著者
針原 伸二 住 斉 井原 邦夫 伊藤 繁
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009-04-01

日本人は先住の縄文人(狩猟採集民)と後入り渡来系弥生人(水田稲作民)の混血により成立した。渡来系弥生人は、今から3千~2千5百年前、大陸から朝鮮半島を経て、北九州近辺に入って来た。大陸の先進文化(稲作技術や金属器など)を携えていた。やがて彼らは縄文人を圧倒するようになり、更に日本列島上を東に進んで、3世紀末に畿内で大和朝廷を打ち立てた。それでは、縄文人の遺伝子は現代日本人の中にどれほど残っているんだろうか?また、山地や東北地方にはそれが多く残っているのではなかろうか?母方由来で伝わるミトコンドリアDNAの多型を使って、この質問に答えるための基礎理論を開拓し、その答を初めて明らかにした。
著者
住 斉 宇津巻 竜也 伊藤 繁 石浦 正寛 針原 伸二
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.64, no.12, pp.901-909, 2009
参考文献数
20

住は2006年春の定年後は故郷のためになることをしたいと思い,專門の理論物理から離れ,故郷の飛騨で人々のルーツをDNA解析により探る研究を始めた.大学勤務最後の十年間は光合成を研究していた縁で,住物を専門とする宇津巻,伊藤,石浦と連携でぎた.光合成の逆反応は呼吸で,呼吸を司る細胞内小器官ミトコンドリアは独自のDNAを持つ.その解折により,この15年程の間に現代人のルーツが根本的に書き換えられたことにも注且していた.この縁で,針原からDNA解析を教えて貰うことができた.この研究は,日本各地の縄文系対弥生系人口比率の決定につながった.それは太古以来の日本人成立過程を記録していることが明らかになった.
著者
住 斉
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.46, no.11, pp.911-918, 1991-11-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
34
被引用文献数
2

化学反応の速度に関する最も標準的な理論は, Eyringに始まる遷移状態理論である. この理論は, 反応の進行中に反応の始状態内の熱平衡が常に保たれていることを仮定している, ところがこの十年程の間に, 溶媒中の反応ではこの仮定が成立しない場合があることが次々と明らかになってきた. その原因は, 例えば水中の反応では, 溶質分子が水和状態を作り, その熱揺らぎがゆっくりしていることにある. 溶媒中の反応は, 化学反応の内で最も基本的なものの一つである. そのため, それらにも適用できるより一般性を持つ反応速度の式を求めて, 理論・実験の両面で活発な議論が展開されるようになってきた. その経過を紹介しよう.
著者
南後 守 大倉 一郎 住 斉 野澤 康則 垣谷 俊明 長村 利彦
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本計画の目標は、光合成での光エネルギー変換系でのタンパク質複合体の連動したシステムの構造とその機能について基礎的な研究を行うために広範囲の研究者と意見交換を行うことである。そして、社会的に要請の強いこの分野の研究に対して貴重な情報を提供することである。この分野の研究の進展が目覚ましく、したがって、基礎的な研究情報の交換を継続して行い、さらに、共同研究へと発展させることが必要である。本計画では、光合成での光エネルギー変換システムでの基礎的な研究に焦点を絞り、つぎの3点について研究情報の交換を行う。1)アンテナタンパク質複合体の動的構造と機能の関係、2)光エネルギー変換系での色素の構造と機能との関係 3)光エネルギー変換機能をもつデバイスの開発。講演会を年間5回開催して情報交換を行った。講演会では光合成、光エネルギー変換、タンパク質複合体および色素の構造と機能、核酸、分子モーターのキーワードで互いの最先端の仕事内容を発表していただいた。この研究会に参加していただた方はそれぞれの分野でのスペシアリストなので講演会で情報交換を行うことが本研究の企画を進めることになった。ここで、主な研究費として、会議費、国内旅費、それに伴う消耗費が必要となった。また、必要に応じて研究会のメンバー以外の方に講演、事務処理などの手伝いを依頼した。ここで、謝金が必要となった。さらに、外国人研究者(Prof, Scheer(独)およびProf, Cogdell(英))に来日していただいて臨時セミナーで講演してもらった。ここで、この分野の先導的な欧州の第一線の研究者と交流をもつために外国旅費が必要となった。
著者
住 斉
出版者
筑波大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

化学反応の速度に関する標準理論は遷移状態理論(TST)である。ところが80年代に入って、種々の溶液反応においては溶媒のゆらぎが遅いためにTSTの基本仮定が成立しないことが明らかになり、非常な注目を集めてきた。これを記述するため二つの異なる理論の流れが生じた。一つはGrote-Hynesの理論(1980年)である。他は住と(1992年度ノ-ベル化学賞受賞者)Marcusの理論(1986年)であり、住は1991年この住・Marcus模型の与える反応速度定数の一般形を明らかにした。実験においては1992年浅野(大分大工)は、圧力により溶媒粘性率を大幅に変え、TSTが成り立つ領域から非TST領域までを覆う光異性化反応の速度定数のデータを提出した。1994年住は浅野と協同して、このデータが住理論の与える光異性化反応速度の一般式を検証することを明らかにした。今年度は、このデータとGrote-Hynes理論との対応を調べた。溶媒中における溶質分子の溶媒和構造は、溶媒の熱ゆらぎにつれてブラウン運動ゆらぎをする。この揺らぎが遅いことがTSTが成立しない原因である。このブラウン運動ゆらぎの動力学は、ゆらぎを励起する乱雑な力とそれを減衰させる摩擦力によって規定されている。Grote-Hynes理論では、摩擦力の相関時間が基本的に重要な役割を演ずる。もしこの理論が適用できるならば、観測データを再現するのに必要な摩擦力の相関時間が観測データ自身から得られることを明らかにした。一方、揺動・散逸定理により摩擦力の相関時間は乱雑力の相関時間に等しい。従ってそれは、理論的に、溶質分子の異性化部分と同程度の波長をもつ溶媒励起のエネルギーの広がりに関係している筈であり、これも他の実験から推定できる。このことを基礎に、Grote-Hynes理論は実験データを記述できず、その適応性には基本的問題点があることを明確にした。