著者
眞子 裕友 小針 統 久米 元 兵藤 不二夫 野口 真希 一宮 睦雄 小森田 智大 河邊 玲 中村 乙水 米山 和良 土田 洋之
出版者
日本プランクトン学会
雑誌
日本プランクトン学会報 (ISSN:03878961)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.18-24, 2022-02-25 (Released:2022-03-06)
参考文献数
38

The prey of whale sharks (Rhincodon typus) visiting the northern Satsunan area (western North Pacific Ocean) was investigated using microscopic and metabarcoding analysis of their faecal pellets. The stable isotope ratios of the dorsal fin and faecal pellets from the whale sharks were compared with those of their potential prey (plankton and fish larvae). Microscopic analysis identified protozoans (foraminifera) and metazoans (copepods, ostracods, and amphipods) but unclassified material was predominant in their faecal pellets. Metabarcoding analysis detected metazoans in the faecal pellets, represented by copepods, ostracods, amphipods, hydrozoans, and tunicates. Comparison of stable isotope ratios (δ13C and δ15N) from their dorsal fin and faecal pellets with those of zooplankton in the northern Satsunan area showed different feeding histories for the whale sharks appearing in the northern Satsunan area.
著者
吉田 誠 阿部 貴晃 菊地 デイル万次郎 木下 千尋 中村 乙水
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.95, 2022 (Released:2022-04-11)
参考文献数
106

飛翔および遊泳する動物にとって、移動時のエネルギーコストを低く抑えることは重要である。移動コストは、ある地点から別地点に到達するまでに必要な運動コストと、移動中に体内の恒常性維持のため消費される代謝コストからなる。代謝コストは移動時間に比例して増加するため、運動コストと代謝コストの間には移動時間を介したトレードオフが生じる。温度環境に応じて代謝コストが変動する外温動物の場合、自身の適温範囲外に滞在できる時間は限られ、こうした制約(体内と体外における環境差)も動物の移動範囲を規定する要因となる。近年、バイオロギングやバイオメカニクス分野の発展により、野外で暮らす動物の移動コストが、動物自身の形態や移動様式により巧妙に低減されている様子がわかってきた。多くの水生動物に見られる抵抗の少ない形状や、流体中における特徴的な移動方法は、個体が移動する際に生じる抵抗を抑え、運動コストを低減する。野外で観察される様々な動物の移動パターンは、運動コストと代謝コストの和(cost of transport)を最少化するような理論的予測とよく一致する。本稿ならびに本特集で紹介してきた、エネルギーコストを指標として、動物の行動を捉え直す試みは、動物の形態や、様々な時空間スケールで繰り広げられる個体の移動様式を統一的に理解し、変わりゆく環境下に置かれる動物個体群の将来を予測する有用なアプローチとなるだろう。
著者
中村 乙水
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.85, 2022 (Released:2022-04-11)
参考文献数
46

海洋環境は深度によって温度が大きく異なり、水柱内を自由に移動する能力のある魚類は深度を変えることで能動的に体温を調節することができる。また、身体が大きい魚ほど熱慣性が大きくなり、好適温度外の環境中に滞在できる時間が長くなる。本研究では、魚類が好適温度外の環境にいる餌を利用する際の効率的な採餌様式について、深い潜水を行って深海性のクラゲ類を食べるマンボウMola molaを例として、体温調節の観点から考察した。マンボウが潜水を行って餌のいる低水温の深場で採餌した後に高水温の海面付近で体温を回復することを1回の潜水サイクルと定義し、潜水時間を変化させた時に餌場滞在時間、移動時間、海面滞在時間の時間割合がどのように変化するかのシミュレーションを行った。潜水時間が短いと移動時間の割合が増え、潜水時間が長いと体温回復に要する時間の割合が増加し、餌場滞在時間を最大にするような潜水時間が得られた。この潜水時間は、餌場が深くなるほど長くなり、また体サイズが大きくなるほど長くなると推定された。これは餌資源ではなく熱資源を効率的に利用することで採餌に充てられる時間を最大化するという最適採餌理論の一例になると考えられる。
著者
刀祢 和樹 都澤 拓 工藤 謙輔 佐々木 幾星 WEI-CHUAN CHIANG HSIN-MING YEH 中村 乙水 米山 和良 坂本 崇 阪倉 良孝 菊池 潔 河邊 玲
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
pp.22-00026, (Released:2022-12-29)
参考文献数
25

薩南海域におけるカンパチ成魚の遊泳行動を取得し,台湾東部海域の既往知見と比較した。薩南海域の個体は台湾東部の個体よりも移動範囲が狭く,放流した海域の近傍に留まり続けていた。海域間で滞在深度は異なっていたが経験水温は同程度であった。核DNAのITS領域とmtDNAのcytochrome b領域の塩基配列情報を用いて標識個体の種判別を試みたところ,形態的にはカンパチであるにも関わらず,ヒレナガカンパチと同様のcytochrome b領域のPCR-RFLPパターンを示す個体が見られた。
著者
中村 乙水
出版者
長崎大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

海洋は鉛直方向に変動が激しく、特に表層から深度数百メートルまでは温度環境が大きく変化する。外洋性魚類の中には表層を主な生活圏としながらも、深海で餌を食べるものが多く知られており、外洋性魚類の鉛直移動パターンを解釈するためには、採餌だけでなく温度環境を利用した体温調節も含める必要がある。本研究は、外洋性魚類の鉛直移動パターンと体温および採餌行動を野外で計測し、体温調節と採餌戦略から鉛直移動パターンの要因を探ることを目的としている。今年度はサメ類とマンボウ類を対象に野外放流実験を行った。マンボウ類では、台湾水産試験所と共同でヤリマンボウの放流実験を行った。装着期間の関係で摂餌行動は記録されなかったが、世界初記録の詳細な行動と体温データが得られた。ヤリマンボウの体温は海面水温30℃に対して16~24℃と低く保たれており、体温を調節するために好適な深度帯を選んでいることが示唆された。サメ類では、かごしま水族館と共同でジンベエザメ1個体に行動記録計、体温計とビデオカメラを装着して放流し、摂餌行動と体温変化のデータを得ることができた。ジンベエザメは主に海面付近に滞在し、時折深度200mを越えて潜降していたが、摂餌行動は海面付近でしか見られらなかった。水温は海面が30℃、深度400m付近で10℃と20℃の差を経験していたが、体温は26~29℃と狭い範囲に保たれていた。また、海面水温30℃よりは体温は常に1~3℃低く保たれていた。海面付近でしか摂餌行動が見られなかったことと併せて考えると、海面水温が高い海域では、餌が豊富だがジンベエザメにとって暑すぎる海面付近に滞在するためにジンベエザメは潜って体温を下げていることが示唆された。
著者
刀祢 和樹 都澤 拓 工藤 謙輔 佐々木 幾星 WEI-CHUAN CHIANG HSIN-MING YEH 中村 乙水 米山 和良 坂本 崇 阪倉 良孝 菊池 潔 河邊 玲
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.22-33, 2023-01-15 (Released:2023-02-07)
参考文献数
25

薩南海域におけるカンパチ成魚の遊泳行動を取得し,台湾東部海域の既往知見と比較した。薩南海域の個体は台湾東部の個体よりも移動範囲が狭く,放流した海域の近傍に留まり続けていた。海域間で滞在深度は異なっていたが経験水温は同程度であった。核DNAのITS領域とmtDNAのcytochrome b領域の塩基配列情報を用いて標識個体の種判別を試みたところ,形態的にはカンパチであるにも関わらず,ヒレナガカンパチと同様のcytochrome b領域のPCR-RFLPパターンを示す個体が見られた。
著者
中村 乙水
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

外温性魚類は外界の水温を使って体温を調節しているが、冷水中で失った体温を回復する際には熱の交換が活発になるなど、なんらかの生理的な調節によって外界との熱の交換を調節していることが示唆されている。仮説としては、「鰓が熱交換器として働いており、血流や海水の流量を変化させることで熱の交換を調節している」ことが考えられる。そこで、生きた魚に体温調節が必要な温度環境を経験させ、動物搭載型記録計を用いて魚の体温、心拍といった生理情報を計測する飼育実験を行った。今年度は、コバンザメ類の一種であるナガコバンを用いて飼育実験を行った。コバンザメ類は宿主である大型魚類によって低水温の深海まで連れて行かれると考えられるため、低水温化で熱を失わないような調節を行っている可能性を考慮して実験対象とした。ナガコバンに体温と心拍数を記録するデータロガーを装着し、飼育水温(25℃)と低水温環境(15℃、10℃、5℃)を交互に経験させ、体温と心拍数および鰓蓋の運動を観察によって記録した。ナガコバンの心拍数は定常状態で60bpmだったが、低水温環境では5bpm以下、その後の体温回復期には100bpm以上まで上昇した。低水温環境下では鰓蓋の運動も停止することがあった。体温変化と水温から熱収支モデルを用いて熱交換係数の変動を推定したところ、熱交換係数と心拍数には相関が見られたが、冷える時と温まる時で1.3倍程度の違いしか見られなかった。大型のマンボウやジンベエザメでは3~7倍の違いが見られたことから、小型の魚では熱の損失を防ぐ能力が高くないことが示唆された。来年度以降は他の魚種でも同様の実験を行うとともに、野外での心拍数の計測も試みる予定である。