著者
山本 敏充 玉木 敬二 打樋 利英子 勝又 義直
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

ヒトY染色体上のDNAマーカーであるY-STRs (short tandem repeat)やY-SNPs (一塩基多型:single nucleotide polymorphisms)は、法医学で、同胞鑑定や性的事件などにおける男性由来の型を検出する目的として利用されつつある。アメリカ合衆国NISTが開発した10ローカス(DYS436、DYS439、DYS435、DYS19、DYS460、Y GATA H4、DYS391、DYS392、DYS438、DYS437)のY-STRをマルチプレックス法により型判定できるシステム(10-plex)及び市販のY-PLEX6キット(DYS393、DYS19、DYS389、DYS390、DYS391、DYS385)を用いて、日本人(名古屋207名、沖縄87名)及びタイ人(117名)について、共通な2ローカスを除く14ローカスのハプロタイプ解析を行った。また、非常に情報量が少ないDYS436をMinimal Databaseに含まれるDYS389Iに入れ換え、改良型の10-plexシステムを作製した。この改良型10-Plexによる14ローカスを用いて、父子関係が証明されている日本人の161組の父子DNA試料から型判定したところ、5例の突然変異が観察された。その内訳は、DYS389I、DYS439、Y-GATA-H4及びDYS389IIローカスで、1リピートの増加、DYS391ローカスで、1リピートの減少であった。このY-STR全体の突然変異率は、0.22%/ローカス/減数分裂(95%信頼区間0.09-0.51%)で、ヨーロッパ人とほぼ同じ値であることが示唆された。本研究での目的の一つである日本人におけるY染色体上のDNAマーカーの突然変異率を算定することは達成できた。
著者
勝又 義直
出版者
日本法科学技術学会
雑誌
日本法科学技術学会誌 (ISSN:18801323)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.1-6, 2008 (Released:2008-04-19)
参考文献数
5
被引用文献数
4

The importance of scientific evidence in criminal investigation is now increasing, and more and more novel techniques are introduced in forensic science field. So, the court has great difficulty in determining the admissibility of scientific evidence. The situation will get worse after when a big reform of the court will begin in 2009 because citizens not being trained for the judicial judgment will participate in the court. In order to solve this problem the efforts of the court and forensic scientists are needed.
著者
高野 恵 佐藤 啓造 藤城 雅也 新免 奈津子 梅澤 宏亘 李 暁鵬 加藤 芳樹 堤 肇 伊澤 光 小室 歳信 勝又 義直
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.387-394, 2009-10-28 (Released:2011-05-20)
参考文献数
24

死後変化が進んだ死体において時に歯が長期にわたりピンク色に着染する現象が知られており,ピンク歯と呼ばれ,溺死や絞死でよく見られる.ピンク歯発現の成因として歯髄腔内での溶血により,ヘモグロビン(Hb)が象牙細管内に浸潤していくことが推測されているが,生成機序も退色機序も十分明らかになっていない.先行研究において実験的に作製したピンク歯では一酸化炭素ヘモグロビン(COHb)や還元ヘモグロビン(HHb)によるピンク歯は6か月以上,色調が安定であったのに対し,酸素ヘモグロビン(O2Hb)によるピンク歯は2週間で褐色調を呈し,3週間で退色することを既に報告している.ピンク歯の生成・退色機序を解明するうえで,O2Hbによるピンク歯が早期に退色する現象を詳細に検討することは意義のあることと考えられる.う歯がなく,象牙細管がよく保たれた歯の多数入手が不可能であるため,本研究では象牙細管のモデルとして内径1mmのキャピラリーを用い,O2Hbによるピンク歯の退色について詳細に検討した.実際の歯とキャピラリーを用いてO2HbとCOHbの退色を比較したところ,キャピラリーはピンク歯のよいモデルとなることが分かった.キャピラリーを用いた詳細な実験で,O2Hbは酸素が十分存在し,赤血球膜も十分存在するという限られた条件において早期に退色することが明らかになった.このことはO2Hbに含まれる酸素が赤血球膜脂質と反応してHbの変性を来し,Hbの退色をもたらすことを示唆している.この退色は温度の影響をほとんど受けず,防腐剤の有無にも影響を受けなかった.死体では死後に組織で酸素が消費され,新たに供給されないので,極めて嫌気的な環境にあり,死後産生されたCOHbを少量含む主としてHHbによる長期的なピンク歯を生じやすいといえる.溺死体のような湿潤な環境で象牙細管へのHHbやCOHbの侵入と滞留があれば,ピンク歯はむしろ生じやすい現象といえるであろう.
著者
勝又 義直
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.1-11, 2006-02-28 (Released:2010-09-09)
著者
吉岡 尚文 石津 日出雄 勝又 義直 塩野 寛 中園 一郎
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

旭川、秋田、名古屋、岡山および長崎の5地域につき、自殺者と対照群(現在健康に生活している男女)を対象にセロトニンレセプター1A遺伝子(5HT1AR)多型およびトリプトファンハイドロキシレース遺伝子(TPH HTH)イントロン7の2つの多型(HTH A779C、A218C)検索を行った。これら多型の出現頻度は対照群において地域差や性差は認められなかった。各地域の自殺者サンプル数が少ないため、地域ごとの統計解析は行わず、5地域全体をまとめた2群間の解析を男女別、年齢区分別に行った。5HT1AR型では、男女別、年齢区分別に観察したが、自殺者群と対照群との間で有意差は認められなかった。HTH A779Cでは男性には両群間の有意差は認められなかったが、女性において自殺者群のUU型が有意に多く、UL型が有意に少なかった。また、60歳未満の女性自殺者群ではUU型が有意に多かった(P=0.017)。HTH A218Cでは、男性には両群間の有意差は認められなかったが、女性において自殺者群のAA型が有意に多かった(P=0.038)。HTH A779C型とA218C型のハプロタイプでみると、地域による差は見られず、男子での両群間の差は認められなかった。しかし、女性では自殺者群にIL-AC型が有意に多かった。また、女性を年齢区分でみると、60歳未満では自殺者群にUU-AC型が有意に多かった(P=0.02)。以上の結果から、男性には遺伝子型による両群間の差は見られなかったが、女性の自殺者群と対照群とを比較すると、HTH A779C型ではUU型が、A218C型ではAA型が自殺者群に多く見られた。また、ハプロタイプでも女性の自殺者群でLL-AC型や60歳未満でUU-AC型が対照群に比べ有意に多くみられた。本研究により、脳内アミンの遺伝子が何らかの形で自殺行動と関連性を有していることが示唆された。