著者
髙橋 摩理 内海 明美 大岡 貴史 向井 美惠
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.175-181, 2012-08-31 (Released:2020-06-07)
参考文献数
18

地域療育センターを利用し,自閉症スペクトラム障害(以下ASD)と診断された小児338 名とその保護者を対象にアンケートを行い,偏食の実態を調査し,偏食に影響を与える要因の検討を行った.絶対食べない食材数と発達レベルとの関連が推察されたが,年齢との関連は明らかにすることができなかった.食べない食材は,年齢や発達レベルに大きな差はなく,「イカ・タコ」など食べにくい食材や野菜が多く,摂食機能との関連を検討する必要があると思われた.食べない食材数と感覚偏倚とでは,「触覚」「視覚」との関連が強く,保護者が食べない理由としてあげていた「食感」「見た目」と重なっていた.食材を加工し提供することは,「触覚」「視覚」への配慮となり,有効な対応法と思われた.食事場面だけでなく,生活全般を通して,発達レベルの向上や感覚偏倚の軽減を行うことが必要と推察された.
著者
髙橋 摩理 内海 明美 大岡 貴史 向井 美惠
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.175-181, 2012
被引用文献数
1

<p>地域療育センターを利用し,自閉症スペクトラム障害(以下ASD)と診断された小児338 名とその保護者を対象にアンケートを行い,偏食の実態を調査し,偏食に影響を与える要因の検討を行った.</p><p>絶対食べない食材数と発達レベルとの関連が推察されたが,年齢との関連は明らかにすることができなかった.食べない食材は,年齢や発達レベルに大きな差はなく,「イカ・タコ」など食べにくい食材や野菜が多く,摂食機能との関連を検討する必要があると思われた.</p><p>食べない食材数と感覚偏倚とでは,「触覚」「視覚」との関連が強く,保護者が食べない理由としてあげていた「食感」「見た目」と重なっていた.食材を加工し提供することは,「触覚」「視覚」への配慮となり,有効な対応法と思われた.食事場面だけでなく,生活全般を通して,発達レベルの向上や感覚偏倚の軽減を行うことが必要と推察された.</p>
著者
西方 浩一 田村 文誉 向井 美惠
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.32-42, 2001-06-30 (Released:2020-07-19)
参考文献数
28

本研究は,経口摂取準備期からの乳児期の目・手・口の協調運動の発達過程を明らかにする目的で,健康な乳児2名(女児2名)を対象に,被験玩具(棒大・小の木製玩具,立方体小のプラスティック玩具,立方体中・大の木製玩具)をしゃぶる様子をA児は出生後2か月から11か月まで,B児は出生後4か月から11か月までの間,約2週間から4週間ごとにデジタルビデオカメラにて撮影した.各被亡児の動作について,1)被験玩具のつかみ方,2)把握様式,3)視線の変化,4)被験玩具の入り方,5)頸部の代償運動,6)口腔の動き,について観察評価したところ,以下の結論を得た.1)リーチ機能の発達する前段階から手と口の協調運動が,また5,6か月頃より視覚的誘導のもと,手と口の協調運動が開始されることがうかがえた.自食準備期としての玩具しゃぶりは,離乳開始以前より始まり,離乳の後期頃には行われなくなる可能性が示唆された.2)リーチ,把握機能が未熟な乳児期の児に対して,玩具の把握形態は,立方体に比べ,棒状の形態のものの方が早期より把持が可能となり,その結果口腔へ運び込まれる可能性も高くなるのではないかと推察された.
著者
髙橋 摩理 内海 明美 大岡 貴史 向井 美惠
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.284-291, 2011-12-31 (Released:2020-06-25)
参考文献数
16
被引用文献数
1

地域療育センターを利用している自閉症スペクトラム障害(以下,ASD)と診断された小児のうち,研究協力の同意が得られた小児とその保護者338 名を対象にアンケートを行った.アンケートの調査項目は,食事時における問題行動の有無,食べ方の問題の有無,感覚偏倚の有無,嫌がる行為の有無,である.アンケートの質問項目について,年齢および発達レベルとの関連,食事時における問題行動の有無・食べ方の問題の有無と感覚偏倚との関連の検討を行った.食事時の問題行動として「立ち歩く」「ガタガタさせる」,食べ方では「1 品食べ」「詰め込み」「丸飲み」が多くみられた.食事時の問題行動は発達レベルとの関連がみられ,年齢に応じて問題が自然に軽減・消失することが困難であると推察された.感覚偏倚は「嫌がる触覚がある」「好きな触覚がある」「嫌いな音がある」が30% 以上にみられたが,年齢や発達レベルとの間に一定の傾向はなかった.嫌がる行為は8,9 歳群,正常群に少なく,過去はあったが現在はない「過去あり」の占める割合が多いことから,成長により改善できる項目と推察できた.食事における問題と感覚偏倚の間に多くの関連がみられ,感覚偏倚の軽減が重要であるが,対応は困難と思われる.嫌がる行為が改善している様子がうかがわれたことから,感覚偏倚というASD の特性はありながら,食事時を含む日常生活上の問題を改善できる可能性があると推察された.そのためには,全体的な発達を促す対応が重要と思われた.
著者
大塚 義顕 渡辺 聡 石田 瞭 向井 美惠 金子 芳洋
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.867-876, 1998-12-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
28
被引用文献数
4

乳児期に獲得される嚥下機能の発達過程において,舌は中心的役割を果たしている。しかしながら,吸啜時の動きから固形食嚥下時の動きへと移行する舌の動きの経時変化の客観評価についての報告はほとんど見られない。そこで,生後20週から52週までの乳児について,超音波診断装置を用いて顎下部より前額断面で舌背面を描出し,舌の動きの経時的発達変化の定性解析を試みたところ以下の結果を得た。1.生後20週には,嚥下時の舌背部にU字形の窪みが見られ,舌全体が単純に上下する動きが観察された。2.生後26週には,嚥下時の舌背正中部に陥凹を形成する動きがはじめて見られた。3.生後35週には,上顎臼歯部相当の歯槽堤口蓋側部に舌背の左右側縁部が触れたまま正中部を陥凹させる動きが確認できた。4.生後35週から52週までの舌背正中部の陥凹の動きは,ほぼ一定で安定した動きが繰り返し観察できた。5.舌背正中部にできる陥凹の動きの経時変化から安静期,準備期,陥凹形成期,陥凹消失期,口蓋押しつけ期,復位期の6期に分類することができた。以上より,前額断面での舌運動は,舌の側縁を歯槽堤口蓋側部に接触固定し,これを拠点として舌背正中部に向けて食塊形成のための陥凹を形成する発達過程が観察できたことから,食塊形成時の舌の運動動態がかなり明らかとなった。
著者
大河内 昌子 向井 美惠
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.224-231, 2003 (Released:2013-01-18)
参考文献数
18

乳児を対象にした乳児用食品の固さの基準値についての客観的な検証は行われていない現状である.そこで,乳児に適正な物性基準の資料を得る目的で,離乳期の乳児を対象に摂食時の口腔領域の動きを観察評価して,その発達状態によって4群に分類し,以下の検討を行った.被験食品は,予め調整した固さの異なる4種類の基準食品とし,それらの食品の摂食時の処理方法の適否および顎の運動回数を指標として4群間で比較検討を行い以下の結論を得た.1.被験食品の固さが増加するに伴い,適正処理可能な乳児の割合は減少した.2.乳児は,食品の固さに応じて,顎の運動回数を変化させ食品を処理していることが認められた.3.食品の固さの変化による顎の運動回数は,離乳の時期によって異なることが示唆された.離乳初期~後期の乳児が処理できる固さの目安は得られたが,今後これらの固さの食品に対して適切な顎運動回数の検討などがさらに必要と考えられた.
著者
篠崎 昌子 川崎 葉子 猪野 民子 坂井 和子 高橋 摩理 向井 美惠
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.52-59, 2007-04-30 (Released:2021-01-16)
参考文献数
9

3歳から6歳の自閉症スペクトラム幼児(ASD児)123名と保育園に在籍する定型発達幼児(一般児)131名の保護者に対し,食材(品)8種類46品目の摂食状況についてのアンケート調査を実施し,比較検討し以下の結果を得た.(1)ASD児では「絶対食べない」食材(品)がある人数およびその食材(品)の数は一般児に比べ有意に多かった.21個以上と多数の品目を絶対食べない児が,いずれの年齢でも10%前後存在した.ASD児が絶対食べない理由として,外観を挙げることが多かったが,一般児では食べない理由は様々であった.ASD児の知能障害の有無と,絶対食べない食材(品)数との間には統計的な有意差はなかった.(2)ASD児ではしばしばそれまで食べていた食材(品)を食べなくなることや,食べなかったが食べるようになると言ったエピソードがあり,食べなくなるエピソードは60%,食べるようになるエピソードは53%といずれも半数以上に見られた.一般児ではそれぞれ14%,11%で,両者には有意差があった.知能障害の有無との関係では,食べなくなるエピソードが,有意差をもって遅滞群で多く見られた.(3)いわゆる偏食があっても,時期を待つことで自然軽快する可能性が大きいという結果は,療育上重要である.
著者
篠崎 昌子 川崎 葉子 猪野 民子 坂井 和子 高橋 摩理 向井 美惠
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.42-51, 2007-04-30 (Released:2021-01-16)
参考文献数
10

3歳から6歳の自閉症スペクトラム幼児(以下ASD児)123名と,保育園に在籍する定型発達幼児(以下一般児)131名の保護者に対し,食べ方の問題を「食事環境に関するもの」と,「食物処理に関するもの」に大別しアンケート調査を実施,年齢ごとに比較検討し,以下の結果を得た.(1)食事環境に関して6項目について調査した.3歳で60%近くのASD児に何らかの問題があり,4,5歳でやや増加し,6歳でも半数以上に問題がみられた.「じっと座っていられない」は年齢に関係なく半数以上にみられた.「いつもと違う場所だと食べない」,「いつもと違う人がいると食べない」,「食器が違うと食べない」3項目は療育により軽快する可能性があると考えられた.しかし「自宅あるいは通園でしか食べない」,「決まった時間に食べられない」ことは短期間では軽快しないと考えられた.(2)食物処理に関して7項目について調査した.年齢を問わず70から80%のASD児に問題がみられた.「スプーンやフォークがうまく使えない」がもっとも多く,一般児では皆無となる5,6歳以降も存続した.「口にいっぱい詰め込んでしまう」は年齢による減少はなく,「噛まずに飲み込む」,「口にためて飲み込まない」は年齢があがると却って増加しており,短期間では軽快しないと考えられた.「水分ばかり摂る」,「一度飲み込んだものを口に戻す」については,さらに検討が必要と考えられた.(3)知的能力との関連について知能障害がASD児の問題の発現に関係している可能性が考えられたのは,現段階では「食具がうまく使えない」の1項目であった.
著者
髙橋 摩理 大岡 貴史 内海 明美 向井 美惠
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.36-42, 2012-03-25 (Released:2015-03-15)
参考文献数
17
被引用文献数
3

自閉症スペクトラム(以下ASD)児の摂食状況の調査と摂食・嚥下機能の評価を行い,療育場面および家庭における食事の問題に対する効果的な医療的支援方法を検討することを目的に本研究を行った。地域療育センター摂食・嚥下外来を受診したASD 25 名を対象に,主訴,摂食・嚥下機能評価,指導内容と経過等の検討を行った。主訴は偏食,丸飲み,溜め込みが多く,年齢により差がみられた。低年齢では口腔機能の未熟さや食具操作の未熟さが食べ方の問題として表出し,高年齢ではASD のこだわりなどの特性が偏食として問題になったものと思われる。一方,主訴と摂食・嚥下機能の問題が一致しないケースもみられ,保護者が小児の摂食・嚥下機能を正しく理解していない様子も窺われた。また,食べ方が口腔機能に影響を与えている様子が窺われ,ASD の食事の問題に対応するにあたっては,摂食・嚥下機能評価を行い,それに基づき支援方法を検討する必要性が示唆された。指導が継続しているケースは発達レベルが低く,自閉症の特性が強い傾向があり,全体的な発達を促す対応が重要と思われた。
著者
田村 文誉 水上 美樹 綾野 理加 大塚 義顕 岡野 哲子 高橋 昌人 向井 美惠
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.182-188, 2000-04-30
参考文献数
18
被引用文献数
15

都内某特別養護老人ホームに入居中の要介護高齢者73名を対象とし,「全身状態」「生活環境」「介護状況」の聞き取り調査と,「口腔内診査」「RSST]および「フードテスト」による摂食・嚥下機能評価を行った。それらのうち,上下対合歯による安定した顎位の保持が摂食・嚥下機能に及ぼす影響を明らかにする目的で,「安定した顎位」とRSSTおよびフードテストの結果との関連について検討した結果,以下の知見を得た。1.RSSTの30秒以内の嚥下回数が3回未満の者は,57名中17名(29.8%)であり,安定した顎位との関連では,安定した顎位のとれる者ではとれない者と比較して,1%の危険率で30秒以内の嚥下回数が3回未満の者が有意に少なかった。2.RSSTの初回嚥下までの時間が5秒以上かかった者は,57名中16名(28.1%)であり,安定した顎位との関連では,安定した顎位がとれる者ではとれない者と比較して,初回嚥下までの時間が5秒以上の者がやや少なかったものの,統計学的に有意な差は認められなかった。3.フードテストの口腔内残留がみられた者は,69名中40名(58.0%)であり,安定した顎位との関連では,安定した顎位がとれる者ではとれない者と比較して,1%の危険率で有意に口腔内残留が少なかった。
著者
向井 美惠 弘中 祥司
出版者
昭和大学・昭和歯学会
雑誌
Dental Medicine Research (ISSN:18820719)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.31-35, 2008-03-31 (Released:2012-08-20)
参考文献数
13

障害児・者に対する摂食・嚥下機能障害の評価方法には, 成人・高齢患者と異なった対応を行わなければならないことが多くみられる.VF検査やVE検査などは共通しているが, 「指示」嚥下が不可能であることが多い.したがって, 数多くある評価方法の中から複数を組み合わせて診断をより正確に行う必要である.また, 発達期にある患児の場合にはその後の成長を踏まえて歯列不正の予防をも視野に入れた対応が必要となる.今後の歯科医師が行う摂食・嚥下障害患児への対応の一つとして重要であると思われる.