著者
斎藤 弘子 上田 功
出版者
日本音声学会
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.87-95, 2011-04-30 (Released:2017-08-31)

This paper surveys the phenomenon of misplacement of the intonation nucleus in English by Japanese learners, by integrating the studies conducted by the same authors on several occasions. The studies were carried out from various perspectives in order to find out the reason why Japanese learners of English tend to pronounce words belonging to certain grammatical categories with high pitch, which native speakers of English interpret as the intonation nucleus being misplaced. The reasons behind this kind of mispronunciation, however, is in fact various and complex, and cannot be explained by simple negative transfer from the native language. Moreover, it has been found that formal instruction is needed in order to induce correct nuclear-stress placement.
著者
上田 功 松井 理直 田中 真一 野田 尚史 坂本 洋子 三浦 優生 安田 麗
出版者
名古屋外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本年度の研究成果は大きく4つの領域に分けることができる。最初は音声産出の生理面である。松井は自閉症児に見られる外国語様アクセント症候群と呼ばれる障害に関して、ほぼ純粋にこの障害のみを引き起こしている言語障害者1名を対象に、その特徴と脳内機序に関するケーススタディを行った。行動レベルでは有アクセント語についてはほとんど誤りがなく、無アクセント語が有アクセント語に変異するというパターンが多くを占めること、またその時のアクセント核の位置が多くの場合に ディフォールトのアクセント位置 (後部から 2 モーラないし 3 モーラ目) に生じることが明らかとなった。続いて成人の外国語訛りとの平行性に関する研究領域で、野田は非母語日本語学習者の読解過程を調査し,どこをどのように読み誤るのか,わからない部分をどのように推測するのかを分析した。また,読解時に辞書を使用しても,適切な理解に至らないケースも分析した。このような読み誤りや辞書使用の問題点の中には,発達障害児に見られるものと共通するものもあると考えられる。田中は韓国語を母語とする日本語学習者の誤発音について、とくにリズム構造に焦点を当て分析した。韓国語話者が目標言語(日本語)における有標のリズム構造を極端に避けるのに対し、無標のリズム構造を過剰産出することを明らかにした。上記の分析結果をもとに、リズム構造の有標性と自閉症スペクトラム児のプロソディー産出との並行性について考察した。安田は日本人ドイツ語学習者の声帯振動制御に関して、音響的分析を前年度に引き続きおこなっている。次に三浦は語用論的側面に関して、小学生児童を対象にプロソディの特徴について、コーディングを行っている。最後に臨床応用面では、坂本がロボテクスの教育への導入が、学習不安の軽減に繋がる可能性を発見し、自閉症児の学習においてロボットを活用できる可能性を見いだしている。

1 0 0 0 OA ラ行音の獲得

著者
上田 功 ディビス スチュアート
出版者
The Linguistic Society of Japan
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.2001, no.119, pp.111-139, 2001-03-25 (Released:2007-10-23)
参考文献数
32

日本語において,ラ行音は獲得が比較的遅れるとされ,獲得初期に観られる音の置き換えは,多くの記述的研究で取り上げられている.それにもかかわらず,ラ行音獲得過程が,音韻論の立場から分析されることはほとんどなかった.小論の目的は,この日本語のラ行音の獲得過程の代表的なタイプに注目し,これを最適性理論から考察することにより,この現象に合理的な説明を与えるようとするものである.最初に,獲得のもっとも初期の段階のラ行音の音置換データを概観する.次にこれを最適性理論で分析した先行研究を考察し,音置換は,3つの音韻制約に基づいて記述されることを論ずる.そして,ラ行音の獲得は二種類の異なった過程を経るが,これを段階的に検討していく.この二種類の獲得過程は,音韻発達の途上において,3つの制約が,異なったパターンを示しながら上昇・下降し,これらのランキングが変化していく動的な過程であると結論する.最後に,いくつかの方言におけるラ行音の分布をを見ることにより,ラ行音に係わる音置換は,単に幼児期の音韻獲得にのみ関係するだけではなく,日本語の音韻体系そのものに深く係わる現象であり,これも音韻制約のランキングの相違に訴えることで説明しうることを示唆する.
著者
上田 功
出版者
日本音声学会
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.21-28, 2013-08-30 (Released:2017-08-31)

The present study attempts to reexamine what is oft-times referred to as "Natural Process Analysis (NPA)" from a phonological and clinical perspective. First, theoretical implications of NPA are examined. Based upon modern phonology, an analytic tool should necessarily be equipped with theoretical constructs including input and output forms, and intervening rules, processes, or constraints, depending upon the framework. NPA fails because it only relies upon dynamic processes to reach output forms, always positing adult-like input forms for each and every child. Second, for NPA, phonemes are the smallest phonological unit to be analyzed. This assumption sometimes leads to correct output forms resulting from incorrect input forms because it fails to take distinctive features into account. Finally, it is suggested that practical clinicians be provided with a proper knowledge of phonology to conduct a clinically effective phonological analysis of functional misarticulation systems.
著者
上田 功
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.331-337, 1995-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
25
被引用文献数
1

幼児の構音異常を記述し評価する方法に, 自然音韻過程分析 (Natural Process Analysis) もしくは単に音韻過程分析 (Phonological Process Analysis) があるが, これは言語学的にみて, 理論的基盤を自然音韻論に置くものである.この評価法は欧米においては非常にさかんに用いられており, わが国においても, 最近援用される機会が多くなってきている.本論ではこの自然音韻過程分析を, 主として言語学的立場から検討し, はじめに基盤となる自然音韻論の中核となる概念を紹介し, その理論的問題点を指摘し, 次に自然音韻過程分析では説明しえない症例を紹介することによってこの分析法の限界を示し, 最後にこれらを踏まえたうえで, 自然音韻過程分析を臨床に応用する際の簡単なガイドラインを提示する.
著者
原口 庄輔 岡崎 正男 佐々木 冠 時崎 久夫 田中 伸一 寺尾 康 上田 功 米田 信子 小松 雅彦 西山 國雄 白石 英才 三間 英樹 田端 敏幸 本間 猛 深澤 はるか
出版者
明海大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、今まで一見すると混沌した状況にあった音韻類型に関する諸問題について、帰納的接近法、演繹的接近法、相関関係からの接近法、という三つの方法論により、新たな知見を得ることを目的としたものである。研究期間中に、三つの方法論により次の研究成果が上がった。(1)個別言語の具体的な音韻現象に関する新たな一般性の発見、(2)最適性理論における制約に関する新たな提案、(3)語の韻律構造と文の語順の相関関係の明確化。これらの知見は、すべて、新しい音韻類型確立に貢献するものである。