著者
山城 大地 兵藤 宗吉
出版者
日本時間学会
雑誌
時間学研究 (ISSN:18820093)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.19-32, 2017 (Released:2018-08-01)

我々は目に見えない抽象的な概念である時間の順序をどのようにして捉えているのだろうか。多くの先行研究から,過去―未来や,時間的前―時間的後のような時間順序の概念は空間と深く関わっていることが指摘されている。特に水平左右空間との関わりについては多くの研究からその結びつきが検討されてきており,左から右への書字方向を持つ文化圏においては左―時間的前,右―時間的後の関連を有し,右から左への書字方向を持つ文化圏ではその逆の関連を有していることがジェスチャー表現,反応時間を指標とした心理学実験などで示されてきた。本研究では,複数の書字方向を日常的に使用している日本語話者が,初めて学習した一連の画像刺激の呈示順序を水平左右空間とどのようにして関連付けているのかについて,反応時間を指標とした心理学実験をもとに検討した。その結果,多くの左から右への書字方向文化圏と同様,左―時間的前,右―時間的後の関連パターンが認められた。しかしながら,そのパターンは先行研究と比べると部分的なものであり,使用する書字の文化差による検索方略の違いが関わっている可能性が示唆された。
著者
野内 類 兵藤 宗吉
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.71-78, 2007-08-31 (Released:2010-09-29)
参考文献数
27
被引用文献数
1 3

気分一致記憶とは,気分と一致した感情価をもつ刺激語の記憶成績が良くなる現象を指す.本研究は,自伝想起課題と修正自伝想起課題を用いて気分一致記憶を検討した.大学生90名をランダムに実験条件に割り振った(ポジティブ,ネガティブ,ニュートラル).ポジティブとネガティブ気分群は,気分誘導のために音楽を聴取した.各群の被験者には4秒間隔で刺激が呈示された.刺激は快語30語と不快語30語の形容詞を使用した.自伝想起課題の参加者は刺激語にあてはまるエピソードを生成し,それが自分の経験にあるかどうかの再認を行った.修正自伝想起課題の参加者は,刺激語から自分自身のエピソードを生成するのが簡単か難しいかどうかを判断した.実験の結果,自伝想起課題の再生率においてポジティブ気分でもネガティブ気分でも気分一致記憶が見られ,修正自伝想起課題では気分一致記憶が見られなかった.このことから,再認処理もしくは生成・再認処理が気分一致記憶の生起に重要であると考えることができる.
著者
蘇 心寧 兵藤 宗吉
出版者
日本応用心理学会
雑誌
応用心理学研究 (ISSN:03874605)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.50-51, 2021-07-31 (Released:2021-10-31)
参考文献数
10

It has been suggested that memory inhibition underlying retrieval-induced forgetting (RIF) plays a key role in preventing the retrieval of negative autobiographical memories. In present study, we focused on individual differences in RIF and in autobiographical memory performance. A negative correlation was found between RIF and the number of negative events recalled, while a positive correlation was found between RIF and the emotional valence of autobiographical memory. These results indicate that those with the high RIF effect forget negative memory and recall more positive memory. Based on these findings, it suggests that memory inhibition plays a crucial role in emotion regulation.
著者
中山 友則 兵藤 宗吉
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.127-127, 2011

本研究では出来事の呈示,事後情報の呈示,記憶テストの3段階から成り立つパラダイムである事後情報効果パラダイムを用いた。本研究の目的は事後情報について思い出すことで,その後のソースモニタリングにどのような影響を及ぼすかを検討することであった。実験では事後情報呈示後に,その事後情報についての詳細な自由再生を求めた。その後,記憶テストとしてソースモニタリングテストを実施した。その結果,事後情報の自由再生を行った条件は自由再生の無かった統制条件と比較して,特に事後情報で与えられた誤情報を事後情報で読んだとするソースモニタリングが困難になった。しかしながら,誤情報を出来事で見たとするエラーについては統制条件と有意な差が見られなかった。これは,誤情報を見ていないとする判断が増加したことを意味する。事後情報についての詳細な再生により,誤情報に対しては検索誘導性忘却を引き起こした可能性が考えられる。
著者
浅野 昭祐 兵藤 宗吉
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.95-104, 2012

Hamilton & Geraci (2006) は,画像が持つ意味的な特徴よりむしろ,画像における概念的示差性のある特徴を処理することによって,画像優位性効果 (PSE) が生起すると主張している(概念的示差性仮説). しかしながら,画像処理に利用される特徴に対して符号化課題が影響するのか否か,そして概念的示差仮説が顕在記憶におけるPSEにも適用可能なのか否かは明らかにされていなかった.そこで,筆者らは符号化課題,刺激形態,ならびに検索手がかり,検索意図を操作することによって,これらの問題に関して検討を行った.実験参加者は,画像または単語を,命名(実験1)もしくはカテゴリ分類(実験2)することにより学習した.そして,テスト課題として,意味的または概念的示差性のある検索手がかりが与えられる潜在記憶課題および顕在記憶課題に従事した.実験1の潜在記憶課題においては,概念的示差性のある検索手がかりが与えられた場合にのみPSEが生起したが,顕在記憶課題においては検索手がかりにかかわらずPSEが生起した.一方,実験2においては,いずれの条件においてもPSEは生起しなかった.本研究の結果,画像における概念的示差性情報が利用されるか否かは,符号化課題の性質とテスト時の検索意図に依存することが示唆された.