- 著者
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坂部 晶子
- 出版者
- 京都大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2003
日本が「満洲国」というかたちで植民地侵略を行った中国東北地区をとりあげ、地域に残された植民地の記憶が、新中国成立以降の地域社会のなかでどのように再編成されてきたのかを、歴史資料館、記念館の展示形式や、聞きとり記録、また当事者からライフヒストリーの聞き取りといった作業をとおして実証的に解明するという本研究の目的にむけて、本年度においては、中国東北地区においてこれまで収集してきたデータや資料の整理、また日本国内における補足調査を中心に研究が進められた。中国関係資料としては第一に、黒竜江省東寧県で昨年収集された「満洲国」期の労働者(「労工」)への聞きとりデータの整理、分析を行った。第二に、中国では解放後以降長期にわたって、各省、市、県などのそれぞれのレベルで、植民地占領期の回想録や聞きとり調査の資料が「文史資料」というかたちで収集、編集されている。これらの資料は、日本での「満洲国」研究のなかではさほど重視されていないが、当事者の語りや記憶に注目する本研究にとっては重要な一次資料である。そのため「文史資料」のエクステンシブな収集と整理を行い、中国東北社会における「満洲経験」のティピカルな表現を抽出し、地域に残る植民地記憶の枠組みをとりだし分析した。さらに、日本国内における補足調査として、長野県上山田町および泰阜村、飯田市等で「満洲開拓団」の出身母村での聞きとり調査を行った。「満洲国」奥地に入植させられた日本人開拓民は、「満洲国」期と戦後とをつうじて、他の日本人植民者に比べて、一般の中国東北社会と比較的かかわりが深かったといえる。彼らの体験談や視点をとおして、植民地社会における植民者-被植民者の関係性や植民地経験のその後の記念化のあり方を分析している。今年度の調査資料およびこれまでの研究データを総合して、植民地経験の記憶化の錯綜した諸相について、後述の論考のなかで総合的に分析を行った。