- 著者
-
佐々木 雅寿
- 出版者
- 大阪市立大学
- 雑誌
- 奨励研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 1999
(1)カナダの憲法学者・行政法学者・裁判官から研究のレヴューを受ける平成12年9月17から同月27日まで、カナダオンタリオ州のトロント市に赴き、トロント大学法学部のH.ジャニッシュ教授(行政法の専門家)およびP.マツクレム教授(先住民法・憲法の専門家)から、そして、オンタリオ州控訴裁判所R.シャープ裁判官(憲法訴訟の専門家)およびオンタリオ州上級裁判所K.スウィントン裁判官(憲法・労働法の専門家)からそれぞれ研究のレヴューを受けた。カナダにおける環境保護に関する最近の動きとしては、先住民の自治政府による環境保護政策を連邦および州レベルでどの程度法律上組み込むかが争点の一つとなっていることが指摘された。(2)日本の環境訴訟に関する検討わが国の現行の実体法・訴訟法体系が個人の権利利益を保護することを主要な目的として構築されているため、訴訟提起の段階、裁判所の審査の段階、そして、救済の段階のすべてにおいて、公益を裁判所によって保護することはかなり困難である。しかし、行政事件訴訟法のいわゆる客観訴訟において行政行為の適法性といういわば公的な利益の保護が裁判所の重要な機能の一つとして認められていることからすれば、現行の枠内においても裁判所が公的な利益を保護する機能を持つことを禁じられていると解することはできない。(3)日本における裁判所の役割とカナダにおけるそれとの相違上記のように日本の裁判制度は基本的には個人の私的な利益を保護するためのものと観念されている。それに対しカナダの裁判所は、個人の私的利益の保護を主要な機能と捉えつつも、副次的ないしは第二次的には、法律の規定に従って公益を保護する機能も重視している。これは議会が法律により特定の公益を保護する機能を裁判所に与えたことが主な根拠となっていると考えられる。(4)若干の提言わが国の裁判所の機能は少なくとも憲法上個人の私的な利益の保護に限定されておらず、裁判所が法律の要請に従って一定の公益を保護することは可能であると考えられる。法の支配の要素に個人の私的権利利益の保護のみならず、法律に従った公益保護もありうることの研究が今後必要となろう。