著者
野田 尚史
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.158, pp.4-18, 2014 (Released:2017-02-17)
参考文献数
12
被引用文献数
2

この論文では,現実のコミュニケーションという観点から「やさしい日本語」をとらえ直し,(a)と(b)のような主張を行う。 (a)「やさしい日本語」は,非母語話者にどのような日本語を教えるのがよいかという日本語教育の問題ではない。母語話者が非母語話者にどのような日本語で話したり書いたりするのがよいかという「国語教育」の問題である。 (b)母語話者が非母語話者に日本語で話したり書いたりするとき,文法や語彙など,言語的な面だけを考える傾向が強い「やさしい日本語」を意識するだけでは十分ではない。図表やイラストの使用,伝える情報の取捨選択など,情報伝達の面も考える「ユニバーサルな日本語コミュニケーション」を意識しなければならない。
著者
野田 尚史 花田 敦子 藤原 未雪
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.167, pp.15-30, 2017 (Released:2019-08-26)
参考文献数
11

中国語を母語とする大学院生が学術論文を読むとき,どこでどのように読み誤るかを,読みながら理解した内容を母語で語ってもらう方法で調査した。その結果,(a)から(d)のように読み誤ることが明らかになった。 (a)語の意味理解に関する読み誤り:個々の漢字の意味から語の意味を不適切に推測したり,辞書に載っている複数の語義から不適切な語義を選んだりする。 (b)文構造のとらえ方に関する読み誤り:文のどの部分がどの部分を修飾しているか,文のどの部分とどの部分が並列されているかということを適切にとらえられない。 (c)文脈との関連づけに関する読み誤り:省略されている語句を文脈から適切に特定できなかったり,照応先の語句を文脈から適切に特定できなかったりする。 (d)背景知識との関連づけに関する読み誤り:論文の文章構成や本文の記述内容に関して自分が持っている背景知識と本文との関連づけが適切にできない。
著者
野田 尚史
出版者
高知大学総合教育センター修学・留学生支援部門紀要編集委員会
雑誌
高知大学総合教育センター修学・留学生支援部門紀要 (ISSN:18831508)
巻号頁・発行日
no.3, pp.29-43, 2009-03

国際化の時代になって,日本語を学習する日本語非母語話者の目的や学習環境も大きく変わってきた。それにともなって,日本語教育も「聞く」「話す」「読む」「書く」というコミュニケーション能力の育成が強く求められるようになってきている。これまで日本語教育で使われてきた教材は, 文型という言語形式を教えることが中心になっていた。そのような教材ではコミュニケーション能力の育成は難しい。コミュニケーション能力を育成するためには,これまでとはまったく違う新しい方針で教材を作らなければならない。新しい方針というのは, 「聞く」「話す」「読む」「書く」の教材を分けることや,現実的な状況を設定し,現実的な目的の達成を目標にすること,個別学習に対応できるようにすることである。
著者
上田 功 松井 理直 田中 真一 野田 尚史 坂本 洋子 三浦 優生 安田 麗
出版者
名古屋外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本年度の研究成果は大きく4つの領域に分けることができる。最初は音声産出の生理面である。松井は自閉症児に見られる外国語様アクセント症候群と呼ばれる障害に関して、ほぼ純粋にこの障害のみを引き起こしている言語障害者1名を対象に、その特徴と脳内機序に関するケーススタディを行った。行動レベルでは有アクセント語についてはほとんど誤りがなく、無アクセント語が有アクセント語に変異するというパターンが多くを占めること、またその時のアクセント核の位置が多くの場合に ディフォールトのアクセント位置 (後部から 2 モーラないし 3 モーラ目) に生じることが明らかとなった。続いて成人の外国語訛りとの平行性に関する研究領域で、野田は非母語日本語学習者の読解過程を調査し,どこをどのように読み誤るのか,わからない部分をどのように推測するのかを分析した。また,読解時に辞書を使用しても,適切な理解に至らないケースも分析した。このような読み誤りや辞書使用の問題点の中には,発達障害児に見られるものと共通するものもあると考えられる。田中は韓国語を母語とする日本語学習者の誤発音について、とくにリズム構造に焦点を当て分析した。韓国語話者が目標言語(日本語)における有標のリズム構造を極端に避けるのに対し、無標のリズム構造を過剰産出することを明らかにした。上記の分析結果をもとに、リズム構造の有標性と自閉症スペクトラム児のプロソディー産出との並行性について考察した。安田は日本人ドイツ語学習者の声帯振動制御に関して、音響的分析を前年度に引き続きおこなっている。次に三浦は語用論的側面に関して、小学生児童を対象にプロソディの特徴について、コーディングを行っている。最後に臨床応用面では、坂本がロボテクスの教育への導入が、学習不安の軽減に繋がる可能性を発見し、自閉症児の学習においてロボットを活用できる可能性を見いだしている。
著者
野田 尚史
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.67-79, 2009-08-31 (Released:2017-05-01)
被引用文献数
1

この論文では,これまでの非母語話者に対する日本語教育が言語の教育だったことを指摘し,コミュニケーションの教育へ移行するには,次の(a)から(e)のような転換が必要だということを述べる. (a) 目的がない中立的な文法に基づいた教育を見直し,「聞く」「話す」「読む」「書く」というコミュニケーションを目的とする文法に基づいた教育に転換する. (b) 作文や日記,スピーチなど伝達内容が重視される言語活動の教育を見直し,依頼のメールや断りの口頭表現など相手への伝達方法が重視される言語活動を積極的に扱う教育にする. (c) 「〜てください」のような特定の言語形式を使うための状況設定を見直し,どんな相手と何のためにコミュニケーションを行うかを明確にした現実的な状況設定を行うようにする. (d) 与えられた文章・談話の完全な理解を目指すような正確さを重視する課題の設定を見直し,必要な情報を得るといった目的を遂行する課題の設定を行うようにする. (e) どんな学習者にも最初は基礎的な言語構造を教える統一的なカリキュラムを見直し,母語や学習目的が違う個々の学習者に対応したカリキュラムを設定するようにする.
著者
野田 尚史
出版者
国立国語研究所
雑誌
国語研プロジェクトレビュー (ISSN:21850119)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.117-124, 2013-03

このサブプロジェクトは,(i)のような考えから出発している。(i)本当の意味で日本語教育を言語の教育からコミュニケーションの教育に変えるためには,日本語教育のための研究も言語の研究からコミュニケーションの研究に変える必要がある。 日本語教育のためのコミュニケーション研究というのは,具体的には(ii)から(iv)のような研究である。このサブプロジェクトでは,これからこのような研究を進めていく。(ii)母語話者の日本語についての研究 (iii)非母語話者の日本語についての研究 (iv)日本語の教育についての研究
著者
野田 尚史
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.1994, no.105, pp.32-53, 1994-03-15 (Released:2007-10-23)
参考文献数
26

This paper sets out to analyze various types of thematized or topicalized sentences in Japanese and Spanish under a single procedure of ″thematization ″. Sentences analyzed include so-called double-subject sentences and pseudo-cleft sentences in Japanese and left-dislocated sentences, cleft sentences, and pseudo-cleft sentences in Spanish.Thematization is the procedure whereby a copy of the constituent designated as the theme is attached to the head of the proposition, and the original constituent in the proposition is then pronominalized. For example, double-subject sentence (1) is derived by thematization from the proposition (2), in which the head noun zisyo modified by an adjective is designated as the theme.(1) Zisyo wa atarasii no ga ii.(2) atarasii zisyo ga ii [theme: zisyo]Differences in the procedure of thematization in Japanese and Spanish are:1) In Japanese the theme-marker wa is attached to the theme; inSpanish nothing is attached.2) In Japanese the theme of a sentence may be an argument of the predicate, a genitive noun, or a head noun modified by an adjectiver genitive noun; in Spanish only an argument of the, predicate may be thematized.3) In Japanese the pronominalized constituent generally becomes null; in Spanish it becomes a clitic pronoun.
著者
小林 ミナ 副田 恵理子 名嶋 義直 野田 尚史 松崎 寛 桑原 陽子 佐々木 良造 三輪 譲二 奥野 由紀子 丹羽 順子 松岡 洋子 桑原 陽子
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009-04-01

本研究では,次のような独創性を持つ教材(レッスン群)を作成した。(1)「聞く」「話す」「読む」「書く」で独立している。(2)インターネット上で公開され,文法解説や指示が多言語対応になっているので独習が可能である。研究期間の5年間では,教材作成者がコンテンツを入力したり変更したりするための「管理サイト」,および,日本語学習者が利用する「利用サイト」を開発,試用し,仕様と稼働状況について確認した。それと並行して,日本語レッスン完成版を翻訳し,「中国語簡体字」「中国語繁体字」「韓国語」「英語」の各言語版を作成するとともに,日本語教師が参照するための「日本語」版を作成した。
著者
野田 尚史 小林 隆 尾崎 喜光 日高 水穂 岸江 信介 西尾 純二 高山 善行 森山 由紀子 金澤 裕之 藤原 浩史 高山 善行 森野 崇 森山 由紀子 前田 広幸 三宅 和子 小柳 智一 福田 嘉一郎 青木 博史 米田 達郎 半沢 康 木村 義之
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

現代日本語文法, 音韻論, 古典語, 方言, 社会言語学などの各分野から, 述べ19名の研究者の参加し, 古典語など, ほぼ未開拓であった領域を含む対人配慮表現の研究の方法論を次々と開拓することができた。とりわけプロジェクトの集大成である, 社会言語科学会における10周年記念シンポジウムの研究発表では高い評価を得た。その内容が書籍として出版されることが決定している。