著者
宮崎 萌未 佐々木 晶子 金行 悦子 小倉 亜紗美 木下 晃彦 中坪 孝之
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.213-220, 2015-11-30 (Released:2017-10-01)
参考文献数
21

ホンゴウソウSciaphila nana Blume(Sciaphila japonica Makino, Andruris japonica (Makino) Giesen)は、葉緑素をもたない菌従属栄養植物で、環境省のレッドリストでは絶滅危惧II類(VU)に指定されている。しかし、生態については未解明な部分が多く、また保全に関する研究もこれまでない。2009年に広島県呉市の一般廃棄物処分場建設予定地でホンゴウソウの群生が確認され、早急に保全対策を講じる必要が生じた。そこで本研究では、ホンゴウソウの生育環境を調査し、その結果をもとに移植を試みた。自生地はコナラ、ソヨゴ、リョウブ等が優占する二次林であった。ホンゴウソウの群生を横切るトランセクトに沿ってコドラート(1×1m, n=20)を設置し、環境条件とホンゴウソウ地上茎発生数との関係を調べた。重回帰分析の結果、光環境(平均空隙率)と有機物層の厚さが、自生地におけるホンゴウソウの地上茎発生数に影響を及ぼす説明変数として選択された。そこでこの結果をもとに、ホンゴウソウ個体群を有機物層ごと移植することを試みた。2012年6月および9月に、群生地点の有機物層を林床植物ごと40×40cmのブロック状に切り出し、処分場建設予定地外で植生などの類似した場所に移植した(n=15)。その結果、約一年後の2013年9月には、8ブロックで合計26本の地上茎の発生が確認され、二年後の2014年9月には8ブロックで合計66本の地上茎が確認された。以上のことから、自生地の有機物層ごと移動させる方法により、ホンゴウソウを移植できる可能性が示された。
著者
山本 和司 佐々木 晶子 中坪 孝之
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.257-262, 2012-11-30

ランタナ(シチヘンゲ)Lantana camara L.は南アメリカ原産のクマツヅラ科の低木で、観賞用に栽培されているが、逸出・野生化した個体による悪影響が世界各地で顕在化しており、IUCN(国際自然保護連合)の「世界の侵略的外来種ワースト100」に選定されている。日本では、要注意外来生物に選定され、沖縄や小笠原をはじめとする島嶼部、本州の一部地域での野生化が報告されているが、地域レベルでの分布の広がりに関する詳細な報告はない。本研究では、瀬戸内海沿岸域におけるランタナの野生化の実態を明らかにするとともに、分布の制限要因の一つと考えられる冬期の気温との関係を検討した。広島県の沿岸域と島嶼部を調査地域とし、GISで1km四方ごとに4000のメッシュに区切った。このうち、森林などランタナが植栽されていないと考えられるメッシュを除外して、約500のメッシュを抽出した。これらのメッシュごとに2010年5月から同年12月にかけて目視による調査を行った結果、100メッシュ、186ヶ所でランタナの生育を確認できた。このうちの47ヶ所は周囲の状況から逸出・野生化したものと判断された。従来の研究では、気温が頻繁に5℃を下回るところではランタナの生育は困難であるとされていたが、2011年1月は調査地域が大寒波に襲われ、ランタナが生育していたすべての地点で平均気温が5℃を大きく下回まわった。しかし、同年の7月から11月にかけて再調査したところ、ほとんどの個体の生存が確認され、ランタナの潜在的な生育可能温度域が従来の報告より広いことが示唆された。
著者
中坪 孝之
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.179-187, 1998-01-20
被引用文献数
22

広島県太田川中流の氾濫原では,イネ科帰化草本シナダレスズメガヤEragrostis curvula(ウィーピングラブグラス)が急速に優占しつつある.1991年の秋に砂州に1m×1mのコドラートを35ヶ設置し,6年間追跡調査した結果,本種が出現するコドラート数,本種の被度が50%を越えるコドラート数のいずれもが急激に増加した.1993年の長期にわたる増水は一時的な被度の低下をもたらしたが,その後の回復はすみやかで,1996年には半数以上のコドラートで本種の生育が認められた.他の帰化草本や在来種では,このような増加傾向は認められなかった.シナダレスズメガヤは多年生で大きな株になるため,増水時に水流を妨げ,結果として株の下流側にマウンド状に砂が堆積する.本種の優占度と堆積した砂の厚さの間には正の相関が認められ,分布の中心部では砂の厚さが30cm以上に達していた.また,コドラートにおける本種の優占度と出現種数の間には負の相関が認められた.本種は種間競争のみならず,立地環境そのものを改変することによって,河川氾濫原の遷移パターンを変えてしまう可能性が示唆される.
著者
江口 佳澄 佐々木 晶子 中坪 孝之
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 = Japanese journal of conservation ecology (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.119-128, 2005-12-25
参考文献数
24
被引用文献数
6

クマツヅラ科の多年生草本,アレチハナガサVerbena brasiliensis Vell.は南アメリカ原産の外来種で,近年全国的に増加傾向にある.河畔域の生態系に対する本種の影響を予測するための基礎として,広島県太田川中流域の氾濫原に成立した群落を対象に,フェノロジー,成長・繁殖様式,種子発芽特性,他の植物に村する影響について,2004年に調査を行った.本種の前年に花をつけた枝の先端部分は春までに枯死したが,春期に株もとから新たな茎葉を伸長させると同時に,前年から残る枝の節から新しい枝を伸長させ,前年の主茎が倒伏すると,新枝が新たな主茎となって開花した.また,接地して砂に被われた節から不定根を伸ばして定着する様子も観察された.秋期の洪水は調査地内の植生に大きな影響を与えたが,本種は,洪水によって倒伏した茎からすみやかに枝葉を伸長させ,短期間に開花に至ることが可能であった.種子発芽には光要求性が認められ,群落内の土壌シードバンク中には多数のアレチハナガサ種子が含まれていた.秋期の増水後には一斉発芽した実生が多数観察された.本種の被度と他の植物の被度との間には負の相関が認められ,またレタス種子を用いた検定により,弱いながら他感物質の存在が示唆された.これらの性質を総合すると,今後,河川流域においてアレチハナガサの勢力が拡大する可能性があり,早期の実態調査と対策が必要と考えられる.
著者
内藤 靖彦 ELVEBAKK Arv WIELGOLASKI フランスエミル 和田 直也 綿貫 豊 小泉 博 中坪 孝之 佐々木 洋 柏谷 博之 WASSMANN Pau BROCHMANN Ch 沖津 進 谷村 篤 伊野 良夫 小島 覚 吉田 勝一 増沢 武弘 工藤 栄 大山 佳邦 神田 啓史 福地 光男 WHARTON Robe MITCHELL Bra BROCHMANN Chirstian ARVE Elvebak WIELGOLASKI フランス.エミル 伊村 智
出版者
国立極地研究所
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

北極の氷河末端域における生態系の変動は温暖化に強く関連するといわれているがあまり研究はなされていない。とくに今後、北極は4〜5℃の上昇が予測されているので調査の緊急性も高い。本研究では3年間にわたり(1)植生及び環境条件の解明、(2)繁殖過程の解明、(3)土壌呼吸と温度特性の解明、(4)土壌節足動物の分布の解明、(5)人工環境下での成長変化の解明を目的として調査、観測が実施された。とくに気候変動がツンドラの生態系に及ぼす影響を、遷移初期段階である氷河モレーン上に出現する動物、植物の分布、定着、生産、繁殖、移動について研究を行った。調査、観測は海洋性気候を持つスバールバル、ニーオルスンの氷河後退跡地で実施した。初年度は植生及び環境条件の解明を目的として6名の研究者を派遣した。氷河末端域のモレーン帯の植物の遷移過程の研究では、氷河末端域から約50メートル離れたモレーンに数種の蘚類が認められ、これらはパイオニア植物として考えられた。種子植物は100メートル過ぎると出現し、地衣類の出現はむしろ遅いことが明らかになった。また、遷移段階の古いチョウノスケソウ群落は立地、土壌中の窒素量の化学的特性の違いによって7個の小群落に区分された。2年度は植生と環境条件の解明を引き続き実施すると共に、遷移初期段階における植物の繁殖、土壌呼吸と温度特性、土壌節足動物の生態の解明を目的として実施された。現地に6名の研究者が派遣された。観測の成果としては昨年、予備的に実施したスゲ属の生活形と種子繁殖の観察を踏まえて、本年度はムカゴトラノオの無性繁殖過程が調査された。予測性の低い環境変動下での繁殖特性や繁殖戦略について、ムカゴの色、大きさ、冬芽の状態が環境の変化を予測できるという実装的なアプローチが試みられた。パイオニア植物といわれているムラサキユキノシタは生活型と繁殖様式について調査され、環境への適応が繁殖様式に関係しているなど新たな知見が加わった。また、氷河末端域の土壌呼吸速度は温帯域の10%、同時に測定した土壌微生物のバイオマスはアラスカの10%、日本の5%程度であることが始めて明らかにされた。土壌節足動物の分布の解明においては、一見肉眼的には裸地と見なされるモレーン帯にもダニ等の節足動物が出現し、しかも個体数においては北海道の森林よりもむしろ多いなど興味深い結果が得られた。最終年度は2年度の観測を継続する形で、6名の研究者を現地に派遣した。実施項目は氷河後退域における植生と環境調査、土壌と根茎の呼吸調査、および繁殖生態調査が実施された。観測の成果としては植生と環境調査および土壌と根茎の呼吸速度の観測では興味深い結果が得られ、すなわち、観測定点周辺のポリコンの調査では植物および土壌節足動物の多様性が大きいことと、凍上および地温に関する興味深いデータが取得された。また、土壌および根茎の呼吸速度の観測では、実験室内での制御された条件での測定を行い、温度上昇に伴って呼吸速度は指数関数的に上昇するが、5度以上の温度依存性が急に高くなり、これは温帯域のものより高かった。これらを更に検証するためにより長期的な実験が必要であるが、今後、計画を展開する上で重要なポイントとなるものと考えられる。さらに、チュウノスケソウの雪解け傾度に伴う開花フェノロジー、花の性表現、とくに高緯度地域での日光屈性、種子生産の制限要因についての調査では、生育期間の短い寒冷地での繁殖戦略の特性が明らかにされた。初年度および最終年度には、衛星による植物分布の解析し環境変動、北極植物の種多様性と種分化について、ノルウェー側の共同研究者と現地で研究打ち合わせを持った他に、日本に研究者を招聘して、情報交換を行った。最後に3年間の調査、観測の報告、成果の総とりまとめを目的として、平成9年2月27、28日に北極陸域環境についての研究小集会、北極における氷河末端域の生態系に関するワークショップが開催された。研究成果の報告、とりまとめに熱心な議論がなされた。