著者
緒方 剛 中村 好一 圓藤 吟史 林 朝茂 本田 靖
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.61, no.9, pp.556-564, 2014 (Released:2014-10-08)
参考文献数
22
被引用文献数
1

目的 2003年に茨城県神栖町で井戸水の飲用による神経系健康被害が見つかった。これは,ジフェニルアルシン酸で汚染された水による集団中毒として初めて経験する例である。その後,より低い濃度の井戸水を飲用した同町民も確認された。本研究は曝露住民の神経系およびその他の自覚症状と流・死産の状況を検討した。方法 2004年に町内に居住する10~65歳の住民のうち,ヒ素換算値 2,262 μg/L のジフェニルアルシン酸を含む井戸水を飲用した高濃度曝露住民20人,2–230 μg/L(平均 85 μg/L)の井戸水を飲用して毛髪または爪からジフェニルアルシン酸の検出された中低濃度曝露住民67人,および後者住民の性・年齢をマッチした非曝露住民134人を対象とし,自覚症状,妊娠および自然流産について質問紙法で面接調査した。年齢で層別化して症状を比較した。結果 神経系自覚症状の「目眩」,「立ちくらみ・ふらつき」,「手足がビリビリ・ジンジン」,「文字が書きにくい」,「物が二重に見える」の出現割合,および神経系以外の自覚症状の「不眠」,「憂うつ」,「頭痛」,「皮膚が痒い」,「体重変化」,「下痢」,「咳」,「息苦しい」の出現割合は中低濃度曝露住民で非曝露住民に比べて有意に高かった。高濃度曝露住民でも高い傾向がみられた。1999~2003年に非曝露住民では妊娠が15回あり自然流産はなかったが,妊娠中に井戸水を飲用した中低濃度曝露住民では 5 回の妊娠で自然流産が 3 回あった。この自然流産は2001年以後であり,そのうち 2 人が飲用中止後に再度妊娠し出産した。結論 ジフェニルアルシン酸の曝露住民は,非曝露住民よりも神経系およびその他自覚症状の出現割合が有意に高かった。また,中低濃度曝露住民で自然流産がみられた。
著者
久保 正二 竹村 茂一 坂田 親治 田中 肖吾 中沼 安二 圓藤 吟史
出版者
一般社団法人 日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.763-771, 2014-12-31 (Released:2015-01-28)
参考文献数
30
被引用文献数
1

有機溶剤の高濃度暴露を受けた印刷労働者に,胆管癌が高率に発症した.胆管癌診断のきっかけの多くはγ-GTP高値の肝機能異常,CA19-9などの腫瘍マーカー上昇や超音波検査での異常所見であった.画像診断上,腫瘤像,胆管狭窄像,主腫瘍による末梢側胆管拡張像に加えて,主腫瘍と関係のない限局性の肝内胆管拡張像がみられた.主腫瘍は,腫瘤形成型あるいは胆管内発育型肝内胆管癌や乳頭型肝外胆管癌で,その多くは総肝管から肝内胆管第3次分枝の比較的大型胆管に存在した.広範囲の胆管に慢性胆管傷害像およびbiliary intraepithelial neoplasia(BilIN)やintraductal papillary neoplasm of the bile duct(IPNB)などの前癌病変がみられ,多段階発癌機序が推測された.ジクロロメタンや1,2-ジクロロプロパンにさらされる業務による胆管癌が,業務上疾病に分類され,新たな職業癌として認識されるようになった.