- 著者
-
常本 照樹
- 出版者
- 北海道大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2000
平成12年度から13年度にかけて、本研究は、わが国固有の事情に適合した先住民族の権利実現の具体的モデルとなる事例を検討することを目指した。具体的には、アメリカ本土48州において確立している先住民法制の適用を受けておらず、合衆国政府から正式に先住民族としての認定を受けていないという点でハワイ先住民とアイヌ民族に近似性があるとの認識に基づき、ハワイ先住民の法的地位およびそれに関する法制度を調査・検討した。とりわけ、OHA(ハワイ先住民局)の理事選挙の選挙権を先住民に限定することを違憲とした合衆国最高裁のRice v.Cayetano判決の意義・射程を検討するとともに、OHAを中心に実施されている先住民を対象にしたプログラムを調査・検討した。また、現在のハワイ先住民に関する法制度が、深く歴史に根ざしたものであるため、ハワイ王国建国前後からの法制史を調査した。この研究の結果、合衆国法によって先住民族との認定を受けなくても、合衆国憲法の平等保護条項に違反することなく先住民としての権利を保障することは必ずしも不可能ではないことを認識するに至った。アメリカにおいては、まさにこの考え方がRice事件において争われたと見ることができるが、ロジックとして成立しうるとすれば、あとは政治的決断の問題である。そうであるならば、その政治的決断を導く要因は何か、が次に探求されるべき課題となろう。ハワイにおいては1974年の州憲法改正においてこの決断が積極になされ、Rice判決以後、この決断が消極になされそうな気配が見える。この両者を比較して考究することで、ハワイと同様に多数者に対する経済的利得という事情の無い日本において、憲法に抵触することなく先住民族の権利を保障する方途が見えてくるはずであるとの着想を得た。今後は、この着想を発展させ、日本に適合的な先住民法制のあり方を具体的に考究していくことにしたい。