著者
片山 直樹 熊田 那央 田和 康太
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.127-138, 2021-07-28 (Released:2021-10-01)
参考文献数
107
被引用文献数
1

鳥類の生息地としての水田生態系の機能を明らかにするため,国内を中心に既往研究を整理した.その結果,水田は年間を通じ,多くの鳥類に採食場所を提供していることが示された.水田だけで生活史を完結させる種は少なく,草地や森林等の生息地の異質性が鳥類の種多様性を支えていた.しかし,戦後の農業の集約化は,水田の生息地としての質を低下させ,鳥類の生息・分布にも深刻な影響をもたらした.1970 年代以降の休耕・耕作放棄に伴う植生遷移は,鳥類の群集組成を大きく変化させた.水田性鳥類を保全するためには,有機栽培,冬期湛水,江や魚道の設置等の様々な環境保全型農業が有効であることが示唆された.これらの知見は,応用生態工学会の関係者が今後,水田生態系の保全を計画・実行する際に活用可能である.
著者
田和 康太 佐川 志朗
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
pp.21-00019, (Released:2022-03-23)
参考文献数
80
被引用文献数
2

本研究では,豊岡市内の休耕田を周年湛水した水田ビオトープにおいて健全な湿地環境の指標分類群となるトンボ目幼虫,水生コウチュウ目,水生カメムシ目およびカエル類を対象とした生息状況調査を実施した.まず,経年的なモニタリング調査により,各水生動物の生活史において水田ビオトープが季節的にどのように寄与しているか明らかにすることを目指した.また,これらの水生動物の季節消長を周辺の水田およびマルチトープ(承水路)と比較することにより,水田ビオトープにおける水生動物群集の特徴を整理した.水田ビオトープには,ため池に生息するトンボ目や年多化性のトンボ目,コミズムシ属,早春期に繁殖するニホンアカガエル等の繁殖場所となることが示唆された.また,水生コウチュウ目成虫の個体数が 8 月以降に急増し,さらに深場では,ミズカマキリやハイイロゲンゴロウの個体数が秋期に急増した.このことから,水田ビオトープは多種の水生昆虫にとって,周辺水田の落水時避難場所や非繁殖期の生息場所,越冬場所となることが示唆された.その一方で多種の水生コウチュウ目やアカネ属,ニホンアマガエル,ヌマガエルは水田ビオトープよりも一時的水域である調査区の水田やマルチトープを主な繁殖場所とすると推察された.このことから,各水生動物の種ごとあるいは目的や季節ごとに選好する水域が変化することを踏まえ,周年湛水域である水田ビオトープだけでなく一時的水域である水田やマルチトープといった様々なタイプの水域が組み合わせて水生動物群集の多様性を保全すべきと考えられた.また,水田ビオトープの深場がウシガエルの繁殖場所となっている負の効果もみとめられ,外来種の繁殖抑制等,水田ビオトープの適切な管理を行いながら水生動物群集の保全効果を高めていく必要があると推察された.
著者
田和 康太 中西 康介 村上 大介 金井 亮介 沢田 裕一
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.119-130, 2015-11-30 (Released:2017-10-01)
参考文献数
33

アカハライモリはその生活史において、幼生期と成体期には水田や池沼などの止水域で過ごし、幼体期には林床などの陸上で生活する日本固有の有尾両生類である。アカハライモリは圃場整備事業による水田環境の改変等の影響を受け、その生息数を全国的に減少させている。しかし、現状として、その保全対策に不可欠な生活史や生息環境の条件などに関する情報は非常に限られている。本研究では、アカハライモリの生息環境と季節的な移動を明らかにするために、滋賀県の中山間部水田地帯に設定した調査地において、未整備の湿田とそれに隣接する素掘りの土側溝に生息するアカハライモリの幼生および成体の個体数を水田の農事暦に則して調査した。その結果、アカハライモリの繁殖期である5月から6月には、土側溝でアカハライモリ成体が雌雄ともに多く出現し、水田ではほとんどみられなかったが、7月以降には、成体の個体数が雌雄ともに土側溝で減少し、水田で増加した。幼生は7月中旬から土側溝に出現し、9月までその生息が確認された。このことから、アカハライモリ成体は産卵場所として土側溝を利用し、幼生はそのまま土側溝に留まって成長し変体上陸するが、繁殖期後の成体は水田に分散している可能性が高く、アカハライモリはその生活史や発育段階に応じて隣接した水田と土側溝を季節的に使い分けているものと考えられた。以上より、水田脇に土側溝がみられるような湿田環境を維持していくことがアカハライモリ個体群の保全に極めて重要であると推察された。
著者
内藤 和明 福島 庸介 田和 康太 丸山 勇気 佐川 志朗
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.217, 2020 (Released:2020-12-24)
参考文献数
44
被引用文献数
1

兵庫県豊岡市を中心とする地域で行われている「コウノトリ育む農法」の実施圃場と慣行栽培圃場のそれぞれで植生および動物分類群の調査を行い、景観要素を含めて解析して、コウノトリ育む農法が植生および動物分類群に及ぼす影響を明らかにした。コウノトリ育む農法は水生動物の個体群密度よりも田面および畦畔の維管束植物の出現種数と被度に対してより直接的な正の影響を及ぼしていた。水生動物の個体群密度に対するコウノトリ育む農法の影響は、アシナガグモ属、ミズムシ科、コオイムシ科、タイコウチ科、ゲンゴロウ科(成虫および幼虫)、ガムシ科(成虫および幼虫)の個体群密度、カメムシ目およびコウチュウ目(成虫)の出現種数に対しては総じて正の影響で、この農法の生物多様性保全効果が確認された。一方で、分類群によって異なる景観要素の影響も検出された。トノサマガエル(成体)の個体群密度には農法による影響が確認されなかった。
著者
田和 康太 中西 康介 村上 大介 西田 隆義 沢田 裕一
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.77-89, 2013-05-30 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
6

圃場整備事業の拡大に伴い、平野部の水田では乾田化が進められてきた。このことが近年、水田の多種の水生動物が減少した一要因と考えられている。一方で、山間部などに多い排水不良の湿田では、一年を通して湿潤状態が保たれる。そのため、非作付期の湿田は水生動物の生息場所や越冬場所となり、生物多様性保全の場として重要な役割を担うといわれるが、実証例は少ない。本研究では、滋賀県の中山間部にある湿田およびそこに隣接する素掘りの側溝において、作付期から非作付期にかけて大型水生動物の生息状況を定量的に調査した。全調査期間を通じて、調査水田では側溝に比べて多種の水生動物が採集された。特にカエル目複数種幼生やコシマゲンゴロウに代表されるゲンゴロウ類などの水生昆虫が調査水田では多かった。このことから、調査水田は側溝に比べて多種の水生動物の生息場所や繁殖場所となると考えられた。その原因として餌生物の豊富さ、捕食圧の低さなどの点が示唆された。一方、側溝では水田に比べてカワニナやサワガニなどの河川性の水生動物が多い傾向があった。またドジョウの大型個体は側溝で多く採集された。このことから、中山間部の湿田では、調査水田と側溝のように環境条件や構造の異なる複数の水域が組み合わさることによって、多様な水生動物群集が維持されていると考えられた。また、非作付期と作付期を比較したところ、恒久的水域である側溝ではドジョウやアカハライモリなどが両時期に多数採集された。さらに調査水田ではこれらの種に加えて、非作付期の側溝ではみられなかったトンボ目やコウチュウ目などの多種の水生昆虫が両時期に採集されたことから、非作付期の水生動物の種数は側溝に比べてはるかに多かった。このことから、非作付期の水田に残る水域が多くの水生動物にとって重要な生息場所や越冬場所になると考えられた。
著者
田和 康太 槐 ちがや 中村 圭吾
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.1-9, 2022-07-31 (Released:2022-07-31)
参考文献数
27

本研究では,利根川水系小貝川支流の大谷川において季節的に形成された小規模な河道内湿地(たまり)に着目し,そこに生息する水生動物群集を8 月に調査した.調査の結果,たまりではホソセスジゲンゴロウ成虫やヒメガムシ成虫,ニホンアマガエル,トウキョウダルマガエルなどの在来の止水性水生動物が採集された一方で,採集個体数の大半は環境省により生態系被害防止外来種に指定されているカラドジョウとアメリカザリガニで占められた.大半のカラドジョウについては,その体長分布から2020 年の繁殖期に生まれた当年個体と推察された.カラドジョウやアメリカザリガニは湿地生態系への負の影響が指摘されていることから,本調査地のようなたまりは在来の湿地性水生動物群集の生息場所となる一方で,湿地性外来種の温床ともなりうることを認識する必要がある.
著者
田和 康太 細浦 大志 露木 颯 長谷川 雅美 佐久間 元成 遠藤 立 安東 正行 松本 充弘 黒沼 尚史 中村 圭吾 佐川 志朗
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
pp.21-00033, (Released:2022-07-21)
参考文献数
60
被引用文献数
1

コウノトリの採餌環境として着目されている田中調節池において,魚類を対象とした生息状況調査を 2018 年および 2019 年に実施した.また,台風 19 号通過に伴う洪水前後での魚類の分布状況を比較することで,平水時の田中調節池における魚類の生息地としての問題点および今後の配慮方針について検討した.平水時の農閑期(2018 年 12 月)では,支線排水路における魚類の分類群数および個体数は少なく,魚類の全く採集されない調査区も存在した.また,同時期に幹線排水路で確認された魚類が末端排水路ではほとんど記録されなかった.洪水後の農閑期(2019 年 11 月~12 月)には,支線排水路において魚類の分類群数,個体数ともに洪水前に比べて顕著に増加し,洪水前にはみられなかったタモロコやメダカ属等が採集された.また,洪水前には乾燥していた支線排水路も洪水後には湛水され,ドジョウ等の魚類が採集された.洪水後の各支線排水路におけるドジョウの個体数や魚類全体の個体数および分類群数には泥深が正の効果を示し,底泥の柔らかい水路環境が魚類の越冬環境として好適と考えられた.2019 年の農繁期における水田調査では,カラドジョウの繁殖のみが田面で確認された.以上より,洪水によって利根川本川から幹線排水路,支線排水路まで水域が連続し,魚類の分布域が拡大することが示唆された.その一方で,平水時の支線排水路までの連続性は低く,農繁期に多種の魚類が田面まで遡上できないこと,農閑期には支線排水路で魚類が十分に越冬できないことが明らかになった.平水時の田中調節池における魚類の繁殖場所・越冬場所としての機能を高めるためには,特に幹線排水路と支線排水路,そして支線排水路と田面との落差を解消させること,さらに底泥の柔らかい水路区間を積極的に保全し,河道内のワンド等とも連続させることで魚類の越冬場所を確保することが重要と考えられた.その一方で,こうした取り組みによって外来種の分布域を拡大させる可能性があることにも留意し,健全な水域の連続性の確保を目指す必要があるだろう.
著者
田和 康太 佐川 志朗 宮西 萌 細谷 和海
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.193-208, 2019-10-25 (Released:2019-11-13)
参考文献数
51
被引用文献数
1

兵庫県豊岡市円山川水系の鎌谷川において,河川域から水田域までの連続性確保および上流の水田ビオトープにおける魚道設置と深場造成が水田魚類群集に与える効果を検証した.その結果,ドジョウMisgurnus anguillicaudatusやフナ属Carassius spp.が下流域から水田ビオトープへ遡上した.また,改修前には採集されなかったフナ属とタモロコGnathopogon elongatus elongatusが水田ビオトープ内で繁殖している可能性が高かった.さらにフナ属やタモロコ,ドジョウ,キタノメダカOryzias sakaizumiiは改修後の水田ビオトープを秋冬期の生息場所として利用していた.改修後の水田ビオトープにはコウノトリCiconia boycianaが周年飛来しており,水田ビオトープ内人工巣塔での初営巣,それら営巣つがいおよび幼鳥の水田ビオトープにおける採餌利用も観察された.以上より,健全な水域の連続性確保による水田魚類群集の保全がそれらを餌とするコウノトリの生息や繁殖に大きく寄与することが示唆された.