- 著者
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佐藤 卓己
- 出版者
- 国際日本文化研究センター
- 雑誌
- 萌芽研究
- 巻号頁・発行日
- 2000
歴史学と社会学の学際領域であるドイツ新聞学の学説史的研究を通じて、メディア学の体系的研究に寄与する視点を構築することが、この萌芽的研究の課題であった。20世紀初頭のドイツで、歴史的手法を利用して成立した新聞学の社会史研究は、情報化社会が本格化する中でメディア研究の方法論が模索される現在、参照すべき貴重な系譜といえる。既に執筆済みの「第三帝国におけるメディア学の革新」(『思想』833号)、「ドイツ広報史のアポリア-ナチ宣伝からナチ広報へ」(『広報研究』4号)に加えて、この萌芽的研究に関連する成果としては、「ナチズムのメディア学」(『岩波講座文学 2 メディアの力学』所収)を発表した。ドイツを代表する世論研究者エリザベス・ノエル・ノイマンの反ユダヤ主義と戦争責任に関するドイツ公示学会での論争を紹介しつつ、総力戦体制化で誕生したアメリカのマス・コミュニケーション学とナチ新聞学の同質性を跡付けた。そうした連続性は戦時中はナチ新聞学の研究者として活躍し、戦後はアメリカ占領軍の指導に協力してマス・コミュニケーション学や世論調査研究の普及につとめた、小野秀雄・小山栄三など東京大学文学部新聞研究室(戦後の新聞研究所、現在の社会情報研究所)のメディア研究者においても確認できる。こうした総力戦体制期のファシスト的公共性とメディア研究の関係を、ドイツ-アメリカ-日本の比較において考察する著作『ファシズムのメディア学』(中公新書)を2004年の刊行を目指して現在執筆している。