著者
和田 誠 古賀 聖治 野村 大樹 小達 恒夫 福地 光男 Makoto Wada Seizi Koga Daiki Nomura Tsuneo Odate Mitsuo Fukuchi
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.271-278, 2011-11-30

2009年に就航した新「しらせ」には,改造した20 ftコンテナを船上実験室として搭載するスペースが確保された.第51次日本南極地域観測隊では,このコンテナ実験室の内部に大気中の硫化ジメチル濃度を測定するためのプロトン移動反応質量分析計を収納し,観測を実施した.本稿では,コンテナ実験室の概要と今後改良すべき点等について報告する.
著者
渡辺 研太郎 佐々木 洋 福地 光男
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.103-114, 1993-03

平成3年度から3年計画で, 「南極海海洋環境変動と生物過程の研究」との研究課題の下にオーストラリアと共同観測が始められた。初年度はプリッツ湾を主とした海氷域および沿岸観測基地周辺における生物生産過程の解明を研究テーマとし, H. MARCHANT博士(オーストラリア南極局)との共同研究"The production and fate of biogenic particles in the Antarctic marine ecosystem"をオーストラリア南極観測船, オーロラ・オーストラリス(RSV AURORA AUSTRALIS)の第6航海(1992年1月9日から3月27日)で行った。本研究の目的は, (1)係留実験により, プリッツ湾海氷域での低次生産およびその生産物の沈降過程の経時変化を年間を通して観測し, (2)低次生産者群集を構成する各種群の寄与を調べることである。そのため, プリッツ湾海域に時間分画式セディメントトラップおよび現場クロロフィル記録計, 海流計を係留し, かつ採水, プランクトンネットによる採集, 培養実験を実施した。また, 南大洋における優占的な一次捕食者, ナンキョクオキアミの摂餌選択性に関する電気生理学的実験を行った。
著者
工藤 栄 伊倉 千絵 高橋 晃周 西川 淳 石川 輝 鷲山 直樹 平譯 亨 小達 恒夫 渡辺 研太郎 福地 光男
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.279-296, 2002-03

第39次および第40次日本南極地域観測隊夏期行動期間中(それぞれ1997年12月4日∿12月13日及び, 1998年2月15日∿3月19日と1998年12月3日∿12月20日及び1999年2月24日∿3月19日), 南大洋インド洋区で南極観測船「しらせ」の航路に沿って表層海水をポンプ連続揚水し, プランクトンネットで3∿8時間濾過して動物プランクトン試料を得た。動物プランクトンの湿重量測定を行い, 航路に沿って現存量を整理した。連続試料採取したにもかかわらず, 隣接した試料間においても現存量の変動は大きく, 動物プランクトンの不均一分布が伺えた。動物プランクトン現存量は「しらせ」南下時に顕著に認められる海洋前線通過時にしばしばきわだって大きくなり, その前後の海域で得られた値との格差は際立っていた。これら海洋前線では水温・塩分変動が大きく, 南大洋インド洋海区を四つの海域(亜熱帯海域, 亜南極海域, 極前線海域, 南極海域)に区切っている。2回の航海で得た現存量の平均値を比較したところ, 高緯度海域ほど平均値が大きくなる傾向があり, 南極海域で最大となった。南極海域の内でもプリッツ湾沖から東方にかけての海域(東経70-110°)で現存量が大きく, これまでの停船観測結果で推察されていた同海域の生物生産性が高いことに呼応する現象と考えられた。また, リュツォ・ホルム湾沖からアムンゼン湾沖の大陸近くの航行時に得られた現存量は, より沖合部を航行する東経110-150°間に得られた値よりも1/2程小さなものであり, さらに, 東経110°以東において大陸沿岸よりを航行したJARE-39とやや沖合いを航行したJARE-40で得られたデータ間でも前者の現存量が小さく, これらから南極海域では表層水中の動物プランクトン量が生物生産期間がより短くなると考えられる沿岸部ほど小さいことが推察された。今回表層水中で連続試料採取して得られた動物プランクトン湿重量値は, 過去四半世紀間に停船観測において同海域で主にプランクトンネット採集によって得られた値と大きくは異なってはいなかった。動物プランクトン分布の正確な測定のためには動物プランクトンの鉛直分布特性など考慮する必要があるが, 海域ごとの空間分布特性や海域内での変動性などの研究には今回のようなポンプ揚水による試料採集でも適用可能な部分が多く, その研究実施方法の容易さを考慮すると今後の長期的な動物プランクトンモニタリングなどに適した手法と思われた。
著者
大野 義一朗 大日方 一夫 下枝 宣史 大谷 眞二 宮田 敬博 藤原 久子 三上 春夫 大野 秀樹 福地 光男 渡邉 研太郎 森本 武利
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.241-249, 2007-07

南極医学医療研究集会は,わが国の南極医学研究と医療問題についての研究成果を報告・討論し,次期の観測隊における医学研究に寄与することを目的として毎年行われている.2006年の本研究集会は8月26日,国立極地研究所講堂で行われた.27施設から42名が参加し18の演題報告がなされ,近年では最大規模の研究集会となった. 参加者は越冬経験医師をはじめ,共同研究を行っている大学や研究機関の研究者,関連領域の研究を行っている宇宙開発機構やスポーツ科学研究所などの研究者,南極に興味のある一般病院の臨床医など多彩であった. 2004年より昭和基地に導入されたテレビ会議システムを活用して,昭和基地の医師もリアルタイム映像で討論に参加した.また韓国,中国の越冬医師が初めて参加した.これは3カ国の極地研究所による事前の準備と連携により実現した.集会では各国の南極基地の医療状況や医学研究活動が報告され,活発な意見交換がなされた.南極医学医療研究分野におけるアジア連携の端緒となることが期待される.
著者
大野 義一朗 大日方 一夫 下枝 宣史 大谷 眞二 宮田 敬博 藤原 久子 三上 春夫 大野 秀樹 福地 光男 渡邉 研太郎 森本 武利 Giichiro Ohno Ichio Obinata Nobuhito Shimoeda Shinji Otani Takahiro Miyata Hisako Fujiwara Haruo Mikami Hideki Ohno Mitsuo Fukuchi Kentaro Watanabe Taketoshi Morimoto
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.241-249, 2007-07

南極医学医療研究集会は,わが国の南極医学研究と医療問題についての研究成果を報告・討論し,次期の観測隊における医学研究に寄与することを目的として毎年行われている.2006年の本研究集会は8月26日,国立極地研究所講堂で行われた.27施設から42名が参加し18の演題報告がなされ,近年では最大規模の研究集会となった. 参加者は越冬経験医師をはじめ,共同研究を行っている大学や研究機関の研究者,関連領域の研究を行っている宇宙開発機構やスポーツ科学研究所などの研究者,南極に興味のある一般病院の臨床医など多彩であった. 2004年より昭和基地に導入されたテレビ会議システムを活用して,昭和基地の医師もリアルタイム映像で討論に参加した.また韓国,中国の越冬医師が初めて参加した.これは3カ国の極地研究所による事前の準備と連携により実現した.集会では各国の南極基地の医療状況や医学研究活動が報告され,活発な意見交換がなされた.南極医学医療研究分野におけるアジア連携の端緒となることが期待される.A workshop on Antarctic Medical Research and Medicine 2006 was held at the National Institute of Polar Research (NIPR) on 26 August, 2006. Forty two participants from 27 institutes attended. The members consist of medical doctors with Antarctic experience, human biologists, research scientists in other fields, logistic staff members of the expedition and also medical doctors interested in Antarctica. The current resident doctor at Syowa Station joined the discussion through a telecommunication system. Doctors with Antarctic experience from China and Korea also participated in the workshop. They gave presentations on their Antarctic activities, followed by an active discussion session. Eighteen presentations were given on various topics, including the International Polar Year (IPY) 2007-2008 in medical research, space medicine, telemedicine, an international comparative study of medical operations, psychological surveys, Antarctic high-altitude medicine, Legionella surveillance and nutritional studies.
著者
和田 誠 古賀 聖治 野村 大樹 小達 恒夫 福地 光男
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.271-278, 2011-11-30

2009年に就航した新「しらせ」には,改造した20 ftコンテナを船上実験室として搭載するスペースが確保された.第51次日本南極地域観測隊では,このコンテナ実験室の内部に大気中の硫化ジメチル濃度を測定するためのプロトン移動反応質量分析計を収納し,観測を実施した.本稿では,コンテナ実験室の概要と今後改良すべき点等について報告する.
著者
内藤 靖彦 ELVEBAKK Arv WIELGOLASKI フランスエミル 和田 直也 綿貫 豊 小泉 博 中坪 孝之 佐々木 洋 柏谷 博之 WASSMANN Pau BROCHMANN Ch 沖津 進 谷村 篤 伊野 良夫 小島 覚 吉田 勝一 増沢 武弘 工藤 栄 大山 佳邦 神田 啓史 福地 光男 WHARTON Robe MITCHELL Bra BROCHMANN Chirstian ARVE Elvebak WIELGOLASKI フランス.エミル 伊村 智
出版者
国立極地研究所
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

北極の氷河末端域における生態系の変動は温暖化に強く関連するといわれているがあまり研究はなされていない。とくに今後、北極は4〜5℃の上昇が予測されているので調査の緊急性も高い。本研究では3年間にわたり(1)植生及び環境条件の解明、(2)繁殖過程の解明、(3)土壌呼吸と温度特性の解明、(4)土壌節足動物の分布の解明、(5)人工環境下での成長変化の解明を目的として調査、観測が実施された。とくに気候変動がツンドラの生態系に及ぼす影響を、遷移初期段階である氷河モレーン上に出現する動物、植物の分布、定着、生産、繁殖、移動について研究を行った。調査、観測は海洋性気候を持つスバールバル、ニーオルスンの氷河後退跡地で実施した。初年度は植生及び環境条件の解明を目的として6名の研究者を派遣した。氷河末端域のモレーン帯の植物の遷移過程の研究では、氷河末端域から約50メートル離れたモレーンに数種の蘚類が認められ、これらはパイオニア植物として考えられた。種子植物は100メートル過ぎると出現し、地衣類の出現はむしろ遅いことが明らかになった。また、遷移段階の古いチョウノスケソウ群落は立地、土壌中の窒素量の化学的特性の違いによって7個の小群落に区分された。2年度は植生と環境条件の解明を引き続き実施すると共に、遷移初期段階における植物の繁殖、土壌呼吸と温度特性、土壌節足動物の生態の解明を目的として実施された。現地に6名の研究者が派遣された。観測の成果としては昨年、予備的に実施したスゲ属の生活形と種子繁殖の観察を踏まえて、本年度はムカゴトラノオの無性繁殖過程が調査された。予測性の低い環境変動下での繁殖特性や繁殖戦略について、ムカゴの色、大きさ、冬芽の状態が環境の変化を予測できるという実装的なアプローチが試みられた。パイオニア植物といわれているムラサキユキノシタは生活型と繁殖様式について調査され、環境への適応が繁殖様式に関係しているなど新たな知見が加わった。また、氷河末端域の土壌呼吸速度は温帯域の10%、同時に測定した土壌微生物のバイオマスはアラスカの10%、日本の5%程度であることが始めて明らかにされた。土壌節足動物の分布の解明においては、一見肉眼的には裸地と見なされるモレーン帯にもダニ等の節足動物が出現し、しかも個体数においては北海道の森林よりもむしろ多いなど興味深い結果が得られた。最終年度は2年度の観測を継続する形で、6名の研究者を現地に派遣した。実施項目は氷河後退域における植生と環境調査、土壌と根茎の呼吸調査、および繁殖生態調査が実施された。観測の成果としては植生と環境調査および土壌と根茎の呼吸速度の観測では興味深い結果が得られ、すなわち、観測定点周辺のポリコンの調査では植物および土壌節足動物の多様性が大きいことと、凍上および地温に関する興味深いデータが取得された。また、土壌および根茎の呼吸速度の観測では、実験室内での制御された条件での測定を行い、温度上昇に伴って呼吸速度は指数関数的に上昇するが、5度以上の温度依存性が急に高くなり、これは温帯域のものより高かった。これらを更に検証するためにより長期的な実験が必要であるが、今後、計画を展開する上で重要なポイントとなるものと考えられる。さらに、チュウノスケソウの雪解け傾度に伴う開花フェノロジー、花の性表現、とくに高緯度地域での日光屈性、種子生産の制限要因についての調査では、生育期間の短い寒冷地での繁殖戦略の特性が明らかにされた。初年度および最終年度には、衛星による植物分布の解析し環境変動、北極植物の種多様性と種分化について、ノルウェー側の共同研究者と現地で研究打ち合わせを持った他に、日本に研究者を招聘して、情報交換を行った。最後に3年間の調査、観測の報告、成果の総とりまとめを目的として、平成9年2月27、28日に北極陸域環境についての研究小集会、北極における氷河末端域の生態系に関するワークショップが開催された。研究成果の報告、とりまとめに熱心な議論がなされた。