- 著者
-
中澤 信彦
- 出版者
- 關西大学經済學會
- 雑誌
- 關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
- 巻号頁・発行日
- vol.71, no.4, pp.215-235, 2022-03-10
本稿は初期(マンチェスター期)エンゲルスにおけるマルサス人口理論批判の形成過程を明らかにするべく、「ロンドン便り」(1843)、「国民経済学批判大綱」(1844)、『イギリスにおける労働者階級の状態』(1845)の3作品を取りあげて、それぞれにおけるマルサス批判をその文献的源泉に注目しながら検討した。若きエンゲルスがマルサス人口理論への批判を形成していくにあたり、ジョン・ウォッツの『経済学者の事実と虚構』(1842)への依拠がかなり大きかった、とする見解が今日では有力であるが、本稿はむしろ、若きエンゲルスにとって、それと並んで、あるいはそれ以上にロバート・サウジーの『人口論』第2版への書評(1804)から受けた巨大な影響の可能性を指摘した。このサウジーの書評は「貧民の敵」としてのマルサス像の起点に位置づけられる、経済学史・人口学史上きわめて重要な文献であるが、それだけにとどまらず、マルクス主義と人口問題(およびマルサス)との不幸な関係の発生の始源に位置する、マルサス批判の国際的展開(受容と変容)を考える際の最重要文書でもあったと考えられる。