著者
横山 真弓 坂田 宏志 森光 由樹 藤木 大介 室山 泰之
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.65-71, 2008 (Released:2008-07-16)
参考文献数
7
被引用文献数
5

兵庫県におけるツキノワグマの保護管理計画について,計画目標の達成状況と施策の効果を評価するモニタリングの現状と課題を報告する.実施しているモニタリングは,被害防止に直結する項目と生息状況の把握に必要となる項目を優先しており,個体数推定は行っていない.計画を施行した2003年から5年間に捕獲されたツキノワグマについては,学習放獣することを基本とし,総捕獲数(121頭)の86%(104頭)を学習放獣した.放獣後は,行動監視を徹底し,不要な捕殺を避ける一方,再被害を確認した場合には,速やかに次の対策に移行する措置をとった.これらの出没対応によって,個体数の減少に一定の歯止めをかけることができたと考えられる.学習放獣の効果を上げるためには,放獣と同時に誘引物の徹底管理や追い払いの対策を行うことが必要であるが,それぞれ対策上の課題が山積しており十分ではない.追い払いや学習放獣の手法改善,誘引物管理の普及啓発などについて,より効果的な方法を実施していく必要がある.県境を越えた広域管理については新たな枠組みづくりを近隣府県や国と検討していくことが必要である.これらの課題に取り組みながら,科学的データに基づく対応を浸透させていくことが被害防止と個体群の保全につながると考えている.
著者
藤木 大介 岸本 康誉 坂田 宏志
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.55-67, 2011-05-30 (Released:2018-01-01)
参考文献数
43
被引用文献数
5

近年、氷ノ山ではニホンジカCervus nippon(以下、シカと呼ぶ)が頻繁に目撃されるようになってきている。一部の広葉樹林ではシカの採食により下層植生の急激な衰退も観察されている。シカの採食の影響は周辺山系(北山系、東山系、南山系)の広範囲にわたって深刻化している恐れがあるが、現状では断片的な情報しかなく、山系スケールでの状況把握はなされていない。氷ノ山の貴重な植物相と植物群落を保全するためには、氷ノ山とその周辺域におけるシカの動向と植生変化の状況について早急な現状把握を行い、地域植生に対してシカが及ぼす生態リスクについて評価する必要がある。そこで本報告では氷ノ山とその周辺山系を対象に、シカによる落葉広葉樹林の下層植生の衰退状況、周辺山系におけるシカの分布動向、地域植物相への食害状況の把握に関する調査を行った。その結果、調査を行った2007年時点において、氷ノ山では山頂から東と南に伸びる山系において下層植生が著しく衰退した落葉広葉樹林が面的に広がっていることが明らかとなった。下層植生が衰退した理由としては、1999年以降、これらの山系においてシカの高密度化が進んだためと思われた。また、両山系でシカの高密度化が進んだ理由としては、隣接地域のシカ高密度個体群が両山系へ進出したことが考えられた。さらに、その背景には、1990年代以降の寡雪化が影響していることが示唆された。一方、最深積雪が3m以上に達する氷ノ山の高標高域では2007年時点でも目立った植生の衰退は認められなかった。しかし、春季から秋季にかけて高標高域へシカが季節移動してくる結果、高標高域でも夏季を中心にシカの強い採食圧にさらされている。山系では13種のレッドデータブック種(RDB種)を含む230種もの植物種にシカの食痕が認められ、一部のRDB種では採食による群落の衰退も認められた。山頂の東部から南部にかけては、すぐ山麓までシカの高密度地域がせまっていることから、高標高域の積雪が多くても、継続的にシカの採食圧にさらされる状況となっている。このため近い将来、高標高域においても植生が大きく衰退するとともに、多くの貴重な植物種や植物群落が消失する可能性がある。
著者
坂田 宏志 岸本 康誉 関 香奈子
出版者
兵庫県森林動物研究センター
巻号頁・発行日
no.3, pp.26-38, 2011 (Released:2017-11-16)

・兵庫県のツキノワグマの自然増加率や個体数の推定を、階層ベイズモデルを構築し、マルコフ連鎖モンテカルロ法によって推定した。・推定モデルは、出没情報件数、捕獲数、捕殺数、標識放獣数とその再捕獲数などの管理業務から体系的に得られるデータをもとに構築し、ブナ科堅果類の豊凶の影響を補正するモデルとした。・自然増加率は堅果類の豊凶によって変動するが、平均して20%前後と推定され、凶作の年でも減少していた可能性は低いと推定された。・個体数は、順調な増加傾向にあり、2010年当初の段階で、中央値で650頭程度(90%信頼限界では300~1,650頭程度)であると推定された。
著者
鮫島 弘光 坂田 宏志
出版者
兵庫県森林動物研究センター
巻号頁・発行日
no.1, pp.66-77, 2009 (Released:2017-11-16)

・アライグマの原産地はメキシコ、アメリカ合衆国、カナダである。・原産地では、アライグマは重要な狩猟獣であり、アメリカだけで毎年数百万頭が捕獲されている。・生活被害や農業被害をもたらす有害獣や人畜共通感染症のホストとしても、捕獲されている。・アライグマは、鳥類やウミガメの集団営巣地で強い食害を与えているために、捕獲されている事例もある。・外来哺乳類による農業被害、生態系被害は、全世界で発生しており、根絶や個体数密度の抑制の対策が数多く行われている。・成功した根絶プロジェクトとして、大規模なものはイギリスにおけるマスクラット、ヌートリアの根絶があるが、多くは島嶼や小面積の保護区で行われたものである。・アライグマは、ヨーロッパ、中米にも移入されている。狩猟対象となっている一方、一部は農業被害や感染症の予防のために捕獲されている。・根絶が理想的な管理方法であるが、実際は実現可能性、費用対効果の観点から個体数密度の抑制を目標としている管理プログラムもある。・日本への移入は1960年代に始まり、近年急激に分布を拡大している。・分布の拡大とともに甚大な農業被害や生活被害を及ぼしている。また捕食・競争による生態系への影響も懸念されている。・このため、各都道府県、市町村で対策が進められはじめている。
著者
宇野 裕之 横山 真弓 坂田 宏志 日本哺乳類学会シカ保護管理検討作業部会
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.25-38, 2007 (Released:2007-08-21)
参考文献数
65
被引用文献数
19

ニホンジカ特定鳥獣保護管理計画 (2002-2006年度の期間) の現状と課題を明らかにするため, 29都道府県及び大台ケ原地域を対象に2006年6月から9月までの期間, 聞き取り調査を行った. 管理目標は主に 1)個体群の存続と絶滅回避, 2)農林業被害など軋轢の軽減, 3)個体数削減, 及び4)生態系保全に区分できた. 個体数や密度のモニタリング手法には, 1)捕獲報告に基づく捕獲効率や目撃効率, 2)航空機調査, 3)ライトセンサス, 4)区画法, 及び5)糞塊法や糞粒法が用いられていた. 航空機調査, 区画法及び糞粒法を用いた個体数推定では, 多くの事例 (30地域中の11地域) で密度を過小に評価していたことが明らかとなった. 個体数の過小評価や想定外の分布域の拡大によって, 個体数管理の目標が十分達成できていないと考えられる地域も多くみられた. フィードバック管理を進めていく上で, モニタリング結果を科学的に評価し, その結果を施策に反映させるシステムの構築が必要である. そのためには, 研究者と行政担当者の連携が重要である. また, 県境をまたがる個体群の広域的管理と, そのための連携体制を築いていくことが大きな課題だと考えられる.
著者
濱崎 伸一郎 岸本 真弓 坂田 宏志
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 = Mammalian Science (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.65-71, 2007-06-30
被引用文献数
8

ニホンジカの管理に必要な密度指標として, 区画法と糞塊密度法, および目撃効率の整合性を調べ, モニタリング指標としての妥当性を検証した. これらの調査は, 福井県, 滋賀県, 京都府, 兵庫県, 徳島県などのニホンジカ特定鳥獣管理計画策定前調査および策定後のモニタリングで採用されている. 区画法による面積あたりのカウント数と糞塊密度, および糞塊密度と目撃効率には有意な正の相関があった. これまでのところ, 十分な調査努力をしている地域では, 両指標の年推移も非常によく一致しており, いずれも密度変化の動向を適切に反映していると考えられた. 目撃効率の活用においては, 狩猟者から寄せられる報告数 (出猟人日数) の確保や, 積雪が目撃数におよぼす影響などを明らかにすることが課題である. また, 糞塊密度調査では, 平均気温の差による糞塊消失率の変化などが結果を左右することが懸念される. 精度の高い確実な調査法がない現状では, 複数の指標から密度変化の動向を評価することが重要である. <br>
著者
宇野 裕之 横山 真弓 坂田 宏志 日本哺乳類学会シカ保護管理検討作業部会
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 = Mammalian Science (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.25-38, 2007-06-30
被引用文献数
15

ニホンジカ特定鳥獣保護管理計画 (2002-2006年度の期間) の現状と課題を明らかにするため, 29都道府県及び大台ケ原地域を対象に2006年6月から9月までの期間, 聞き取り調査を行った. 管理目標は主に 1)個体群の存続と絶滅回避, 2)農林業被害など軋轢の軽減, 3)個体数削減, 及び4)生態系保全に区分できた. 個体数や密度のモニタリング手法には, 1)捕獲報告に基づく捕獲効率や目撃効率, 2)航空機調査, 3)ライトセンサス, 4)区画法, 及び5)糞塊法や糞粒法が用いられていた. 航空機調査, 区画法及び糞粒法を用いた個体数推定では, 多くの事例 (30地域中の11地域) で密度を過小に評価していたことが明らかとなった. 個体数の過小評価や想定外の分布域の拡大によって, 個体数管理の目標が十分達成できていないと考えられる地域も多くみられた. フィードバック管理を進めていく上で, モニタリング結果を科学的に評価し, その結果を施策に反映させるシステムの構築が必要である. そのためには, 研究者と行政担当者の連携が重要である. また, 県境をまたがる個体群の広域的管理と, そのための連携体制を築いていくことが大きな課題だと考えられる. <br>
著者
濱崎 伸一郎 岸本 真弓 坂田 宏志
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.65-71, 2007 (Released:2007-08-21)
参考文献数
11
被引用文献数
10

ニホンジカの管理に必要な密度指標として, 区画法と糞塊密度法, および目撃効率の整合性を調べ, モニタリング指標としての妥当性を検証した. これらの調査は, 福井県, 滋賀県, 京都府, 兵庫県, 徳島県などのニホンジカ特定鳥獣管理計画策定前調査および策定後のモニタリングで採用されている. 区画法による面積あたりのカウント数と糞塊密度, および糞塊密度と目撃効率には有意な正の相関があった. これまでのところ, 十分な調査努力をしている地域では, 両指標の年推移も非常によく一致しており, いずれも密度変化の動向を適切に反映していると考えられた. 目撃効率の活用においては, 狩猟者から寄せられる報告数 (出猟人日数) の確保や, 積雪が目撃数におよぼす影響などを明らかにすることが課題である. また, 糞塊密度調査では, 平均気温の差による糞塊消失率の変化などが結果を左右することが懸念される. 精度の高い確実な調査法がない現状では, 複数の指標から密度変化の動向を評価することが重要である.
著者
江草 佐和子 坂田 宏志
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.273-276, 2009 (Released:2011-02-16)
参考文献数
4
被引用文献数
3 2

ヌートリアは,毛皮用の家畜として日本に導入された。本稿では,兵庫県における急激な分布と被害の拡大の過程について報告する。アンケート調査の結果,2007年には,兵庫県内の4195集落のうち2349 集落でヌートリアの目撃あるいは被害が確認されていることがわかった。有害捕獲等による捕獲数は,1007頭であった。捕獲努力量は,より深刻な農業被害をもたらすアライグマと比べると少なかった。