著者
坂本 峰至 赤木 洋勝
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物学会誌 (ISSN:09170855)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.185-190, 2005-07-31 (Released:2010-05-31)
参考文献数
25
被引用文献数
2 1

水銀はその物理的, 化学的性質に由来する優れた有用な特性を有することから, 古くから人類によって繁用されてきた金属である。しかしながら, 一方で水銀は生物に対して強い毒性を持つために, 水銀の各種化合物による中毒も古くから知られている。水銀およびその化合物は, 主に金属水銀 (Hg0) , 無機水銀 (Hg2+) , メチル水銀 (CH3-Hg+) の形態で存在し, その化学形態により生体内動態や毒性が異なる。特に, メチル水銀は自然界で無機水銀から生成され, 環境中に広く分布する神経毒物である。水俣病の原因物質としてよく知られるように, メチル水銀は生物濃縮性が高く, 主として魚介類の摂取を介して人体へ取り込まれ, 中枢神経, 特に胎児への影響が強く現れる。本論文は, 水銀およびその化合物, 特に, メチル水銀の生体内動態と毒性および最近のメチル水銀研究についての知見を概説する。
著者
苅田 香苗 坂本 峰至 吉田 稔 龍田 希 仲井 邦彦 岩井 美幸 岩田 豊人 前田 恵理 柳沼 梢 佐藤 洋 村田 勝敬
出版者
日本衛生学会
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.236-251, 2016 (Released:2016-09-30)
参考文献数
136
被引用文献数
11

More than sixty years has passed since the outbreak of Minamata disease, and high-level methylmercury contaminations now seem nonexistent in Japan. However, mercury has been continuously discharged from natural sources and industrial activities, and the health effects on children susceptible to methylmercury exposure at low levels, in addition to mercury contamination from mercury or gold mining areas in developing countries, become a worldwide concern. In this article, we provide a recent overview of epidemiological studies regarding methylmercury and mercury. The following findings were obtained. (1) Many papers on exposure assessment of methylmercury/mercury have been published since the Minamata Convention on Mercury was adopted in 2013. (2) The most crucial problem is child developmental neurotoxicity resulting from prenatal exposure to methylmercury, but its precise assessment seems to be difficult because most of such effects are neither severe nor specific. (3) Several problems raised in birth cohort studies (e.g., whether IQ deficits due to prenatal methylmercury exposure remain when the children become adults, or whether the postnatal exposure at low levels also causes such adverse effects in children) remain unsolved. (4) Concurrent exposure models of methylmercury, lead, polychlorinated biphenyls, aresenic, and organochlorine pesticides, as well as possible antagonists such as polyunsaturated fatty acids and selenium, should be considered in the study design because the exposure levels of methylmercury are extremely low in developed countries. (5) Further animal experiments and molecular biological studies, in addition to human studies, are required to clarify the mechanism of methylmercury toxicity.
著者
中村 政明 坂本 峰至 蜂谷 紀之 村田 顕也
出版者
国立水俣病総合研究センター
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

我々は、成人のMeHg曝露による健康影響を調査した。被験者は、日本の伝統的な捕鯨の発祥地の太地町の住民194人。毛髪水銀濃度の幾何平均が14.9μg/gで、鯨肉摂取量と有意に相関したことから、太地町住民が鯨肉摂取によるMeHg高曝露群であることが示唆された。毛髪水銀濃度と神経所見の間に有意な相関はなかった。また、MRSで、感覚野と小脳のNAA/ Cr比が正常だったことから、明らかな神経細胞の減少がないことが示唆された。全血水銀とSe濃度の有意な正の相関がみられ、全血水銀/Seモル比は1以下だった。これらの所見は、充分なSe摂取がMeHg曝露の有害影響がなかった原因の1つである可能性を示唆した。
著者
坂本 峰至
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.43, pp.S8-1, 2016

メチル水銀は中枢神経毒性を有し、特にヒトでは胎児の発達期脳の感受性が高いことが知られている。一方、セレンは必須微量元素であり水銀との結合性が高く、海洋哺乳類の組織には共に高濃度で存在することから、その役割が注目されてきた。加えて、1970年代にセレンが水銀化合物の毒性発現抑制効果を持つことも知られるようになり多くの研究が行われてきた。しかし、無機水銀と異なり、メチル水銀の毒性に対するセレンの防御効果とそのメカニズムについては諸説あり十分には解明さていない。今回は、セレンは本当にメチル水銀の脳での神経細胞傷害作用を防御することが出来るのか? 鯨肉を食べる風習を持つ住民の血液中水銀とセレンの関連は? 歯クジラはどうしてメチル水銀中毒にならないのか? また、歯クジラ肉を食べることのヒトへのリスクは? というメチル水銀とセレンに関するいくつかの疑問について、最近の研究成果を紹介し検討を加える。<br>【ラット発達期大脳における神経細胞変性メカニズム並びにセレノメチオニンによる防御】 ヒトの脳発達のピークは出産前の3ヶ月間で、脳のメチル水銀に対する感受性もその時期が最も高いとされている。一方、ラットの脳の発達ピークは出生後であり、胎児期ではなく新生仔期のラットにメチル水銀を投与することによって、ヒト胎児性水俣病で見られたような影響が観察できると期待される。そこで、我々はラット新生仔を用い、メチル水銀による特異的神経症状と大脳皮質における神経細胞死のメカニズムの検討を行なった。更に、メチル水銀によって引き起こされる発達期の大脳皮質での神経変性を、自然界に存在するセレノメチオニンが防御した成果について紹介する。<br>【ヒトにおけるメチル水銀とセレンの共存について】 ヒトはメチル水銀とセレンを主に魚介類摂取によって取り込み、ヒト血液における水銀とセレンの共存が注目されている。一般住民及び歯クジラ類を摂食する集団における血液中の水銀とセレンの関係を紹介する。<br>【歯クジラにおける水銀の化学形態別分析とセレンの共存について】 海洋ほ乳類や一部鳥類はメチル水銀を無機化し、臓器、特に肝臓に高い濃度で不活性なセレン化水銀を蓄積し、メチル水銀の解毒能を有しているのではないかと考えられている。一方、筋肉や脳ではメチル水銀化はそれほど起こらないと考えられている。今回は、多数例の歯クジラ筋肉を用い、筋肉中の水銀の化学形態別分析とセレンとのモル比に関する検討を行った。更に、X線吸収微細構造分析、電子プローブ・マイクロ分析による水銀・セレン化合物の構造分析を行った結果を紹介する。
著者
坂本 峰至 亀尾 聡美 丸本 倍美 安武 章 山元 恵
出版者
国立水俣病総合研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

セレンは必須微量元素で、水銀化合物の毒性防御作用が期待される本研究では、自然界に存在する毒性の低いセレンであるセレノメチオニンがラット新生仔の発達期の脳で直接メチル水銀の毒性を防御することを世界で初めて報告した(Env Sci & Tech 2013)。歯クジラ類は、比較的高濃度の水銀を体内に蓄積するが、無機化能力が高く、無機化された水銀は、非活性で無毒なセレン化水銀に変化し筋細胞内に残留していることが示唆された。捕鯨の町の住民の血液試料中の水銀とセレン濃度は有意な正の相関を示し、セレンが住民における水銀の毒性の防御の役割を果たしている可能性が示唆された。