著者
岡庭 信司
出版者
一般社団法人 日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.226-237, 2015-05-31 (Released:2015-06-19)
参考文献数
31
被引用文献数
3

体外式超音波検査(以下US)は簡易で低侵襲な検査であるため人間ドックや集団検診といったスクリーニングにも広く用いられている.胆嚢ポリープや壁肥厚はよく遭遇するUS所見であり,胆嚢癌はUS検診の成果が期待できる癌とされている.胆嚢の腫瘍性病変の超音波像は隆起あるいは腫瘤像(有茎性,広基性)と壁肥厚に分類する.この分類は鑑別診断のみならず深達度診断にも有用であり,有茎性の癌は早期癌(腺腫内癌)と診断可能である.胆嚢癌との鑑別診断には,大きさ,内部エコー,表面構造,層構造,ドプラ所見などを評価することが有用である.さらに,胆嚢腫大,肝外胆管拡張,デブリ,胆嚢壁の性状といった間接所見も胆道癌の拾い上げに有用である.深達度診断においては,胆嚢壁の低エコー層にMPとSS浅層が含まれるため層構造の評価のみでは診断が困難であり,病変の形状,大きさ,内部エコーおよび造影エコーによる染影所見などを併用する必要がある.
著者
久保 正二 竹村 茂一 坂田 親治 田中 肖吾 中沼 安二 圓藤 吟史
出版者
一般社団法人 日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.763-771, 2014-12-31 (Released:2015-01-28)
参考文献数
30
被引用文献数
1

有機溶剤の高濃度暴露を受けた印刷労働者に,胆管癌が高率に発症した.胆管癌診断のきっかけの多くはγ-GTP高値の肝機能異常,CA19-9などの腫瘍マーカー上昇や超音波検査での異常所見であった.画像診断上,腫瘤像,胆管狭窄像,主腫瘍による末梢側胆管拡張像に加えて,主腫瘍と関係のない限局性の肝内胆管拡張像がみられた.主腫瘍は,腫瘤形成型あるいは胆管内発育型肝内胆管癌や乳頭型肝外胆管癌で,その多くは総肝管から肝内胆管第3次分枝の比較的大型胆管に存在した.広範囲の胆管に慢性胆管傷害像およびbiliary intraepithelial neoplasia(BilIN)やintraductal papillary neoplasm of the bile duct(IPNB)などの前癌病変がみられ,多段階発癌機序が推測された.ジクロロメタンや1,2-ジクロロプロパンにさらされる業務による胆管癌が,業務上疾病に分類され,新たな職業癌として認識されるようになった.
著者
滝川 一
出版者
一般社団法人 日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.189-195, 2011 (Released:2011-08-12)
参考文献数
24
被引用文献数
2

要旨:胆汁酸は胆汁生成に重要であるとともに,ミセルを形成して胆汁中でのコレステロールの溶存や小腸内での脂質の消化,吸収にも重要な役割を果たしている.胆汁酸は肝でコレステロールから生合成され胆汁中に排泄され,その約95%が腸管上皮から吸収され門脈を経て肝に至り,肝で効率よく取込まれ再び胆汁中に排泄されるという腸肝循環を行っている.この腸肝循環には回腸末端および肝での効率の良い胆汁酸の輸送系が重要な役割を果たしている.肝細胞から毛細胆管へのコレステロールとリン脂質の排泄は各々,ABCG5/G7とMDR3により行われ,両者は単層の小胞を形成し,これにBSEPで排泄された胆汁酸が加わり物理化学的に安定なミセルを形成する.胆汁酸をリガンドとする核内レセプターであるFXRは,CYP7A1とNTCPを抑制しBSEPを活性化することにより,肝細胞内に蓄積した胆汁酸を低下させる.また,胆汁酸の細胞膜受容体TGR5も胆管胆汁の分泌を制御していると考えられている.
著者
梅澤 昭子
出版者
一般社団法人 日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.37-46, 2022-03-31 (Released:2022-03-31)
参考文献数
30
被引用文献数
1

腹腔鏡下胆嚢摘出術(Lap-C)は標準的な手術になったが,一方で,重大な合併症は一定の確率で起こり続けている.Lap-Cによる血管胆管損傷は最も避けるべき合併症のひとつであり,その予後は不良である.胆管損傷を回避するための解剖学的事項すなわちランドマークを理解し,危険回避手技を励行することが大切で,特にCritical View of Safety(CVS)の成立は誤認損傷の回避に有用である.また,急性胆嚢炎などの炎症性変化によりCalotの三角が線維化瘢痕化して剥離が困難になり,CVSを成立させることが不可能な,いわゆるdifficult gallbladderにおいては,胆嚢亜全摘術に代表される危険回避手術,特にfenestrationを積極的に選択すべきである.ランドマークを理解し危険回避手技と回避手術を自在に活用することが,安全なLap-Cの完遂につながる.
著者
小林 聖幸 鎌田 英紀 中林 良太 小野 正大 河野 寿明 波間 大輔 藤田 直樹 山名 浩喜 徳毛 誠樹 國土 泰孝
出版者
一般社団法人 日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.747-753, 2023-10-31 (Released:2023-10-31)
参考文献数
18

近年,内視鏡的経乳頭的胆嚢ドレナージ術は急性胆嚢炎に対して行われるドレナージ方法の一つとして普及しているが,bridge to surgery(BTS)におけるドレナージとしての報告は少ない.今回,急性胆嚢炎のBTSとして内視鏡的経乳頭的胆嚢ステント留置術(EGBS)を行った20例を経験したため報告する.166例の急性胆嚢炎症例の内,BTSとしてEGBSを施行した20例を対象とし,有用性と安全性について検討した.EGBSの手技的成功率は100%(20/20例),手技関連偶発症は5%(1/20例)に認め,軽症急性膵炎であり,保存的加療で改善した.術前待機期間のステントトラブルは5%(1/20例)にみられ,経乳頭的にステントを交換し,その後胆嚢摘出術が施行された.急性胆嚢炎診断時に早期胆嚢摘出術が困難な症例に対して,EGBSはBTSにおけるドレナージ法として有用かつ安全な治療法と考えられた.
著者
若井 俊文 坂田 純 三浦 宏平 堅田 朋大 廣瀬 雄己 滝沢 一泰
出版者
一般社団法人 日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.54-59, 2019-03-25 (Released:2019-04-08)
参考文献数
30
被引用文献数
1

十二指腸乳頭部癌は膵頭十二指腸切除術が標準的治療であり,胆道癌の中で最もR0切除率が高く,治療成績は比較的良好である.粘膜内に留まりOddi筋に達しない癌はリンパ節転移をきたす可能性が非常に低く,理論的には局所的乳頭部切除術が適応可能である.しかし,術前画像診断では癌がOddi筋に達するか否かを正確に診断することは困難であり,基本的には十二指腸乳頭部癌に対しては縮小手術を適応するべきではない.生検で腺腫と診断された場合も局所的乳頭部切除術が適応可能だが,深部に癌を認める可能性もあり,術後の病理学的検索が必須である.膵浸潤は十二指腸乳頭部癌の重要な予後因子であり,癌が膵実質におよぶと神経(周囲)浸潤を高率に認め,浸潤性膵管癌と同様の生物学的悪性度を有するようになる.リンパ節転移も強力な予後因子であり,リンパ節転移個数(0個,1~3個,≥ 4個)は本疾患の予後を良好に層別化する.
著者
山本 智支 乾 和郎 片野 義明 三好 広尚 小林 隆 松浦 弘尚
出版者
一般社団法人 日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.147-155, 2019-03-25 (Released:2019-04-08)
参考文献数
32

急性胆嚢炎は胆嚢に生じた急性の炎症性疾患と定義され,原因の85~95%は胆嚢結石である.リンパ管のうっ滞・拡張を認める浮腫性胆嚢炎,壊死出血を認める壊疽性胆嚢炎,膿瘍化してきた化膿性胆嚢炎に分けられる.診断は,臨床兆候(Murphy's signと右上腹部の腫瘤触知・自発痛・圧痛),血液検査,画像所見により行う.白血球異常,CRPの上昇などを認め,ビリルビン,肝・胆道系酵素の上昇は軽度見られることが多い.腹部USでは,胆嚢腫大,壁肥厚,結石嵌頓,デブリ,sonographic Murphy's signのほか,胆嚢周囲浸出液貯留,胆嚢壁hypoechoic layer,不整な多層構造を呈する低エコー帯,ドプラシグナルが診断に有効である.急性胆嚢炎の診断が困難な場合や胆嚢穿孔,胆嚢周囲膿瘍などの合併症が疑われた際には,ダイナミックCTが有用である.
著者
山村 詠一 長濵 正亞 高野 祐一 丸岡 直隆 大池 信之
出版者
一般社団法人 日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.731-740, 2016-10-31 (Released:2016-11-10)
参考文献数
19
被引用文献数
3

症例は52歳,男性.既往歴,アレルギー歴に特記事項なし.前医にて急性胆嚢炎に対し胆嚢摘出術を施行され,術後経過は概ね良好であったが術前から認められた肝障害が増悪した.前医にて精査したところ原因が不明であったため,胆嚢摘出術より1カ月後に当院紹介受診した.CTやMRCPでは総胆管に限局性の狭窄を認め,ERCPにて胆道ドレナージを行った.狭窄部の生検では胆管壁に好酸球浸潤を認め,末梢血好酸球数増加所見と併せ好酸球性胆管炎と診断した.ドレナージ後に胆管狭窄は軽快し,ご本人の希望もあったためステロイドは投与せず経過観察の方針となった.その後1年間無治療経過観察しているが,正常胆管像となり肝胆道系酵素も正常化している.今回我々は,急性胆嚢炎で発症し,その後胆管狭窄を呈するもステロイド治療を行わず無治療で軽快した好酸球性胆道炎の1例を経験したため,若干の論文的考察を加えて報告する.
著者
岡庭 信司
出版者
一般社団法人 日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.294-307, 2019-05-31 (Released:2019-06-17)
参考文献数
29
被引用文献数
1

超音波(US)は簡易で低侵襲なことから,スクリーニングにも広く用いられている.しかし,胆道は解剖学的な位置関係が複雑であるだけでなく,肥満や消化管ガスにも影響を受けやすいことからUSによる描出が困難な領域でもある.胆道の描出は仰臥位よりも左側臥位の方が容易であり,小さな病変の拾い上げには高周波プローブや拡大観察が必須である.胆嚢は多重反射やサイドローブといったアーチファクトに注意が必要である.さらに,US像を有茎性隆起型,広基性隆起型,壁肥厚型の3群に分類すると,鑑別のみならず深達度診断にも有用である.肝外胆管は逆“く”の字の走行をしているため,プローブを時計方向に回転させ,患者の右側に向けながら足側に進めると,肝門部領域から遠位胆管まで描出できる.さらに,虚脱や胆泥の貯留を伴う腫大といった胆嚢の異常像は,潜在的な胆管病変の拾い上げに有用である.
著者
沼田 義弘 大屋 敏秀 田妻 進 山崎 美保 菅野 啓司 岸川 暢介 山本 隆一
出版者
一般社団法人 日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.219-225, 2015-05-31 (Released:2015-06-19)
参考文献数
17

古くより胆石の危険因子として5F(Forty,Female,Fatty,Fair,Fertile)が知られており,特にFattyの基礎的原因として糖尿病や脂質代謝異常が関与することが報告されている.肥満,糖尿病,脂質代謝異常の急激な増加が指摘されている我が国において,胆石保有者の特徴,胆石形成の背景や危険因子の変化について評価検討されるべきと考えられる.我々は205例の胆石症例を土屋分類に従ってI型,II型,III型の3つの群に分類し,年齢,性別,BMI,血清脂質,血糖,HbA1c,インスリンについて解析した.コレステロール石保有者(土屋I型)の特徴として,1)肥満,2)インスリン抵抗性がみとめられ,多変量解析からは肥満と年齢が有意な危険因子とみなされた.今回の検討結果から,生活習慣にも深く関係する肥満や耐糖能異常の増加は,コレステロール石の頻度を増加させる可能性を示唆するものと考えられる.
著者
井元 章 増田 大介 小倉 健 瀧井 道明 梅垣 英次 樋口 和秀
出版者
一般社団法人 日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.835-841, 2013-12-31 (Released:2014-01-23)
参考文献数
27
被引用文献数
2

セフトリアキソン(CTRX)の投与が胆泥形成に関わることは,主に小児を中心に報告され,広く知られている.我々は,細菌性髄膜炎に対するCTRXの高容量・長期間投与により胆石が形成され,投与の中止により自然消失を確認し得た高齢者の2例を経験した.1例は総胆管結石による閉塞性胆管炎を併発したため,内視鏡的ドレナージを要したが,1例は経過観察のみで自然消失を確認し得た.CTRX中止から胆石消失に要した期間はそれぞれ21日間,38日間であり,両者ともそれ以後胆石の再発は認めていない.CTRX投与時には胆泥が形成されやすく,小児だけでなく高齢者にも発症し,時には重症化しうる合併症を併発する可能性のあることを念頭において診療にあたることが必要である.
著者
洞口 淳 藤田 直孝
出版者
一般社団法人 日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.698-702, 2009 (Released:2009-11-27)
参考文献数
18
被引用文献数
2

要旨: USやEUSといった超音波検査は,胆嚢病変の存在診断や質的診断を行う上で重要な検査法の一つである.特にEUSは胆嚢病変の詳細な観察が可能であるため,腫瘍の形態と胆嚢壁層構造の関係から癌の壁深達度診断が可能である.EUSで有茎性の病変であることが確認されれば,深達度は粘膜内にとどまる早期癌と診断できる.一方,病変が広基性の場合には病変部の胆嚢壁の詳細な観察を行い,外側高エコー層に変化が生じているか否かで深達度診断を行う.外側高エコー層に不整がみられる場合には漿膜下浸潤が考えられるが,外側高エコー層に影響のない症例では癌浸潤が粘膜層,粘膜固有筋層,漿膜下層までのいずれの場合も存在するため,鑑別には他のモダリティの併用が必要である.最近ではUSでドプラ法や造影法を用いて腫瘍部の血流解析を行うことで,深達度を診断する試みがなされており,今後EUSでの応用が期待される.
著者
山本 隆久 内田 清久 斉藤 洋一
出版者
一般社団法人 日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.49-60, 1987-06-30 (Released:2012-11-13)
参考文献数
30

ラットに回腸広範囲切除を行い,最長12カ月までの胆汁酸代謝の変化につき検討した.回腸切除により糞中胆汁酸排泄量は増加し,胆汁中胆汁酸分泌量,胆汁酸プールサィズ,胆汁酸の腸肝循環回転数,胆汁酸の吸収効率は低下した,これらの変化は術後4週よりみられ,術後12ヵ月経過しても改善されなかった.肝では回腸切除により,胆汁酸特にCAの生合成が亢進し,CA系胆汁酸:CDCA系胆汁酸の比は術後6ヵ月まで増加した.反転小腸を用いた胆汁酸の吸収実験では,回腸切除後6ヵ月経過しても残存上部小腸に胆汁酸の能動吸収は認められなかった.以上の結果より,回腸広範囲切除により招来された胆汁酸吸収障害は,長期経過後も改善され得ないと結論される.
著者
中原 一有 片倉 芳樹 奥瀬 千晃 足立 清太郎 中津 智子 高木 麗 伊東 文生
出版者
一般社団法人 日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.107-112, 2011 (Released:2011-06-13)
参考文献数
18
被引用文献数
1

要旨:症例は62歳,63歳,72歳の男性.原疾患は胆管結石2例,慢性膵炎1例といずれも良性疾患の正常胃症例で,ERCP時にスコープによる十二指腸穿孔をきたした.穿孔部位は下行脚が2例,上十二指腸角が1例で,穿孔方向は後腹膜が2例,腹腔内が1例であった.原因はいずれもスコープのストレッチ操作によるものであった.術者はいずれもERCP経験が40件未満であった.2例は穿孔後早期に腹部症状の増悪と腹膜刺激症状の出現を認め外科手術を要したが,後腹膜穿孔の1例は腹部症状が軽微で保存的加療のみで改善した.なお全例軽快退院した.ERCP時のスコープのストレッチ操作で十二指腸穿孔を来す恐れがあり,特に腹腔内穿孔や腹部症状が増悪傾向を示す場合は早急な外科手術による対応を要する.一方,身体所見や血液検査の炎症所見に乏しい後腹膜穿孔では保存的加療のみで改善が得られる場合がある.