- 著者
-
間 和夫
- 出版者
- The Japanese Society of Sericultural Science
- 雑誌
- 日本蚕糸学雑誌 (ISSN:00372455)
- 巻号頁・発行日
- vol.36, no.4, pp.346-352, 1967-08-31 (Released:2010-11-29)
栄養繁殖植物の品種の多くは偶発突然変異のなかから選抜されたものであるが, 自然における偶発突然変異の発生率は極めて低いので, 育種の方法として利用するためには, 人為的な誘発方法を研究する必要がある.一般に突然変異の誘発には, 放射線や化学薬品が広く用いられているが, 栄養繁殖植物の芽条変異の誘発には放射線照射が有効であり, 化学薬品の使用は将来の問題であるといえる。芽条変異の誘発は, 通常のX線発生装置や同位元素を線源としたガンマー・ルームにおける苗木や枝の照射によっても可能であるが, 果樹や林木および桑などの生長中の植物に照射するためには, 大線源を備えたガンマー・フィールドが必要となる。わが国のガンマー・フィールドは農林省放射線育種場に建設されているが, その線源は60Coの3, 000キューリーであり, また照射圃場の面積は約3haである。そして1962年4月から一般の照射業務を開始したが, 栄養繁殖植物のみで30種以上に照射が行なわれている。一般に芽条変異の誘発に当っては, 冬芽や頂芽に照射が行なわれるが, これらの芽は種子にくらべて含水率が高いので, 放射線に対する感受性もまた高く, 急照射における桑の冬芽の発芽に対するLD100は10KR程度であった。また, ガンマー・フィールドに栽培されている林木や茶および桑について, 生長の抑制, 崎型葉および帯化枝の発生などの障害を種間および品種間で比較した結果によると, 針葉樹は広葉樹にくらべて感受性が高く, 10R/日程度の線量率でも生長が著しく抑制された。茶の畸型葉の発生にも品種間差異は明らかに認められ, 抵抗性品種の線量率は感受性品種の約5倍であった。桑は放射線に対して一般に抵抗性であり, 線源に最も近い距離でも枯死するものはみられなかったが, 3倍体品種は2倍体品種にくらべ帯化枝の発生が極めて少なかった。芽条変異の選抜に当って最も問題となることは, 照射植物に発生したキメラの枝から変異した部分のみを有効に選抜する方法を確立することである。このためには, 切戻しを繰返すことが, 完全な変異枝を発生させる上で最も効果的であるといわれているので, 桑の苗木にガンマー線を照射し, 圃場において, 毎年, 切戻しと接木を繰返して芽条変異の選抜を行なった結果, キメラの枝の発生は少なく, 完全な変異枝の発生が多くなることが明らかとなった。したがって切戻しと接木は変異の選抜に有効であることが桑でも証明された。栄養繁殖植物でも多くの突然変異が発見されているが, その多くは形態的な畸型に属するものであって実用的な価値には乏しいが, 桑の改良鼠返の全縁葉変異を始め, 幾つかの実用性の突然変異も発見されており, 育種における利用が期待される。