン授業においてゲームを実施した事例である.もう1つは,授業のレポート課題に対話性を導入したものである.COVID-19の流行により,日本の大学は多くの授業をオンラインで実施せざるを得なくなった.COVID-19流行以前には,著者らは対面で実施するようなゲームを教育目的で導入していた.本来対面で行うゲームをオンライン授業に転用するにあたっては工夫が必要であった.結果として,Cisco Webex Meetingシステムを使ったオンライン授業において,対面のゲームを,対話性を維持しつつ,オンラインで実施することができた.また,講義の中でゲームを使うのではなく,レポート課題をゲームのようにすることで対話性を維持するように試みた.1年の実施経験を経て,物理的に対面していなくても,対話性を維持しつつ,授業を実施することは可能であるという結論に至った.本稿の中では,実施によって明らかになったこれらの実践の長所や短所についても述べる.
著者
広瀬 幸雄
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.97-104, 2019-03-30 (Released:2019-07-10)
参考文献数
37

本論文では,社会心理学においてゲームシミュレーションが研究や教育の方法として利用されてきた経緯を振り返り,ゲームシミュレーションの課題と今後の可能性について議論する.社会学の教育プログラムとしてのSIMSOCを社会心理学の研究方法として利用するためにゲームの仕組みを大幅に改変した仮想世界ゲームは,リーダーシップの発生や社会的アイデンティティの獲得,さらには社会的ジレンマの解決のダイナミックなプロセスを分析する有用な道具であることが確認できた.また,人々の望ましくない行動によって生じる社会問題の解決策を発見するために,様々なゲームシミュレーションが社会心理学者によって開発されて,大学だけでなく地域において教育プログラムとして利用されるようになった.そうしてゲームシミュレーションは社会心理学では実験室実験や社会調査の代替的な研究・教育方法としての評価が得られるようになった.今後の課題としては,高レベル放射性廃棄物の地層処分のようなNIMBY問題など人々の価値観の対立によって合意形成が困難な問題の解決策を検討するためのゲームシミュレーションを開発し,解決策を促進阻害する要因を発見することが必要となるであろう.
著者
杉浦 淳吉 三神 彩子
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.45-54, 2020-07-10 (Released:2020-07-10)
参考文献数
18

本研究では,住環境と省エネルギーに関する学習教材を開発し,その学習効果を検討した.知識の獲得だけでなく行動につなげるという課題から行動変容に関する社会心理学の理論を背景とし,手法としてゲーミング・シミュレーションを選定し,すごろくを開発した.すごろくではテーマに関するエピソードが問題認識,対処としての住宅リフォーム,問題解決,省エネに関する行動変容,地球環境とのつながりの5つの観点から整理された.学習者はエピソードの読み上げとポイントの増減を通じて課題を理解し行動変容につながるようにした.首都圏の中学校・高等学校の計555名を対象として学習効果を検討した.ゲーム後の振り返りとしてのアンケート調査の結果から,ゲームによる学習は住生活学習への関心を高め,楽しく学べることで学習への動機づけを高めていた.また,ゲームでの学びの際に現実の生活を意識させることで行動変容への意欲が高まっていた.自由記述のキーワードからは「エコ」「地球環境」「省エネ」といった環境にかかわることが高く意識されていた.自由記述における動詞の使われ方として認知・理解,意識改善,行動改善を意味するキーワードが出現したことから,学習内容と現実の生活とが関連づけられていた.
著者
荒川 歩
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.84-94, 2020-12-25 (Released:2021-01-05)
参考文献数
67

現在,ゲームを利用した教育についての研究は多数報告されている.一方,日本においては,現象の分析をもとに独自に立ち上げたゲームの制作そのものを教育の文脈で扱った研究は,デジタルゲームを除いてはほとんど報告されていない.しかし,現実社会の現象を,よく観察・分析し単純化してゲームとして再現(そして修正)する過程を体験することは,心理や行動の力動を理解することに大きく貢献すると考えられる.そこで,本研究では,どのようにすれば,大学生にゲーム設計を通して対象を理解させる教育が可能であり,実際にどのようなゲームが作成されるのかについて著者の試みを詳しく紹介する.この授業は,美術大学の教養科目として開講されており,2018年度は,受講生80人から44個のゲームが提出された.これらは,一部にまだ不備があるものもあるが,実施可能な形で現実の現象をゲームとして理解して表現したものであり,大学の半期の授業でも,このような課題が実行可能であることを示している.
著者
小山 友介
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.93-102, 2006

<p>日本のゲーム産業における開発力を測る客観指標の一つとして「タイトルが当初予定日に発売できたかどうか(発売延期率)」に着目し,雑誌『ファミ通』の発売日情報を元に,据置機のドミナントであるプレイステーション2(PS2)および携帯機のドミナントであるゲームボーイアドバンス(GBA)に関するタイトル発売延期率を調査した.得られた結果は次のとおりである:1)ハードウェア発売後1年目は両ハードともに発売延期率は30%程度である.2)GBAは発売4年目で7%まで順調に発売延期率が低下するのに対して,PS2では26%までしか下がらない.3)当初の発売決定月が年末年始,年度末のタイトルは有意に発売延期率が高い.</p>
著者
堀内 由樹子 坂元 章 秋山 久美子 寺本 水羽 河本 泰信 松本 正生 村井 俊哉 佐々木 輝美 渋谷 明子 篠原 菊紀
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1-11, 2022-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
31

本研究では,ゲーム障害尺度であるIGDT-10 (Király et al. 2017, 2019)に基づいて,子どもから大人まで適用できる日本語版の尺度を作成した.IGDT-10の著者の協力のもと,原文の項目文をより平易な日本語の文章に変更することを行った.作成した尺度について,小中学生を対象とした学校での一斉回収による郵送調査(N=1006),高校生を対象としたウェブ調査(N=219),18–79歳の大人を対象としたウェブ調査(N=1308)の3つの調査により,信頼性及び妥当性の検討を行った.対象者は,年間でのゲーム利用者及び過去にゲーム利用をしたことがある経験者であった.結果として,クロンバックのα係数が3つの調査のいずれでも0.8を超えており,本尺度は信頼性があることが示された.また,確認的因子分析及び外的基準となる尺度及び変数との相関の結果から,因子的妥当性及び基準関連妥当性があることが示された.
著者
佐々木 輝美 林 志修
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.53-59, 2018-11-30 (Released:2019-06-17)
参考文献数
15

本研究では,ゲームレーティングの客観的な基準を探った.その基準を明らかにするため,ゲームソフトのレーティングを行っているNPO法人のCEROが公表した一連の調査データの中の性表現,暴力表現,および反社会的行為表現に関するデータを利用し,次の3点を検討した.1)各々の表現項目がどの年齢にふさわしいかの判断について,保護者とゲームユーザーとの間に統計的に有意な差があるかどうか.2)有意な差がある場合は,なぜそのような差が生じるのか.そして,3)レーティングの客観的な基準を何に求めたらよいのか.その結果,1)保護者とゲームユーザーとの間には明らかな有意差が見られ,2)その理由として,保護者については第三者効果が,そしてゲームユーザーには脱感作効果が働いていることが推測された.そして,3)ゲームユーザーの中でも,女性ライトユーザーがバランスのとれた判断をしていることがわかり,客観的なレーティング基準として役立てることが提案された.
著者
杉浦 淳吉 大沼 進 広瀬 幸雄
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.27-37, 2021-06-25 (Released:2021-06-30)
参考文献数
27

本研究では,論争のある社会問題について当事者の選好を参照しながら意思決定を行うことを通じて政策決定とその評価の熟慮のプロセスについて学ぶゲーミング・シミュレーションを開発した.ドイツのノイス市における路面電車に関する問題について取り上げた.ノイス市では,中心地の狭い通りを走る路面電車の路線について,市民の利便性の点から存続させるか,安全性などの点から撤去するかの論争があった.開発したゲームの実践において,参加者は,最初に路面電車の問題の背景について講義を受けた後,2~5名からなるグループごとに,2009年にノイス市で実施された社会調査をもとに作成された市民のプロフィールカード3名分を参照しながら6つある論点について優先順位をつけ,3つの選択肢(存続,単線化,撤去)から1つを選んだ.特定の価値だけでなく,市民全体の価値の意見分布に関する熟考を促すために,個々のプレーヤーの優先順位づけした論点がグループで選んだ選択肢と合致するほど得点は高くなるようにした.ゲーム後のディブリーフィングでは,各グループの選択と得点結果を実際のノイス市での政策決定と比較しながら議論した.振り返りの結果から,各自の優先順位と市民プロフィールをもとに議論し,市民全体の意見分布も加味して多様な価値をバランスよく取り入れることで利害対立を避けることができていたプレーヤーほど得点は高くなっていた.最後に,実際の当事者の意見を参照しながら意思決定を行う本ゲーミングの応用可能性について議論した.
著者
齋藤 智也 田辺 正樹 平川 幸子
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.42-51, 2017-12-25 (Released:2019-09-12)
参考文献数
18

新型インフルエンザ等発生時には,都道府県においてそれぞれの流行状況を踏まえて対策を判断する必要がある.本研究では,地域における医療従事者と行政が連携を強化するための研修・訓練のためのシミュレーション&ゲーミングを開発し,研修会形式で実施した.医療従事者(医師または感染管理看護師)と地方自治体の担当者が5~6名の班に分かれ,それぞれファシリテーターを決め,ビデオ等によって付与されたシナリオの中で付与された課題を検討,発表,ブリーフィングを行った.アンケートでは,回答者すべてが本研修は「新型インフルエンザ等対策の強化」「行政と医師・看護師の連携強化」に資すると評価した.シミュレーション&ゲーミングは,新型インフルエンザ等対策のような健康危機管理の合意形成型の意思決定を,短時間に多数の局面について疑似体験可能であり,マルチステークホルダーの連携強化に有用である.
著者
大沼 進 北梶 陽子
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.5-16, 2007
被引用文献数
1

<p>社会的ジレンマ構造に,利得や情報の非対称性,フローの一方向性,信頼ゲームなどの要素を取り入れた「産業廃棄物不法投棄ゲーム」を開発した.このゲームは五つの異なる利得を持つプレーヤーからなり,利益と産業廃棄物を生み出す排出事業者,産業廃棄物の量を減らす中間処理業者,埋め立て処理をする最終処理業者,産業廃棄物を運搬する一次収集運搬業者および二次収集運搬業者が存在する.いずれの業者も,協カ(適正処理や処理委託)と非協力(不法投棄)を選択できる.8ゲームを実施し,次の結果が得られた.①フェイズを追うごとに不法投棄が減った.②処理フローの下流に行くほど不法役棄が多かった.③排出事業者は罰金やゲーム後の費用負担を恐れて委託金を低く抑える傾向があり,その結果,下流で適正処理費用が不足し不法投棄が増え,多くの費用を負担しなければならなくなった.④業者間の評価では,接触できないプレーヤーに対して信頼が低く,逆に,接触できるプレーヤーに対しては比較的信頼していた.</p>
著者
大沼 進 北梶 陽子
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.5-16, 2007-07-25 (Released:2020-10-01)
参考文献数
27
被引用文献数
2

社会的ジレンマ構造に,利得や情報の非対称性,フローの一方向性,信頼ゲームなどの要素を取り入れた「産業廃棄物不法投棄ゲーム」を開発した.このゲームは五つの異なる利得を持つプレーヤーからなり,利益と産業廃棄物を生み出す排出事業者,産業廃棄物の量を減らす中間処理業者,埋め立て処理をする最終処理業者,産業廃棄物を運搬する一次収集運搬業者および二次収集運搬業者が存在する.いずれの業者も,協カ(適正処理や処理委託)と非協力(不法投棄)を選択できる.8ゲームを実施し,次の結果が得られた.①フェイズを追うごとに不法投棄が減った.②処理フローの下流に行くほど不法役棄が多かった.③排出事業者は罰金やゲーム後の費用負担を恐れて委託金を低く抑える傾向があり,その結果,下流で適正処理費用が不足し不法投棄が増え,多くの費用を負担しなければならなくなった.④業者間の評価では,接触できないプレーヤーに対して信頼が低く,逆に,接触できるプレーヤーに対しては比較的信頼していた.
著者
杉浦 淳吉 三神 彩子
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.87-99, 2018-05-20 (Released:2019-08-06)
参考文献数
28

本研究ではカードゲームのデザインと実践・評価を行い,そのプロセスから学習システムとしての転用可能性を検討した.カードゲームはゲームのルールとカードのコンテンツから成り立っており,それぞれを考える学習システムについて検討した.社会的課題として省エネルギー行動の普及を事例として取り上げ,カードゲームのコンテンツを考案した.カードゲームのルールとして七並べを応用し,カードを並べながらコンテンツの内容と構造を理解していくプロセスを「省エネ行動トランプ」のデザインと実践から考察した.省エネ行動トランプの評価について親子を対象としたワークショップから検討した.またゲーム実施と現実の省エネ行動との関連について大学教育での実践で検討した.さらに七並べのバリエーションを検討し,ワークショップとしてのプログラムを示した.省エネ行動のゲームのルールと学習すべき内容をデザインすること,逆にデザインされたゲームからコンテンツとルールを検討するという両方向を考察することから,この事例の学習システムとしての転用可能性を展望した.
著者
吉川 肇子
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.1-8, 2009-08-25 (Released:2020-09-14)
参考文献数
18

すごろくは日本人にとっては,なじみのあるゲーム形式である.本稿では,大学生に自分自身の人生の物語(ライフストーリー)を,すごろくを使って語らせる試みについて報告する.まず第1に,すごろくによって語られているライフストーリーについて概観した.第2に,大学の授業において,すごろくを作成させる手続きを紹介した.第3に,作成されたすごろくの中から,大学生のライフストーリーの内容を検討した.エピソードとしては大学合格が,また,将来の物語の多くに「分岐」が現れているという共通の特徴が見られた.さらに,自分自身へのメッセージが含まれているものも見られた.すごろくの制作が,学生の自己認識および自己受容につながっていることが示唆された.第4に,この試みの将来の展望を,(1)手法の洗練,(2)研究ツールとしての活用,(3)心理臨床場面での活用,の3分野について検討した.
著者
市川 新
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.11-22, 2020-07-10 (Released:2020-07-10)
参考文献数
33

本稿の題名の演練とは,昭和16年6月頃から11月頃にかけて,すなわち,1941年に研究され計画され実施された社会システム・ゲーミングを示す.演練は,当時の軍事用語であるが,現代用語では,ゲーミング・シミュレーションに相当しよう.演練は,当時の官僚を中心に33名の若手エリートによる政策研究ゲーミング,あるいは当時の大日本帝国の運命を研究する国家戦略研究ゲーミングともいえる.その構造と内容について,現在までにわかったことについて報告する.なお,近衛内閣直轄の総力戦研究所における演練が現代における社会システムのゲーミング・シミュレーションの原型でないかと思われる.戦後,この演練が最初に文献に現れたのは1950年後半のアメリカのランド研究所の報告であり,その研究員らが戦争ゲームとして分類していた.1941年の当時に,日本でこのような社会システム・ゲーミングが実施されていたとは理解できなかったのではないかと推測される.そればかりか,このゲーミング・シミュレーションが,政策科学における世界最初の創始となるのではないかと思っている.
著者
杉浦 淳吉
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.11-21, 2016-03-30 (Released:2019-11-01)
参考文献数
22

トランプによるカードゲームはシンプルなカード構成で様々なルールが存在する.そのルールによって現実の様々な問題構造を表現することができる.例としてダウトは嘘をついたりそれを見抜いたりする必要性がルールで表現されている.そこでトランプゲームの応用方法を提示し,社会的課題の理解について検討した.「大富豪」は階層間格差を表現しているが,多様なオプションルールのどれを採用するかはプレーヤー間の合意形成の課題として理解できる.「ベーシックラミー」のルールを応用し,食材を組み合わせて料理を完成させる学習ゲームを開発・実践し,食材の組み合わせにおける合意形成課題として発展させた.「99」のカードの数字を足し合わせながら一定数を超えたら負けというルールを用い,合計値をプレーヤー全員で復唱する際の緊張感を環境問題の切迫感と位置づけた.トランプゲームをプレーヤーが社会の仕組みを捉え理解するツールとして活用する方法とその普及について考察した.
著者
白鳥 令
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.64-67, 2020-07-10 (Released:2020-07-10)

本書は,大学教育において正規のカリキュラムにシミュレーション&ゲーミングを取り入れている立命館大学に関係する研究者たちが,シミュレーション&ゲーミングを大学教育に取り入れた自己の体験を詳細に記述し,評価し,振り返って見た報告である.実施されたシミュレーション&ゲーミングは,徳川鎖国政策を学ぶゲームから,地震の際の防災ゲーム,地方自治のゲーム,国際交渉における合意形成のゲーム,さらには,地球社会全体のグローバル・シミュレーション・ゲームまで,非常に多彩である.自己の体験を振り返って,著者のひとりは「発想」が重要だと言い,別の著者は大学教育にシミュレーション&ゲーミングを取り入れる際は「Simple, Smart, Soft」が眼目だと結論づけている.
著者
山本 喜晴
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.12-23, 2018

<p>本研究では投影法心理検査の中からロールシャッハ・テストおよび箱庭を用いて,コンピュータゲームに対する親和性とパーソナリティとの関連を調べた.質問紙法調査によって,コンピュータゲーム親和性尺度を作成し,ロールシャッハ・テストの各スコアについて,コンピュータゲーム親和性尺度の高群・低群間の有意差を調べたところ,高群は色彩を伴いかつ形の明確な反応の数が有意に高く,血液反応の数が有意に低かった.このことから,コンピュータゲームへの親和性が高い人は,色彩を手掛かりにイメージを投影する傾向があり,外界に対する情緒的反応が程よい傾向にあることが考えられた.一方で,据え置き型ゲーム機を長時間プレイする人は,現実検討力に課題を抱えやすい傾向も示された.箱庭の結果からは,個性的な創造性に結びついた箱庭はコンピュータゲーム親和性の高群と低群の両方に確認できたが,特に,コンピュータゲーム親和性の高い人が創造性を発揮する際には,退行が生じやすい可能性が示唆された.</p>