- 著者
-
森光 由樹
- 出版者
- 日本哺乳類学会
- 雑誌
- 哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
- 巻号頁・発行日
- vol.48, no.1, pp.133-138, 2008 (Released:2008-07-16)
- 参考文献数
- 28
- 被引用文献数
-
8
これまでに,全国20の自治体で,ヘア・トラップを用いた調査が行われてきた.調査の目的は「クマの個体数の算出」,「個体識別」,「生息の確認」など,それぞれの自治体で異なっている(2007年9月現在).すでに,ヘア・トラップ調査を「特定鳥獣保護管理計画のモニタリングの手法」として,利用している自治体もある.ヘア・トラップ調査は,トラップ設置の数,トラップ間の距離,材料採取の方法,トラップ見回り頻度,分析実施数,DNA分析技術,個体数算出法などの課題があり,手法の改善が必要である.2002年に長野県で実施された調査では,定点観察調査,痕跡確認調査から長野県関東山地のツキノワグマの生息密度を,0.01~0.03頭/km2と推定している.2003年からは,長野県関東山地でヘア・トラップによる調査が実施された.100 km2の調査地に100トラップを設置し,679本の試料が分析された.識別された個体は33頭で,分析成功率は26.3%であった.定点観察や痕跡調査では,ツキノワグマの生息密度を過小評価している可能性があることが示唆された.今後,ヘア・トラップ法を特定鳥獣保護管理計画のモニタリングの手法として確立するには,いくつかの問題点を改善しない限り導入は困難であると思われる.そのために,手法の開発が急務である.