著者
加藤 俊治 乙木 百合香 仲川 清隆
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.22, no.6, pp.287-295, 2022 (Released:2022-06-07)
参考文献数
24

質量分析においてエレクトロスプレーイオン化(ESI)法は,汎用性の高いイオン化法の一つである。ESIの特徴の一つとして,イオン源において様々な付加体を形成しやすい点があり,一般的に[M +H]+,[M+NH4]+,[M+CH3COO]-などが分析に用いられる。一方で,試料などを由来とする金属イオンも容易に目的化合物に配位し,[M+Na]+や[M+K]+などの金属イオン付加体を形成する。こうした金属イオンの配位はcation-π電子相互作用によるものと考えられ,配位箇所はH+やNH4 +などと異なる。加えて,金属イオンの配位によってもたらされる原子間距離や水素結合の変化もH+やNH4 +などによる変化とは異なり,それゆえ金属イオンに特徴的なフラグメンテーションが引き起こされる。興味深いことに金属イオンの種類によってもフラグメンテーションは異なり,本原理を用いたユニークな構造解析法がいくつか報告されている。本総説では先ず化合物と金属イオンの付加原理について述べ,次に金属イオン付加体を活用した脂質の構造解析例について紹介する。
著者
北野 泰奈 本間 太郎 畠山 雄有 治部 祐里 川上 祐生 都築 毅 仲川 清隆 宮澤 陽夫
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.73-85, 2014 (Released:2014-04-21)
参考文献数
52
被引用文献数
26 26

日本人の食事 (日本食) は健康食として世界中に認知されている。しかし, 日本では食の欧米化が進行し, 現代日本食が本当に有益か疑わしい。そこで本研究では, 時代とともに変化した日本食の有益性を明らかにするため, 2005年, 1990年, 1975年, 1960年の日本食を調理・再現し, これをマウスに4週間与えたところ, 1975年日本食を与えたマウスで白色脂肪組織重量が減少した。肝臓のDNAマイクロアレイ解析より, 1975年日本食を与えたマウスは糖・脂質代謝に関する遺伝子発現が増加しており, 代謝の活性化が認められた。次に, 各日本食のPFCバランス (タンパク質・脂質・炭水化物のエネルギー比率) を精製飼料で再現し, 上記と同様な試験を行ったところ, 群間で白色脂肪組織重量に大きな差は認められなかった。以上より, 1975年頃の日本食は肥満発症リスクが低く, これは食事のPFCバランスに依存しないことが明らかとなった。
著者
北野 泰奈 中村 祐美子 卾 爽 畠山 雄有 山本 和史 坂本 有宇 都築 毅 仲川 清隆 宮澤 陽夫
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.182-190, 2015-04-10 (Released:2015-05-31)
参考文献数
53

我々は最近,1975年頃の日本食は現代の日本食に比べて健康有益性が高いことを示した.1975年日本食の特徴のひとつに肉類の摂取量が低いことがあげられる.そのため,肉類を他の食品と置換することで,健康有益性の増加が期待できた.そこで本研究では,現代の日本において広く食べられている「ソーセージ」を伝統的な日本の食品である「かまぼこ」に置換することによる効果を,ラットを用いて検討した.凍結乾燥·粉末化した「ソーセージ」または「かまぼこ」を通常飼育食に重量当たり20%混合し,SD系ラットに4週間与えた.その結果,「ソーセージ」群に比べて「かまぼこ」群において,血漿と肝臓における脂質量と過酸化脂質量が低下した.次に,「かまぼこ」のタンパク質·脂質·炭水化物のエネルギーバランスと塩分を精製飼料のみを用いて再現した「mimicかまぼこ」を作製した.これを通常飼育食に混合し,ラットに4週間与えた.その結果,「mimicかまぼこ」群に比べて「かまぼこ」群で脂質量と過酸化脂質量が低下した.以上より,「ソーセージ」を「かまぼこ」で置換することは脂質量と過酸化脂質量を低減するために健康有益性が増加することが示され,この効果は「かまぼこ」のエネルギーバランスのみに依存しないことが示唆された.
著者
永塚 貴弘 西田 浩志 仲川 清隆 宮澤 陽夫
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.17, no.6, pp.261-268, 2017 (Released:2019-08-05)
参考文献数
34
被引用文献数
1

こめ油には不飽和ビタミンEトコトリエノール (T3),フェルラ酸(FA),γ-オリザノール, 植物ステロールなどの食品成分が豊富に含まれていることから,こめ油の健康機能性が注目を集めている。 我々はT3の抗血管新生やテロメラーゼ阻害を報告し,T3が高い抗がん作用を有することを明らかにしてきた。T3は4種の異性体の間で生理活性の強さが異なり,δ-T3が最も高い抗がん効果を示す。T3は通常のビタミンEであるトコフェロールと比較してバイオアベイラビリティが低いため,T3の生理活性を相乗的に高める化合物が精力的に探索されている。本総説では,こめ油成分であるT3とFAを活用した相乗的ながん抑制作用について紹介する。
著者
都築 毅 武鹿 直樹 中村 祐美子 仲川 清隆 五十嵐 美樹 宮澤 陽夫
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.255-264, 2008 (Released:2009-01-30)
参考文献数
41
被引用文献数
24 28

日本人の食事は世界から健康食として注目されている。しかし,日本人の食事をニュートリゲノミクス手法を用いて遺伝子発現レベルで,欧米の食事と比較し評価した研究はない。そこで本研究は,「日本食」と「米国食」を飼料としてラットへの給与試験を実施し,DNAマイクロアレイを用いて両食事の肝臓遺伝子発現レベルの相違を網羅的に検討した。日本食(1999年)と米国食(1996年)の献立を作成し,調理し,凍結乾燥粉末に調製したものを試験試料とした。ラットに3週間これを摂取させ,肝臓から総RNAを抽出し,DNAマイクロアレイ分析を行った。その結果,日本食ラットは米国食ラットと比べてストレス応答遺伝子の発現量が少なく,糖・脂質代謝系の遺伝子発現量が多かった。とくに,日本食では摂取脂質量が少ないにもかかわらずコレステロール異化や排泄に関する遺伝子の発現量が顕著に増加していて,肝臓へのコレステロール蓄積が抑制された。よって日本食は米国食と比べて,代謝が活発でストレス性が低いことから,日本食の健康有益性が推察された。
著者
本間 太郎 北野 泰奈 木島 遼 治部 祐里 川上 祐生 都築 毅 仲川 清隆 宮澤 陽夫
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.10, pp.541-553, 2013-10-15 (Released:2013-11-30)
参考文献数
53
被引用文献数
5 27

日本は長寿国であり,日本の食事である「日本食」は,健康有益性が高いと考えられる.しかし,ここ50年ほどで日本食の欧米化が進行し,健康有益性に疑問が持たれる.本研究では,健康有益性の高い日本食の年代を同定するため,様々な年代の日本食の健康有益性について,特に脂質・糖質代謝系に焦点を当てて検討した.国民健康・栄養調査に基づき2005年,1990年,1975年,1960年のそれぞれ1週間分の食事献立を再現し,調理したものを粉末化した.各年代の日本食をそれぞれ通常飼育食に30%混合して正常マウスであるICRマウスと老化促進モデルマウスであるSAMP8マウスに8ヶ月間自由摂取させた.その結果,両系統のマウスとも1975年の日本食含有飼料を摂取した群(75年群)において白色脂肪組織への脂質蓄積が抑制された.このメカニズムを探るため,脂質代謝において中心的な働きをする肝臓に対してDNAマイクロアレイ解析を行った結果,ICRマウスの75年群において,エネルギー消費を促進する遺伝子の発現が促進されていた.そして,SAMP8マウスの75年群において,トリアシルグリセロールの分解や脂肪酸合成の抑制,コレステロールの異化を促進する遺伝子の発現が促進されていた.以上より,1975年頃の日本食の成分は,現代日本食の成分に比べてメタボリックシンドローム予防に有効であることが示唆された.
著者
宮澤 陽夫 仲川 清隆 木村 ふみ子
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

本研究はプラズマローゲン(Pls)の脳神経細胞死抑制作用について、細胞実験、機器分析、動物実験を用いて解明することを目的として実施した。細胞実験によりPlsの脳神経細胞アポトーシス抑制作用の証明を行うとともに、LC-MS/MSによるPls分子種の生体組織と食品中の分析法を検討し、最も抗アポトーシス効果の強いDHA含有Plsのスクリーニングを行った。また、アルツハイマーモデルラットを作成し、海産物由来Plsの投与試験を行い記憶学習能維持効果を確認した。
著者
宮澤 陽夫 仲川 清隆 都築 毅 及川 眞一 岡 芳知 荒井 啓行 下瀬川 徹 木村 ふみ子
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2008

生体の脂質は酸化されると過酸化脂質(脂質ヒドロペルオキシド)を生じる。これが細胞や臓器機能の低下、動脈硬化、認知症の要因になることを、化学発光分析、質量分析、培養細胞試験、動物実験、ヒト血液分析で証明した。食品からの、ビタミンE 、ポリフェノール、カロテノイドの摂取は、これらの脂質過酸化を抑制し、老化性の疾病予防に有効なことを明らかにした。