著者
渡辺 恭良
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.2, pp.94-98, 2007 (Released:2007-02-14)
参考文献数
8
被引用文献数
2 4

疲労感・倦怠感は,我々が日常的に経験している感覚であり,発熱,痛みとともに,身体のホメオスタシス(恒常性)の乱れを知らせる三大アラーム機構の1つである.疲労は,万人にとって非常に身近な問題であり,ストレス過多の現代社会に生きる私たちの中で慢性疲労に悩んでいるヒトが40%近くを占めるにもかかわらず,科学的・医学的研究はこれまで断片的であった.我々は,ストレスの過重蓄積によって陥る状態を疲労と定義している.ここ数年で,生活習慣病をはじめとする疾患の予防医療・予知医療の発展とともに,このような前病状態(未病ともいわれる)に如何に対処するかという気運が高まり,「疲労の科学」に目を向けられるに至った.多忙なスケジュールに振り回されている状況を回避することが困難な我々21世紀の住人にとって,如何に疲労に対処し回復策を探り過労に陥らないように知恵を絞るかが求められている.文部科学省・科学技術振興調整費による疲労研究班[生活者ニーズ対応研究「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究」(平成11-16年度,研究代表者:渡辺恭良)]では,これまでに知られてきた断片的な疲労の分子・神経メカニズムの研究結果を統合し,脳機能イメージングや遺伝子解析などの新しい方法論も取り入れて「疲労」と「疲労回復・予防」についての研究を深めてきた.ここでは,ストレスの人体への影響と大きな関連性を持つ「疲労の神経メカニズム」についての研究の現状についての情報を提供したい.また,2004年夏からは,文部科学省の21世紀COEプログラム革新的学術分野に我々大阪市立大学が申請した「疲労克服研究教育拠点の形成」が採択された(拠点リーダー:渡辺恭良).現在,COE拠点を挙げて,疲労の基礎・臨床研究と抗疲労食薬・環境開発プロジェクトを進めており,現時点での成果についても述べたい.
著者
中富 康仁 倉恒 弘彦 渡辺 恭良
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.19-25, 2018-01-01

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)は,慢性で深刻な原因不明の疲労,認知機能障害や,慢性的で広範な疼痛を特徴とする疾患である。われわれは世界で初めてME/CFS患者における脳内神経炎症をポジトロンエミッション断層撮影(PET)によって明らかにした。神経炎症は患者の広範な脳領域に存在し,神経心理学的症状の重症度と関連していた。現在,診断法および治療の開発につなげる研究がスタートしている。
著者
渡辺 恭良
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.200-210, 2013 (Released:2017-02-16)
参考文献数
25
被引用文献数
2

我々は主に脳機能・分子イメージング手法を用いて,疲労および慢性疲労の分子神経メカニズムについて研究してきた。疲労の分子メカニズムについては,定量的・客観的な疲労バイオマーカーの開発により,研究が進化した。疲労度に応じて,①副交感神経系の機能低下,②酸化の進行と抗酸化能の低下,③修復エネルギー産生の低下,④免疫サイトカインの亢進とサイトカインによる炎症と神経伝達機能抑制,が疲労の分子メカニズムであり,慢性疲労に至るメカニズムでもある。また,疲労・慢性疲労の脳科学研究により,1)MRI morphometryにより日常生活に厳しい支障を来す慢性疲労症候群患者の前頭葉に萎縮が認められ,2)fMRI研究により,慢性疲労症候群患者の脳の一部のタスクによる脳全体の活動性低下が示唆された。3)脳磁図(MEG)を用いた研究では,活動回路の共振現象が見られること,疲労にもミラー現象や条件付けが起こることを明らかにした。一方,4) PET研究からは,急性疲労の疲労感を感じている部位や,慢性疲労症候群患者における前帯状回や前頭前野のアセチルカルニチン代謝低下や前帯状回のセロトニントランスポーターの密度低下が判明した。さらに最近,5)慢性疲労症候群患者脳の複数部位に神経炎症が発見された。一方,6)複数の疲労動物モデルを用いた研究からも,モノアミン神経系の変化や脳へのグルコース取り込み低下が判明した。これらの知見を有効に活かし,また,疲労度の定量的・客観的バイオマーカーを用いて,我々の生活を取り巻く様々な疲労・慢性疲労の軽減・回復法,過労予防法を展開してきた。
著者
倉恒 弘彦 近藤 一博 生田 和良 山西 弘一 渡辺 恭良 木谷 照夫
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.90, no.12, pp.2431-2437, 2001-12-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
5
被引用文献数
2 2

慢性疲労症候群とは,原因不明の激しい全身倦怠感と共に微熱,頭痛,リンパ節腫脹,脱力感,関節痛,思考力の低下,抑うつ症状,睡眠異常などが続くため,健全な社会生活が送れなくなるという病気である.化学的,生物学的,社会心理的なストレスが誘因となって引き起こされた神経・内分泌・免疫系の変調に基づく病態と思われるが,潜伏感染ウイルスの再活性化やサイトカインの産生異常などが深くかかわっている.
著者
金山 洋介 新垣 友隆 尾上 浩隆 渡辺 恭良
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.328-334, 2013-09-25 (Released:2013-12-26)
参考文献数
18

生体分子イメージング技術は、薬剤開発における重要な技術となってきている。特にPET(Positron Emission Tomography)は高い感度と定量性、プローブの多様性から、病態の分子医学的把握による疾患診断、薬効評価を可能にし、合理的な薬物送達システム(DDS)の評価を行うことに役立つ。脳は高度な機能と複雑な構造を有し、薬剤や毒物の移行を制限する血液脳関門によって恒常性が保たれている。脳を標的とした薬剤の開発においては、非侵襲的に薬剤の脳内分布を解析可能な分子イメージング技術の必要性が高い。本稿ではPETを用いた血液脳関門における薬剤トランスポーター機能の解析、薬剤の脳内移行の視覚化と薬効評価の例を通して分子イメージングの有効性について概説する。
著者
片岡 洋祐 渡辺 恭良
出版者
Japan Society for Laser Surgery and Medicine
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.473-478, 2017-01-15 (Released:2017-10-10)
参考文献数
11
被引用文献数
2

PET(陽電子放射断層撮影)は短半減期の放射性核種を化学的に導入した分子や薬剤(PET 分子プローブ)を生体へ投与し,放出されるガンマ線を体外で検出して画像化する技術である.したがって,X 線CT やMRI などが生体の構造を映し出すことに対し,PET は生体中の分子の分布や動態を可視化できることが特徴である.ここではPET の原理に加え,最も頻繁に使用される[18F]FDG を用いたPET の基礎研究,さらに,共通の分子プローブを用いた動物からヒトまでの最新の脳内神経炎症イメージング研究を紹介する.
著者
渡辺 恭良
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.70, no.11, pp.1193-1201, 2018-11-01

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)は,原因不明の激しい疲労・倦怠感とともに,労作後に増悪する極度の倦怠感,微熱,疼痛,脱力,認知機能障害,睡眠障害などの多彩な症状が長期にわたり継続し,日常生活や社会生活に支障をきたす疾患である。私たちは,この疾患に対し,血液因子や機能検査による客観的な疾患バイオマーカーを探索するとともに,PETやMRI,MEGなどを用いたイメージング研究により,ME/CFSの脳科学を推進してきた。
著者
渡辺 恭良
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.2, pp.94-98, 2007
被引用文献数
3 4

疲労感・倦怠感は,我々が日常的に経験している感覚であり,発熱,痛みとともに,身体のホメオスタシス(恒常性)の乱れを知らせる三大アラーム機構の1つである.疲労は,万人にとって非常に身近な問題であり,ストレス過多の現代社会に生きる私たちの中で慢性疲労に悩んでいるヒトが40%近くを占めるにもかかわらず,科学的・医学的研究はこれまで断片的であった.我々は,ストレスの過重蓄積によって陥る状態を疲労と定義している.ここ数年で,生活習慣病をはじめとする疾患の予防医療・予知医療の発展とともに,このような前病状態(未病ともいわれる)に如何に対処するかという気運が高まり,「疲労の科学」に目を向けられるに至った.多忙なスケジュールに振り回されている状況を回避することが困難な我々21世紀の住人にとって,如何に疲労に対処し回復策を探り過労に陥らないように知恵を絞るかが求められている.文部科学省・科学技術振興調整費による疲労研究班[生活者ニーズ対応研究「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究」(平成11-16年度,研究代表者:渡辺恭良)]では,これまでに知られてきた断片的な疲労の分子・神経メカニズムの研究結果を統合し,脳機能イメージングや遺伝子解析などの新しい方法論も取り入れて「疲労」と「疲労回復・予防」についての研究を深めてきた.ここでは,ストレスの人体への影響と大きな関連性を持つ「疲労の神経メカニズム」についての研究の現状についての情報を提供したい.また,2004年夏からは,文部科学省の21世紀COEプログラム革新的学術分野に我々大阪市立大学が申請した「疲労克服研究教育拠点の形成」が採択された(拠点リーダー:渡辺恭良).現在,COE拠点を挙げて,疲労の基礎・臨床研究と抗疲労食薬・環境開発プロジェクトを進めており,現時点での成果についても述べたい.<br>
著者
水野 敬 佐々木 章宏 田島 華奈子 堀 洋 梶本 修身 渡辺 恭良
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第126回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.833, 2015 (Released:2015-07-23)

本邦の国民の約4割は6ヶ月以上疲労が続く状態、慢性疲労状態にある。慢性疲労は、さまざまな疾患発症に寄与するため未病状態といえる。よって、慢性疲労克服法の創出は健康社会形成の一助となる。われわれは急性疲労・慢性疲労・疾患関連疲労の分子神経基盤を探究しつつ、疲労回復に資する抗疲労介入研究を推進している。本講演では、癒される森林などの風景画像による生理心理指標に基づく疲労軽減効果について紹介する。疲労負荷作業中に、風景画像を呈示することで、疲労に伴う1)脳波における覚醒度低下の抑制効果、2)認知機能における注意制御パフォーマンス低下の抑制、3)自律神経における交感神経活動亢進の抑制および4)疲労感上昇の抑制効果が得られることを明らかにした。よって、実際の自然風景の眺望が困難なオフィス環境下においても、これらの風景画像を活用することにより疲労軽減効果が得られ作業効率を維持することが可能となる。本成果を一例とする科学的検証法に立脚した抗疲労ソリューションを実生活空間へ提供・還元していくことが、健康社会実現のための具体的方策の創出、健康科学イノベーションの本格的展開に導くと期待している。
著者
山口 浩二 笹部 哲也 倉恒 弘彦 西沢 良記 渡辺 恭良
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.533-542, 2008-06-15

はじめに 「疲労」は誰もが日常生活の中で感じることのある一般的な感覚で,また大多数の疾患において程度の差こそあれ経験する症状の1つであり,心身の疲弊を自らに知らせ,休息を求める生体のアラームである。ありふれた感覚ではあるが,今まで,医学の対象として重要視されていなかった。その理由として考えられることは,疲労が多数の因子が関与した複雑な現象であること,個人により,また同一個体でも状況により感じ方が異なることにより,客観的評価が困難で,科学の対象として扱い難いということに帰している。また,疲労を表現する言葉が,関西では「しんどい」というが,関東では「だるい」,九州では「きつか」,東北では「こわい」というように,狭い日本の国内においても種々の表現があり,その意味する内容も微妙に異なっていることも客観的評価を困難にしていると思われる。このように疲労は主観的な感覚であるため,これまでの評価は各種問診表やvisual analogue scale(VAS)を用いた自己申告式のものが中心となっており,評価として十分に耐え得るものとは言い難かった。一方,なんらかの課題を行った際の反応時間の遅延や,誤反応の増加,多重注意の困難といった疲労時におけるパフォーマンスの低下をもって疲労を評価する手法もあるが,疲労感とこれらパフォーマンスの低下が乖離することが多々あることも我々は日常生活でよく経験し,こういった事情が疲労の客観的評価を困難にしている。 ところで,慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome;CFS)は,ウイルス感染やストレス曝露を機に発症する疾患であるが,高度の全身倦怠感をはじめ,微熱や全身の疼痛,脱力感などの身体症状や,思考力・集中力低下,抑うつなどの精神症状,睡眠障害などの症状が長期間持続し,健全な社会生活が困難となる症候群で,今もって原因は不明とされている。診断は日本疲労学会による診断指針や米国CDCの診断基準に基づくが,いずれにおいても,高度の疲労により日常生活に支障を来していることが診断の必要条件となっている。しかし,高度の疲労か否か,疲労を訴える患者の疲労を客観的に評価することは難しい。 そこで,本稿では,今まで定量化手法を持ち合わせていなかった疲労という現象に対し,加速度脈波を用い,自律神経機能や複雑系の観点から,疲労を定量化する試みについて,CFSを例に紹介することとし,最後にいくつかの慢性疾患の疲労についても検討した結果を例示する。
著者
渡辺 恭良 倉恒 弘彦
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.5-9, 2018-01-01

1990年に木谷照夫,倉恒弘彦らにより日本第一号の患者が発見された筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群は,慢性で日常生活に支障をきたす激しい疲労・倦怠感を伴う疾患であり,1988年に米国疾患管理予防センターが原因病原体を見出すための調査基準を作成し,世界的にその診断基準が広まったものである。かなりのオーバーラップがみられる疾患に線維筋痛症があり,また,機能性ディスペプシアなども含めて,機能性身体症候群という大きな疾患概念も存在する。客観的診断のためのバイオマーカー探索も鋭意行われ,わが国におけるPET研究によって,脳内のセロトニン神経系の異常やさまざまな症状と神経炎症の強い関わりなどが明らかになってきた。一方,このような最新の知見を踏まえた治療法の開発研究も鋭意行われている。
著者
鈴木 正昭 伊藤 誠二 松田 彰 渡辺 恭良 長野 哲雄 袖岡 幹子
出版者
岐阜大学
雑誌
創成的基礎研究費
巻号頁・発行日
2000

本研究プログラムでは、低分子有機化合物により生体機能の制御を実現する「分子プローブ概念」のもと、機能発現機構の分子レベルでの研究から個体レベルへの応用をめざし、有機合成化学者とin vivo指向型生物系研究者の連携による化学/生物学融合型新学際的連携プロジェクトを展開するための基盤を構築することを目的とした。関連諸分野の専門家を結集し、異分野の研究者間の綿密かつ有機的な情報交換のため、2回の研究準備会議を行うとともに、外部研究者らを交えて総合シンポジウムを開催した(平成12年11月30日、参加者110人)。研究状況については冊子として取りまとめ、本研究分担者のみならず関連研究者に配付し、その情報を公開した。これらの活動を通じて研究分担者同士および関連研究者との間での有意義な意見の交換、相互評価が行われ、次の学祭研究へと展開する準備が整った。なお、以下に設定された課題についてのこれまでの主な具体的成果を箇条書きにした。(1)高次脳機能の解析と制御法について: 設計したグルタミン酸トランスポーターブロッカーを基にアフィニティカラム担体およびシナプス伝達解析のための光感受性caged-TBOAを創製(島本)。ノシスタチンがノシセプチンやPGなどによる痛覚反応に鎮痛効果を示すことを証明(伊藤)。神経細胞におけるSCG10関連分子の微小管との結合ドメインを同定、崩御制御に重要なリン酸化制御部位を決定(森)。神経保護作用を示す新規PGI_2受容体リガンド15R-TICのC-11核ラベル体の創製とその活用によるヒト脳内IP2受容体のイメージングに成功(鈴木、渡辺)。15R-TICの10倍の活性を持つ15-deoxy-TICを創製(鈴木)。(2)脳機能の保護と可塑性促進研究について: PG受容体EP3の細胞内情報伝達系を解析し、神経突起の退縮や神経伝達物質の遊離の阻害、神経可塑性や神経伝達の調節などに関与していることを証明(根岸)。ラット脳組織切片を用いたポジトロンイメージングシステムを確立し、神経細胞における障害発生機序の解明と治療法開発に有用な情報を獲得(米倉)。神経突起伸展促進作用および神経細胞死抑制作用を示す新規化合物NEPP10とNEPP11を創製し、PET研究に向けた分子設計を開始(古田、鈴木、渡辺)。(3)細胞増殖・分化制御機構の解明と細胞周期制御理論について: 核内