著者
松井 唯 生藤 大典 中山 雅人 西浦 敬信
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J97-A, no.4, pp.304-312, 2014-04-01

パラメトリックスピーカは振幅変調した超音波を利用する超指向性スピーカであり,鋭い音響ビーム(可聴領域)によりオーディオスポットを実現している.しかし,特定の受聴者のみに音を届けたい場合,可聴領域は直線状となるため,壁や床などの反射,非対象者の割り込みにより対象者以外にもオーディオスポットが形成される問題点があった.ここで,振幅変調波は周波数領域においてキャリア波と側帯波の重ね合わせであり,その相互作用により可聴音が復調されることに着目する.本論文では,複数のパラメトリックスピーカよりキャリア波と側帯波をそれぞれ分離放射し,キャリア波と側帯波が重なる領域のみでオーディオスポットを形成する手法を提案する.また,提案手法では,側帯波を帯域分割して複数のパラメトリックスピーカからそれぞれ分離放射,ある領域でのみ交点を結ぶことで,側帯波同士の差音により発生する混変調ひずみを低減させ,多数のパラメトリックスピーカを利用してオーディオスポットを形成することによって再生音圧レベルの向上を行った.実環境における評価実験の結果,提案手法によるオーディオスポット形成の有効性を確認した.
著者
福森隆寛 堀井圭祐 中山雅人 西浦敬信 山下洋一
雑誌
研究報告音声言語情報処理(SLP)
巻号頁・発行日
vol.2013-SLP-96, no.6, pp.1-8, 2013-05-16

実環境下での音収録において,周囲の雑音が目的信号に混入し音質が大きく劣化するという問題がある.そのため,収録した音を受聴する場合,混入雑音を抑圧し目的音のみを強調することが重要である.単一マイクロホンでの音収録における雑音抑圧手法としては,SS (Spectral Subtraction) が一般的に利用されている.SS は低演算コストで雑音を抑圧できるが,ミュージカルノイズと呼ばれる聴感上不快な雑音が発生する.そこで,SS を用いて雑音抑圧後の信号を受聴する場合,ミュージカルノイズを発生させずに混入雑音を抑圧する必要がある.これまで,ミュージカルノイズ低減のために SS を反復する手法が提案されており,その有効性が確認されている.しかし,これらの手法では全周波数で一様に雑音を抑圧しており,周波数毎に雑音抑圧量を制御することで更なるミュージカルノイズの低減が期待される.そこで,本研究ではミュージカルノイズが発生しない雑音抑圧手法の構築を目指して,聴覚特性に基づく反復 SS を提案する.提案法の有効性を確認するために,客観・主観評価実験を実施した.各評価実験の結果,提案法は従来法と比較して高い雑音抑圧性能を達成しつつ,主観的にミュージカルノイズを低減できた.
著者
耿 毓庭 王 浩南 中山 雅人 西浦 敬信
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J105-D, no.3, pp.196-207, 2022-03-01

パラメトリックスピーカ(PAL)は超音波を利用することで,鋭い放射特性を有するが,低周波数帯域での音の再生が困難であるという問題がある.この問題は,一般的な動電型スピーカで低周波数帯域を補償することで解決できるが,低周波数帯域において鋭い放射特性を失う問題がある.そこで,本論文ではマルチウェイ構造に着目し,広帯域で平坦な周波数特性を実現できるマルチウェイPALを提案する.提案手法では,低周波数帯域と高周波数帯域をそれぞれ専用のWoofer PALとTweeter PALで再生する.従来の変調方式ではPALの低周波数帯域で音を再生することは難しかったが,提案手法ではWoofer PALを大型化,Woofer PALとTweeter PALの適切な配置,Woofer PALとTweeter PALに適した変調方式を用いることで,広帯域で平坦な周波数特性を実現する.評価実験の結果,提案したマルチウェイPALの有効性を確認した.
著者
旭 浩平 森 海里 中山 雅人 西浦 敬信
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J104-D, no.4, pp.186-197, 2021-04-01

パラメトリックスピーカは,音響信号の振幅によりキャリアと呼ばれる超音波を変調した振幅変調波を大音圧で放射することで超指向性を実現する.振幅変調波を放射すると,空気の非線形性により,音響信号が自己復調する.しかしながら,パラメトリックスピーカは空気の非線形性に基づいて音響信号を復調しているため,復調音の音圧が小さい.また,パラメトリックスピーカから振幅変調波を長時間放射することにより,超音波素子の疲労破壊が発生し,周波数ピーク雑音が発生する.そこで,本論文ではアドバンスドキャリアを用いてこれら問題を解決する手法を提案する.アドバンスドキャリアとはパラメトリックスピーカのもつ各問題点を解決するための最適なキャリアであり,キャリアの波形や周波数を目的に合わせて制御する特徴をもつ.具体的には,復調音の音圧を改善するために,キャリアの波形がもつエネルギーを増幅した矩形アドバンスドキャリアを最初に提案する.次に,周波数ピーク雑音を低減するために,キャリア周波数が超音波素子の共振周波数を中心に時間遷移する周波数アドバンスドキャリアを提案する.評価実験の結果,各提案手法の有効性を確認した.
著者
福森 隆寛 吉元 直輝 中野 皓太 中山 雅人 西浦 敬信 山下 洋一
出版者
一般社団法人 日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.71, no.11, pp.590-598, 2015

近年急速に発展するディジタル技術を用いて日本の文化資源を保存・再現するディジタルアーカイブが注目視されており,これまでに有形文化財に対するディジタルアーカイブの研究が精力的に進められてきた。一方,無形文化財(特に歴史的文化財の音空間)のディジタルアーカイブの研究は,まだ創世期の段階で手がつけられておらず,日本の歴史的文化財の保存・伝承という観点から無形文化財のディジタルアーカイブは急務である。そこで本研究では日本無形文化財の一つである京都祇園祭に着目し,ActionScriptを用いて日本無形文化財の音場体験システムを開発した。はじめに日本無形文化財の京都祇園祭のディジタルアーカイブを目指して,京都祇園祭の山鉾巡行(約4kmにも及ぶ経路を山鉾が4〜5時間かけて巡行)の音響素片を収集した。そして,祇園祭の巡行経路を体験者が指定することで,その経路上のお囃子が体験できるインタラクティブWebシステムを開発した。
著者
生藤 大典 中山 雅人 西浦 敬信 山下 洋一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告 = IEICE technical report : 信学技報 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.114, no.112, pp.13-18, 2014-06-27

我々は,これまでに高い臨場感を容易に与えることのできる3次元音場再生技術として,パラメトリックスピーカの超指向性を利用する静止音像構築手法を提案してきた.この手法はパラメトリックスピーカからの再生音を部屋の壁や床,天井に反射させることで,あらゆる方向からの音の到来を表現できる.しかしながら,パラメトリックスピーカの放射方向を連続的に制御できないため,移動音像の表現が困難であった.そこで本稿では,パラメトリックスピーカによる移動音像の実現に向けて,曲面状に超音波素子を配置した曲面型パラメトリックスピーカによる移動音像構築手法を提案する.人は音像の方向を知覚する際,両耳間の音圧差を手掛かりとし,その音圧差が連続的に変化するとき音像の移動を知覚する.そこで提案手法では,信号が入力される超音波素子を隣接順に切り替えることで,パラメトリックスピーカ本体を動かすことなく放射方向を制御し,受聴者周辺の音圧分布の制御を行う.評価実験の結果,提案手法により連続的に移動する音像を構築可能であることを確認した.
著者
西浦 敬信 南條 浩輝 森勢 将雅 中山 雅人
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

危機的状況を的確に検知して周囲に報知するシステムは,安全安心な社会基盤の構築には必要不可欠である.特に人は危機的状況下では叫ぶ習性があることから,本研究では叫び声や異常音などの危機情報を検知し周囲に報知する危機検知・警報システムの基盤形成を試みた.具体的には(1)音環境における叫び声や異常音など危機情報の検知(2)検知した危機情報の構造化と理解(3)危機情報を報知するための警報音の設計(4)上記を統合した危機情報の検知・警報システムの構築に対して研究を実施し,その有効性を確認した.
著者
西浦 敬信 善本 哲夫 中山 雅人
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

ある特定の領域にのみ音波を放射できるパラメトリックスピーカを用いて,音空間の任意の場所における立体的な音像(3D音像ホログラム)を実現した.特に放射板を自由に形状変形可能なフレキシブルパラメトリックスピーカを開発した上で,複数のフレキシブルパラメトリックスピーカを用いて「キャリア波」と「側帯波」を分離放射することで音空間に3D音像ホログラムを構築した.さらに社会実装実験を通じて活用シーンも調査・検討し,音空間上の任意の場所に構築可能な3D音像ホログラムの総合開発を試みた.
著者
中山 雅人 松井 唯 西浦 敬信
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. EA, 応用音響 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.112, no.388, pp.25-30, 2013-01-17

近年,超音波を利用することで超指向性を実現できるパラメトリックスピーカが注目されている.パラメトリックスピーカは超音波を可聴音波で変調した振幅変調波を放射し,振幅変調波が空気の非線形性により目的とする可聴音波に自己復調する原理で駆動する.パラメトリックスピーカより復調する可聴音波は,キャリア波と側帯波との差音として考えることができる.そこで本研究では,振幅変調波をキャリア波と側帯波に分離して,異なる方位よりそれぞれ放射することで,特定の領域のみで可聴音波を復調させることで再生領域の制御を試みる.さらに本稿では,パラメトリックスピーカを複数に増やすことで,側帯波による高調波歪みの影響の軽減を試みる.最後に,実環境における評価実験を行い,提案手法の有効性を確認した.
著者
小川 純平 林田 亘平 中山 雅人 森勢 将雅 西浦 敬信 山下 洋一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. EA, 応用音響 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.112, no.47, pp.167-172, 2012-05-17
参考文献数
10

近年,高齢者を狙う悪質犯罪の増加に伴い,家族が遠隔地から高齢者の危機的状況を確認するために環境音を利用した異常検出システムが注目されている.従来,環境音識別において,環境音を音の種類ごとに分類して音響モデルを構築し,その音響モデルにより環境音を識別する手法が用いられてきた.従来法では,非日常音に対しても日常音と同様に個々に音響モデルを構築している.しかしながら,非日常音は,観測可能なサンプル数が少ないため,音響モデルの学習が不十分だという問題と類似音の識別が困難であるという問題が存在する.また,従来法では残響の存在しない音(ドライソース)を学習環境音として用いていたため,残響下の環境音を頑健に識別することが困難であった.そこで本研究では,非日常音を高精度に識別するためにマルチステージ非日常音識別法を,残響下の環境音を高精度に識別するために模擬インパルス応答を用いた残響マルチコンディションモデルを提案する.