- 著者
-
金子 勇
高野 和良
園部 雅久
森岡 清志
- 出版者
- 北海道大学
- 雑誌
- 基盤研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 1998
高齢化の研究では、高齢者の所得、健康、職業、定年退職などが主な分野として焦点を受けてきた。加えて、日常生活におけるQOL(生活の質)の重要性とコミュニケーション能力の荒廃についての解決策が問題になる。ミクロ社会学に強く志向してきた高齢化研究に、私たちはマクロ社会学のパラダイムを導入する時期だと考えて、それを実践した。現代日本には6種類の「高齢者神話恐怖症」があるように思われる。すなわちそれらは、(1)65歳以上はすべて老人である。(2)大部分の高齢者は健康を損ねている。(3)高齢者は若い人々に比べると理解がのろい。(4)高齢者は非生産的な存在である。(5)高齢者は魅力に欠け、性的な関係に乏しい。(6)すべての高齢者はほぼ同じである。しかしながら、これらの「神話」は私たちの具体的な調査結果では否定されている。ライフコース理論の観点からは、縮小する活動や相対的な責任の喪失に伴って高齢者の役割が僅かなものになることは否定されるわけではない。私たちの調査研究の諸データによれば、高齢者の主観的な生きがい満足感は、ほとんどが高齢者自身の集団選択に依存している。要するに、高齢者が友人、知り合い、諸集団への関係をもてばもつほど、60歳以降に惚けることはほとんどないのである。換言すれば、人間関係面への先行投資や社会システムそのものに参加することは、高齢者にとって健康という利息を確かなものにする。適切な関係を保つことは当然に重要であり、高齢者の健康を促進するためにも、毎日の生活において、ラジオ体操をしたり、ウオーキングやジョギングやカラオケで歌ったりしつつ、社会システムとの多方面での関連をもつように努力することが重要なのである。