著者
林 良嗣 谷口 守 土井 健司 佐々木 葉 杉原 健一 冨田 安夫
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

人口減少・少子高齢化が早く進む地方都市において,郊外からの計画的撤退と中心市街地の再構築が必要であることを示し,さらにその具体的な方法論を明らかにするために,愛知県豊田市をスタディエリアとして,以下の検討を行った.1.将来状況予測:人口予測に基づき,市内各地点の居住環境質,インフラ維持コスト,環境負荷を計測し,郊外部での悪化傾向を示し,人口減少・少子高齢化が進行する地方都市では双対型都市戦略(郊外からの撤退・中心市街地の再構築)の必要性を示した.さらに,今後の都市域縮小策による社会基盤整備コスト削減効果を世代会計の手法を用いて評価した.2.政策目標運成度指標:QoLインディケータを適用した欧米の事例調査に基づき,わが国の都市構造検討に適用可能なQoL・市街地維持コスト・環境負荷の面からなる多元的評価手法を開発した.さらに,QoL向上を可能とする都市構造として分散集中型構造の提案を行った.3.市街地デザイン:街区デザイン検討のための3次元都市モデル自動生成システムの開発を行った.,これを用いて,複数のシナリオにもとづく将来の建物の更新結果の景観を予測評価し,現状の容積率の引き下げ(ダウンゾーニング)の案などを提示した.一方,中心市街地再構築に必要不可欠な自動車依存脱却策の1つとして,自動車共同利用に着目し,国内の事業化事例を対象とした分析を行った結果,自動車保有台数削減等の環境改善効果が観測された.4.事業化検討:日本の密集市街地整備事業の現状と課題を整理し,民間非営利組織による密集市街地整備事業の先進的な事例分析に基づいて,民間非営利組織の役割および特徴について明らかにした.また,TDR制度導入による郊外田園の開発抑制と,都市空間の広域的管理手法としての開発権取引の導入効果について検討した.
著者
土井 健司
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.86, no.1, pp.1-26, 2012-06-30 (Released:2017-07-14)

本稿では最古の病院のひとつに数えられるカイサレアのバシレイオスの建てた病院施設「バシレイアス」について残存する資料を用いて再構成し、さらにバシレイオスがこれを建てた理由、背景を探り、最後に彼の病貧者観について考察する。残存する資料から次のことが分かる。バシレイオスはウァレンス帝から賜ったカイサレア近郊の土地に病院施設を建てたが、そこには看護者、医者、牛馬、さらに案内人として聖職者たちもいた。これはバシレイオス自身によって「カタゴギア」、「クセノドケイオン」、また「プトコトロフェイオン」とも呼ばれている。バシレイオスは寄付によってこの施設を運営し、おそらく患者や旅人などは無料であった。また彼は定期的にこの施設を訪れ、なかでもレプラの病貧者の治療を行っていた。それは修道士たちによっても実践され、それはバシレイオスの定める修道的生活のプログラムに含まれていた。この病院はバシレイオス自身のフィランスロピア思想と受肉論に支えられていて、蔑まれていたレプラの病貧者を同じ人間として、またキリストとしてその看護・治療を行って行く場所となっていった。
著者
中野 裕介 豊嶋 克行 垂水 浩幸 土井 健司 高橋 恵一 林 敏浩
出版者
情報処理学会
雑誌
研究報告グループウェアとネットワークサービス(GN) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2010, no.14, pp.1-7, 2010-05-13

商店街は,それぞれの店と顧客とのソーシャルグラフ上に形成されたリアルなネットワークである.しかし近年郊外型の大型店舗の出店や人口の空洞化により,全国的に商店街のネットワークが縮小している.本研究では都市におけるアフォーダンスに着目し,twitter や IC カードを用いた地域ネットワークの形成を促進する取組を行っている.The shopping district is a real network on the Social Graph which shows the relation between the shops and the customers. However, increasing of shopping mall in suburb and becoming hollow of population have created worry about reducing the network of any shopping districts. In this research, we have concentrated on "affordance" in urban development, and improved to build up the network of local as using "twitter" and IC cards.
著者
土井 健司
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究を通してカッパドキア三教父の救貧に関わる思想と実践について総合的に明らかにすることができた。大バシレイオスは369年の食糧危機に際して富裕者に食糧の供出を求めて実現し、さらに72年には世界最古の病院の一つ「バシレイアス」を建て、主にレプラの病貧者のケアを実践する。ナジアンゾスのグレゴリオスはこれをサポートする説教を行い、ニュッサのグレゴリオスも同様の説教ならびに他の救貧説教を残している。彼らの思想では、貧者はキリストであり、貧者へのケアはキリストへの奉仕になる。これを支えるのが受肉論である。逆に言えば、受肉論によってはじめて、社会のなかで人間扱いされない貧者(特にレプラの病貧者)が「人間」としてクローズアップされるのである。
著者
土井 健司 宍戸 栄徳 柴田 久
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、成果論文「都市基盤整備におけるコンフリクト予防のための計画プロセスの手続的信頼性に関する研究」において、先ほど最高裁判決の出された小田急線高架化事業取消請求事件を事例検証している。さらに都市基盤整備を巡る訴訟判例の経年的整理よりコンフリクトを巡る問題の構図が明らかにされている。特に小田急線問題に象徴される環境アセス手続主体間の独立性を巡る課題やコンフリクトの象徴を明らかにし、長い計画期間を有する都市基盤整備が留意すべき公益性とリスク評価の捉え方を提示している。結論として、実体関係に基づく手続審査とソーシャルキャピタル論からの手続的信頼性の意義を再考し、アセスメント手法などの改善の必要性を示している。これに基づき成果論文「イギリスの政策評価におけるQoLインディケータの役割と我が国への示唆」において、コンフリクト予防のための政策アセスの取り組みについて先進事例を紹介している。またコンフリクト予防に対する実践的研究として、成果論文「QoL概念に基づく都市インフラ整備の多元的評価手法の開発」を行い、生活の質(QoL)の向上という長期的な目標設定と、市民の価値観の多元性を組み込んだQoL評価(総合アセスメント)の仕組みについて、その重要性が示唆されている。ここでのQoL評価は、総合アセスの骨格に過ぎないものの、相互の価値観の違いをQoL要素の重みの違いと理解したうえで、共通利益としての公益を探ることこそが市民相互の互酬性を育み、ソーシャルキャピタルの醸成、さらに結果として都市基盤整備をめぐるコンフリクト予防に繋がるという論証結果が一連の研究成果として示されている。なおこれらの研究活動は、土木計画学研究委員会 政策重点課題プロジェクトの研究成果として位置づけられるものである。