著者
富田 英典
出版者
佛教大学
雑誌
社会学部論集 (ISSN:09189424)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.49-64, 1997-03-01
被引用文献数
1

近年,通信メディアの発達には目を見張るものがある。本稿では,移動体通信メディアの発達が,都市空間においてどのような人間関係を生みだそうとしているかについて考察する。まず,携帯電話やPHS,ポケットベルも含めた移動体通信メディアが,現代人の中にどのような欲望を生み出そうとしているのかについて,非同期コミュニケーションメディア(電子メール・ボイスメール・ファックス)に関するマーカスらの調査研究を紹介しながら研究する。「いつでも,どこでも」自由に会話ができるはずのこれらの通信メディアの特質は,受信する側にとっては,逆に自由を奪うメディアにもなりうる。マーカスらが明らかにした「自分の好みに合わせて送受信したい」という願望は,在宅中でも留守番電話機能を利用したり,携帯電話やPHSでの留守番電話機能の利用に現れている。本稿では,このような電話コミュニケーションを「居留守番電話型コミュニケーション」と呼ぶ。他方で,都市空間を舞台に利用される携帯電話やPHSやポケットベルは,外出中でも友人と連絡が取れ,都市空間をより自由に楽しむことを可能にしてくれる。同時に,これらのメディアは,匿名牲のメディア・コミュニケーションを可能にする。NTTのダイヤルQ2を利用した「ツーショット」番組やポケットベルの「ベル友」などは,匿名のストレンジャーとの間に親密な関係を成立させ始めている。本稿では,このような他者をIntimate Strangerと呼び\匿名性の中に新しい親密性が成立する可能性を示す。
著者
富田 英典
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.77-94, 2005-05-30 (Released:2011-03-18)
参考文献数
36
被引用文献数
1

This study analyzes the relationship between the usage of media and subculture in extended adolescence. The media seen as most characteristic of people in extended adolescence include chatting and electronic bulletin boards on the Internet, and comic magazines. Sherry Turkle thinks that the use of the Internet has influenced the establishment of the identity of adolescents since they can experiment with multiple identities in the world of the Internet. She also presented the concept of an “online persona, ” where one can assume a fluid and multiple identity and act differently from one's true self.During the 1960s and 1970s, young people were fond of popular television programs known as teen dramas, which were set in high schools and involved young teachers and their students. The shows were based on themes such as “effort, ” “dreams” and “love, ” and the heroes fulfilled their dreams, overcoming various obstacles. One effect of these shows was that during this period, young Japanese people discovered their own stories of adolescence by reproducing the teen drama programs in their everyday lives. However, after the 1980s, young people started to read comic magazines targeted at teens and the postadolescence stories gained in popularity. At that time, animated cartoons such as “Mobile Suit Gundam, ” “Dragon Ball” and “Neon Genesis Evangelion” became very popular. Their heroes all experienced an “awakening, ” in which they became super-heroes. Unlike the heroes of the teen drama shows, who were regular high school students, they realized that they had latent superhuman powers. In these animated cartoons, the “adherence to identity” is typically represented in the form of an ominous alien.The sense of liberation from one's actual self through means such as chatting and electronic bulletin boards, as well as the post-adolescence stories, is thought to be closely related to the problem of extended adolescents who are a focus of social attention in the present world. It is clear that the adolescent strategy toward the media, which uses the media as a means to arouse one true self, has a parasitic relationship with the media.
著者
富田 英典
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.57-80, 2020-10-31

電子メディアによって電子メディアによってふたつの場所が重なっている。Paddy Scannell (1996) やShaun Moores (2004,2012, 2017) は、それをDoubling of Place と呼んだ。時間も電子メディアによって重なっている。ここでは、それをDoubling of Time と呼ぶ。本論文は、ミュージアム公式ARアプリを取り上げながらDoubling of Time の可能性について検証するものである。まず、世界中のミュージアムを対象に公式アプリの有無、アプリ機能の種類について調査を実施した。その結果、42か国のミュージアムに304の公式アプリがあることが分かった。そして、「インフォメーション」「館内マップ」「音声案内」「文字案内」「写真」などの機能が定番であり、ARやVRなどの新しい機能が登場していることが分かった。そこで、ARミュージアムアプリに焦点を合わせ、その内容を分析し4種類に分類した。次に、ミュージアムにおける歴史的価値のある展示物に対するAR利用の有効性に注目し、時間とARの関係について考察した。丸田一(2008)によれば、通信技術によって生まれるのが「同期」であり、複製技術によって生まれるのが「同位」である。この丸田の研究に依拠しながら、通信技術と複製技術、場所と時間の関係を分析する枠組みをつくった。通信技術による「同期」とは時間を共有することであり、時間の共有は同じ場所にいるような感覚を生み出す。それを本研究ではDoubling of Place と呼ぶ。これを可能にするAR技術が、その場所にはないコンテンツを重畳してくれる「場所AR」であると言える。それに対して、複製技術による「同位」とは場所を共有することであり、場所の共有は同じ時間にいるような感覚を生み出す。それを本研究ではDoubling of Time と呼ぶ。これを可能にするAR技術が、その時間にはないコンテンツを重畳してくれる「時間AR」であると言える。この枠組みからARミュージアムアプリについて分析し、Doubling of Time とDoubling of Place を同時に可能にするAR Door などのアプリが登場していることを明らかにした。
著者
富田 英典
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告デジタルドキュメント(DD) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2002, no.53, pp.9-18, 2002-05-31
被引用文献数
1

これまで親密性と匿名性は相容れないものであった。つまり、親密であると匿名ではないし、匿名なら親密ではなかった。ところが、今日の新しいメディア状況の中で、むしろ匿名だから親密になれるという関係が生まれてきている。このような匿名性を前提にしたメディア上の親密な他者をIntimate Strangerと呼んでおきたい。Intimate Strangerとの関係を支えるものが、インスタントメッセンジャーなどのP2P技術である。ただ、そこには「オリジナルの私」と「本当の私」が不協和を引き起こす危険が存在している。それにもかかわらず、人々がインターネットの世界に魅せられていくのはなぜだろうか。それは、人々が、メディアの中に新しいアウラ「デジタルアウラ」を見つけたからである。Intimacy and anonymity are conflicting in today's technological society. If people are able to have an intimate relationship, it is not considered and anonymous relationship. But of course, it is not an intimate relationship if they have anonymous properties. However, in today's new media situation, these anonymous relationships automatically become intimate relationships. An anonymous and intimate friend within the media world is referred to as an "intimate stranger". It is called P2P technology and an example of this technology would be the increasingly popular "Instant Messenger". The communication program, "Instant Messanger" supports this concept of the "intimate stranger". It allows one to communicate intimately as well as be completely anonymous by the distance that is kept through media and technology. Therefor, the "self" in media does not harmonize with the so-called original concept of "self". Why are people so intrigued, fascinated, and addicted to the world of the Internet? The idea of "Digital AURA" can be a fundamental explanation to why people are increasingly drawn to the Internet.
著者
竹内 洋 富田 英典 稲垣 恭子 佐藤 卓己 井上 義和
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

総合雑誌を中心とする論壇の「衰退」や、インターネットを中心とする新しい論壇の「誕生」といった現象の背後で進行してきたメディア史的な変動の過程について、中長期的なスパンで実証的に分析した。論壇的公共圏の成立の重要な契機として、進歩的文化人による「革新幻想」公共圏の形成があったことを示し、さらに論壇的公共圏の変容を解明するために、様々なタイプの雑誌メディアの変容過程について調査している。