著者
堀 雅洋 加藤 隆
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.1071-1084, 2007-03-15
被引用文献数
2

ユーザビリティ評価手法の中でインスペクション法に類別される認知的ウォークスルー法(CW 法)は,分析者自身がユーザの振舞いをシミュレートしながら一連の質問に回答することによって,システムとの円滑なインタラクションの妨げとなる問題点を洗い出す評価手法である.CW 法は漸次改良が加えられてきたが,実用性を重視して簡略化された第3 版では質問記述が抽象的で回答しにくいといった問題が指摘されている.本稿では,操作の対象と行為の区別および知覚と解釈の区別を導入してD.A. Norman の7 段階モデルを拡張した.その拡張モデルに基づき質問項目の見直しと明確化を図り,CW 法の改良を試みた.Web ユーザビリティ評価を題材として問題発見効率について比較実験を行った結果,評価対象の特性を考慮して自明な質問を省略することによって,提案手法は第3版と同等の回答時間でより高い問題検出率を示した.The cognitive walkthrough (CW) is a usability inspection method where analysts are asked to simulate the user's cognitive behavior and answer a series of evaluation questions for each step of a task. Negative answers indicate that such steps will be difficult to learn and thus likely to cause usability problems. The CW underwent a series of modifications to improve its applicability to real-world development processes. The current version, much simplified from its predecessors, has now only four evaluation questions. These questions, however, seem to be so abstract that they are difficult to answer properly unless one has expertise in cognitive science and/or usability evaluation. In this paper we propose a modified CW method whose evaluation questions are formulated based on an extended model of human-computer interaction that explicitly distinguishes between object and action, and perceiving and understanding. Applied to Web usability evaluation, the modified CW was shown to be more effective in identifying usability problems while remaining as efficient as the current CW.
著者
山崎 和彦 爲我井 敦史 堀 雅洋
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.6_95-6_102, 2014-03-31 (Released:2014-06-10)
参考文献数
17

ユーザビリティ評価におけるインスペクション法では,実際に動作するプロトタイプやエンドユーザーの協力を必要としない.しかし,ユーザビリティ評価について実践的スキルを有する専門家の不足により,インスペクション法を適切に実施することは必ずしも容易でない.本研究では,ユーザビリティ評価の初心者として大学生の協力を得て,2種類のインスペクション法を用いてユーザビリティ評価を実施し予備的検討を行った.その結果,初心者がインスペクション法を実施する際に直面する主要な問題点が,対象ユーザー視点ならびに対象箇所の指定に関わるものであることを確認した.そして,それらの問題点への方策として,対象ユーザーの特徴分解法および壁を利用したヒューリスティック法を提案する.その上で,提案手法をユーザビリティ評価の初心者に使用してもらい,携帯電話端末の評価を行ない,その有用性を検証するとともに提案手法の利点と課題について考察する.
著者
田中 孝治 梅野 光平 池田 満 堀 雅洋
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.356-367, 2015-09-01 (Released:2016-03-01)
参考文献数
29
被引用文献数
8

It is not difficult for residents, for the most cases, to know the knowledge of disasterprevention, while it is quite difficult for them to take appropriate evacuation behavior.For example, it is easy to know why flooded underpasses should not be gone through bycars. It is just because cars would be submerged and got stuck on the way. However,people sometimes fail to apply such knowledge to take an appropriate action, due tothe so-called knowledge-to-action gap. In the present study, a preliminary investiga-tion and two experiments were conducted. The purpose of the investigation is to clarifythe kinds of unsafe evacuation behavior with reference to newspaper articles on flooddisaster over the past 15 years. The two experiments are to examine if the knowledge-to-action gap can be confirmed by means of paper-and-pencil tests consisting of knowledgeand intention tasks. Preliminary investigation revealed ten kinds of unsafe evacuationbehaviors in flood disaster. Experiments 1 and 2 indicated that participants take unsafeevacuation behaviors even though they have appropriate knowledge. In addition, theexperiment 2 indicated that they perceived danger in unsafe evacuation behaviors andflood disaster situation.These results demonstrate an aspect of unsafe evacuation be-havior, and the importance of disaster prevention education, which has to be carefullydesigned to bridge the gap between knowledge and action for disaster prevention.
著者
田中 孝治 園田 未来 池田 満 堀 雅洋
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.153-164, 2016-12-24 (Released:2017-03-23)
参考文献数
32
被引用文献数
5

情報モラルに関する知識を有していたとしても,その知識を行動として具現化しようとする意図が形成されなければ,実効的な意味で知識を習得したとは言い難い.本研究では,一般的な知識として正しい行動を問う知識課題と自身が実際に選択する行動を問う意図課題を用いて,高校生を対象に知識と行動意図の不一致を定量化した.実験1・2では,意図課題の正答率の方が知識課題の正答率よりも低く,実験参加者が適切な知識を有しているにもかかわらず情報モラルに反する行動をとることが示された.また,実験2では,実験参加者はクラスメイトが情報モラルに反する行動をとる割合を高く推定していることが示された.これらの結果は,知識と行動の不一致を認識させ適切な行動意図の形成を促す情報モラル教育の重要性を示すものである.
著者
田中 孝治 三輪 穂乃美 池田 満 堀 雅洋
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.11-25, 2019-08-31 (Released:2019-09-14)
参考文献数
51

本研究では,一般的な知識として適切な行動を問う知識課題と自身が実際に選択する行動を問う意図課題を用いて,大学生を対象に知識と行動意図の不一致について検討を加えた.実験1・2では,実験参加者が適切な知識を有しているにもかかわらず情報モラルに反する行動意図が形成されることが示された.実験1では,大学生のほうが高校生に比べて知識保有の割合は高く,適切な行動意図形成の割合が高かった.実験2では,計画的行動理論の要因(行動に対する態度,主観的規範,行動コントロール感)から検討を加えた.意図課題で遵守行動を選択した場合は,要因にかかわらず,肯定的に評価する行動を選択していることが示された.一方,不遵守行動を選択した場合は,要因ごとに異なる結果が得られた.態度については,遵守行動を肯定的に,不遵守行動を否定的に評価しており,行動コントロール感については,不遵守行動は容易であり,遵守行動は困難であると評価していることが示された.主観的規範については,遵守行動と不遵守行動を同等に評価していることが示された.
著者
大杉 隆文 仲西 渉 多井中 美咲 井上 卓也 伊藤 悠 岩井 瞭太 香川 健太 松下 光範 堀 雅洋 荻野 正樹
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.58, no.11, pp.1765-1775, 2017-11-15

本研究の目的は,動物園の来訪者を対象に,園内を回遊しつつ自発的に動物に対する知識を深めることを促すことである.動物園などの社会教育施設では,来訪者に対して学習機会を提供することが可能である.しかし,動物園においては,学習の機会を提供する役割が薄れ,娯楽施設のような認識がされており,来園者の能動的な学習の姿勢を促すような情報の提示方法についての工夫は不十分である.本稿では,展示物に対する説明提示の方法を改善するために,利用者が自発的に動物を観察し,動物に対する知識を得ながら園内を回遊できるアプリケーションを実装した.回遊アプリには,(1)クイズ機能,(2)キャッチフレーズ提示機能,(3) Map機能,(4)動物図鑑機能を取り入れた.ユーザ観察の結果,アプリケーションがより詳しく観察することに貢献していること,動物園の全体に行動が及んでいることが示唆された.The purpose of this research is to encourage a visitor of zoo to deepen their knowledge of animals by facilitating autonomic obserbation while walking around the zoo. In general, the primary role of social educational facilities such as zoo is to offer learning opportunities to visitors. However, particularly at zoo, the role is diminished and it tends to be recognized as entertainment facilities. We assume that ingenuity on presenting information of animals to encourage visitors' active learning is insufficient. In order to improve the problem, this paper proposes a mobile application that users can spontaneously observe animals and get knowledge of the animals while going around in the zoo. The application has fourfunctions: (1) providing a quiz, (2) providing catch phrases, (3) navigating in the zoo, and (4) surveying animals' biology. Experimental results suggested that the application facilitates more detailed observation, and that the participant's behavior is spreading throughout the zoo.
著者
田中 孝治 佐々木 駿作 池田 満 堀 雅洋
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第14回大会
巻号頁・発行日
pp.112, 2016 (Released:2016-10-17)

本研究では,自転車運転中の不安全行動の問題特性を明らかにするための足掛かりとして,一般的な知識として正しい行動を問う知識課題と自身が実際に選択する行動を問う意図課題の二種類の課題を用いて,自転車運転における知識と行動意図の不一致を定量化する(実験1)。さらに,定量化したデータから,不安全運転行動の意図形成について,時間的切迫感および不安全運転行動が引き起こす被害に対する関与(実験2),不安全運転行動の危険認知および安全運転行動のコスト認知の観点(実験1・2)から検討を加える。実験の結果,意図課題の方が知識課題よりも正答率が低く,知識と行動意図の不一致が示された。また,切迫感,コスト感,危険性の認知が,不安全運転行動の意図形成に影響を与えることが示された。さらに,自身が加害者となる可能性を提示された方が,被害者となる可能性が提示されるよりも不安全運転行動の意図が形成されることが示された。