- 著者
-
岩井 淳
- 出版者
- 群馬大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2003
実験用匿名保証型DSSを以下の形式的仕様で構築した(主にWeb技術とRDBを基礎に用いた)。参加者集合M(Mn,n=1..N),ハンドルネーム集合H(Hn,n=1..N),発言集合D(Dx,x=1..d_max),評価選択肢集合C(Cy,y=1..c_max)とし(括弧は要素),HnのDxへのz回目の評価をEz(Hn,Dx)とする(型はCの要素の組。最新のEz(Hn,Dy)をEont(Hn,Dy)とする)。MとH間の1対1対応は管理者を含め隠蔽される。Dの要素別に各Hnの評価系列を公開するが,特にEont(Hn,Dy)を整形して表示する形式とした。前提する過程は以下の通り。1)テーマ設定,2)多数案に対する「検討保証」等の価値設定,3)協力者へのハンドルネームのランダム設定,4)討議(署名評価)。匿名保証型DSSの議論の質への貢献をA)反対案や代替案の提出が増し,B)無責任な発言が抑制されるか否かの観点から実験的に検討した。商工会議所(意見提出先等でなく全職員の討議参加)等の協力で市民対象の利用実験を3度行った。協力者はファシリテータを除き計132名。この他に各132名の学生実験を2度行った。学生実験も含め,結果過程から以下の点を見出した。a)意見総数は増加しなかった,b)他者の意見への評価傾向が同様の実名実験と比べ変化した(本心の評価と判断される),c)無責任な問題発言は生じなかった。以上,従来理論のみであった匿名保証型DSSの最初の実験データを得た。A)に弱く,B)に強い肯定的結果となった。実験結果に関して,ハンドルネームを用いた署名評価とその公表には,匿名でも品行方正を促す効果と,自然な発言を抑制する効果の双方があると仮説を立てた。また,後者の抑制は,対立点の強調を避ける心理の表れであり,意見相互の収斂支援の技術を加えることで改善できると予想した。同技術は今後の課題である。本研究のDSS設計は現時点でも国際的に独創性が高く,実用化の見込も大きい。また,プライバシ保全技術としての応用可能性も現れている。