著者
加藤 隆弘
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.229-236, 2011 (Released:2017-02-16)
参考文献数
59

ミクログリアは,中胚葉由来のグリア細胞で,静止状態では樹状に突起を伸展して脳内の監視役としてシナプス間を含む微細な環境変化をモニターしている。環境変化に敏速に反応し活性化するとアメーバ状に変化し,脳内力動の主役として,脳内を移動し,サイトカインやフリーラジカルとい った神経障害因子および神経栄養因子を産生する。こうして,神経免疫応答・神経障害・神経保護に重要な役割を担い,神経変性疾患や神経因性疼痛の病態に深く関与している。我々は,抗精神病薬や抗うつ薬にミクログリア活性化抑制作用があることを in vitro 研究で見出し,ミクログリア活性化とその制御を介した精神疾患の病態治療仮説を提唱している。さらに,筆者は,無意識を扱う力動精神医学の立場から,日常の精神活動や無意識に果たすミクログリアの役割にも関心を寄せている。本稿では,我々の仮説を国内外の知見とともに紹介し,これからの本研究領域の方向性・可能性を検討する。
著者
加藤 隆文
出版者
美学会
雑誌
美学 (ISSN:05200962)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.47-58, 2013

This paper is an attempt to suggest a provoking theory about actions of human beings (including art-creating actions, art-appreciating actions, etc.). With this aim, I refer to Alfred Gell's posthumous book, Art and Agency (AA hereinafter), especially focusing on his concepts of 'agency' and 'index'. Because 'index' is a concept derived from C. S. Peirce's semiotics, Gell's theory may also imply a kind of applicability of Peirce's idea, though Gell's 'index' is not necessarily compatible with Peirce's. In Gell's terminology, 'index' is an object that mediates 'agency'. What he argues is that 'agency' can be attributed to not only persons but also things such as god statues as long as they (persons and things) are seen as initiating causal sequences caused by some sort of intention. Utilizing these concepts, Gell puts forward 'Anthropology of Art'. He suggests that art objects should be anthropologically examined in order to grasp their 'behaviour' (AA, p.11) in the context of social relations. In this paper, above all I remark on Gell's unique idea The Extended Mind', which is also the title for the last chapter of AA. Interestingly, according to this idea, artworks (and artefacts) and persons can be regarded analogously as 'indexes' embodying collective consciousness of social agents.
著者
加藤 隆弘 扇谷 昌宏 渡部 幹 神庭 重信
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.140-145, 2015 (Released:2017-02-16)
参考文献数
29

死後脳研究や PET を用いた生体脳研究により,統合失調症患者,自閉症患者,うつ病患者において脳内免疫細胞ミクログリアの過剰活性化が次々と報告されている。他方で,ミクログリア活性化抑制作用を有する抗生物質ミノサイクリンに抗精神病作用や抗うつ作用が報告されており,筆者らは既存の抗精神病薬や抗うつ薬が齧歯類ミクログリア細胞の活性化を抑制することを報告してきた。筆者らはこうした知見を元に,精神疾患におけるミクログリア仮説を提唱している。本稿では,精神疾患におけるミクログリア仮説解明のために現在進行中のトランスレーショナル研究を紹介する。 筆者らの研究室では,安全性の確立されている抗生物質ミノサイクリン投薬によってミクログリアの活動性そのものが精神に与える影響を間接的に探るというトランスレーショナル研究を萌芽的に進めており,健常成人男性の社会的意思決定がミクログリアにより制御される可能性を報告してきた(Watabe, Kato, et al, 2013 他)。精神疾患に着目したモレキュラーレベルのミクログリア研究では,技術的倫理的側面から生きたヒトの脳内ミクログリア細胞を直接採取して解析することは至極困難であり,モデル動物由来のミクログリア細胞の解析に頼らざるを得ない状況にあった。筆者らは,最近,ヒト末梢血からわずか 2 週間でミクログリア様細胞(induced microglia-like cells:iMG 細胞)を作製する技術を開発した(Ohgidani, Kato, et al, 2014)。精神疾患患者由来 iMG 細胞の作製により,これまで困難であった患者のミクログリア細胞のモレキュラーレベルでの活性化特性が予測可能となった。こうした技術によって,臨床所見(診断・各種検査スコア・重症度など)との相関を解析することで,近い将来,様々な精神病理現象とミクログリア活性化との相関を探ることが可能になるかもしれない。
著者
神庭 重信 鬼塚 俊明 加藤 隆弘 本村 啓介 三浦 智史
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

うつ病の神経炎症仮説に基づき、動物実験としては、グラム陰性菌内毒素をマウスに投与して、行動および脳内の組織化学的変化について研究した。広範囲に及ぶミクログリアの一過性の活性化は見られたが、それを通じたアストログリア、オリゴデンドログリアへの影響は検出できなかった。ミクログリア活性化阻害物質であるミノサイクリンの投与は、内毒素投与の有無にかかわらず、抑うつ様行動を惹起した。培養細胞系では、ヒト末梢血中の単球から、ミクログリア様細胞を誘導することに成功し、気分障害罹患者を対象とする画像研究でも、拡散テンソル画像を集積した。これらの研究を通じ、うつ病と神経炎症の関連についてさらに知見を深めた。
著者
加藤 隆弘 扇谷 昌宏 渡部 幹 神庭 重信
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.2-7, 2016 (Released:2017-09-26)
参考文献数
26
被引用文献数
1

脳内の主要な免疫細胞であるミクログリアは,さまざまな脳内環境変化に応答して活動性が高まると,炎症性サイトカインやフリーラジカルといった神経傷害因子を産生し,脳内の炎症免疫機構を司っている。ストレスがミクログリアの活動性を変容させるという知見も齧歯類モデルにより明らかになりつつある。近年の死後脳研究や PET を用いた生体脳研究において,さまざまな精神疾患患者の脳内でミクログリアの過剰活性化が報告されている。精神疾患の病態機構にストレスの寄与は大きく,ストレス→ミクログリア活性化→精神病理(こころの病)というパスウェイが想定されるがほとんど解明されていない。 筆者らの研究室では,心理社会的ストレスがミクログリア活動性を介してヒトの心理社会的行動を変容させるという仮説(こころのミクログリア仮説)を提唱し,その解明に向けて,動物とヒトとの知見を繋ぐための双方向性の研究を推進している。健常成人男性においてミクログリア活性化抑制作用を有する抗生物質ミノサイクリン内服により,強いストレス下で性格(特に協調性)にもとづく意思決定が変容することを以前報告しており,最近筆者らが行った急性ストレスモデルマウス実験では,海馬ミクログリア由来 TNF-α産生を伴うワーキングメモリー障害が TNF-α阻害薬により軽減させることを見出した。本稿では,こうしたトランスレーショナル研究の一端を紹介する。
著者
加藤 隆 池田 俊也 武藤 正樹
出版者
一般社団法人 日本医療・病院管理学会
雑誌
日本医療・病院管理学会誌 (ISSN:1882594X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.285-294, 2013 (Released:2013-12-25)
参考文献数
24
被引用文献数
1

本研究は薬剤師による疑義照会を行なわない場合に起こると想定される治療や入院期間に対する影響を推定し,その医療費を推計することで,薬剤師による疑義照会の医療の質への貢献度ならびに経済的影響を評価することを目的とした。 東京都内の1病院にて調査を行い,12週間の調査期間中に薬剤師が行った疑義照会148例を対象とした。疑義照会が行なわれなかったと仮定した場合の治療や入院期間の影響を推定する際にデルファイ法を用いることで評価の精度を高め,医療費の算定に出来高ベースの金額を用いて医療資源削減額を評価した。 その結果,入院期間への影響は入院日数の延長,再入院日数を合わせて43症例,190日であった。また,疑義照会による医療費の回避額は推定75万円∼190万円となった。医療費を用いて疑義照会による貢献度を定量化することができた結果,薬剤師は医療の質ならびに経済面に貢献していることが確認された。
著者
加藤 隆宏
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2020-07-30

本研究では、ヒンディー語、サンスクリット語、ネパール語などの諸語に用いられるインド系文字の一つ、デーヴァナーガリー文字を読み取るための光学文字認識(OCR)ソフトウェアを開発し、その技術を用いて読み取った文献群のデータベースを構築する。研究の第一段階では、これまでなかった高精度のOCRの共同開発を試み、第二段階では開発された文字認識ソフトウェアを利用して、世界各国で先行する同様のプロジェクトを凌駕しうるような規模の電子テキスト・データベース構築に向けて準備を整えたい。
著者
加藤 隆弘
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.151-157, 2016 (Released:2018-04-24)
参考文献数
35

精神医学研究において,精神病理学や精神分析学を含む心の研究は,生物学的研究(脳の研究)とは対極に位置すると思われがちである。筆者は,幸か不幸か,所属している大学病院精神科医局の中で精神分析と生物学的研究という両方の世界に割と深く身を置いてきた。こうした二足の草鞋を履くという経験を元に,現在では,両者は相補的な関係にあると考えており,例えば,精神分析理論の重要概念である無意識的欲動(「生の欲動」や「死の欲動」)の起源はミクログリアをはじめとした脳内免疫細胞ではないか?とさえ考えるようになっている。筆者の研究室(九大精神科分子細胞研究グループ)では,脳と心のギャップを橋渡しするためのトランスレーショナル研究システムを試行錯誤しながら萌芽的に立ち上げてきた。本稿では,特に若手精神科医向けに,こうした研究に着手するようになるまでの一端を紹介する。筆者としては,二足の草鞋を履き続けたことによるメリットを実感しているため,生物学的精神医学を志す精神科医にも精神分析的な素養を少しでも身につけていただければと願っている。
著者
向田 茂 鈴木 絢香 磯野 勝宣 加藤 隆
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. HCS, ヒューマンコミュニケーション基礎 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.102, no.29, pp.1-6, 2002-04-12
参考文献数
16
被引用文献数
5

顔輪郭の形状(太め、細め)、表情(無表情、笑顔、悲しみ)そして、化粧(ノーメイク,アイシャドウ,口紅)の組み合わせによる印象の変化について検討した.顔を実験刺激として用いる心理実験では,実験刺激の統制が難しく,慎重に行わなければならない.そこで,本研究では個人の一枚の顔画像から,さまざまな条件の顔画像を合成することで,統制された実験刺激を実現した.実験の結果,赤いアイシャドウとピンクの口紅の組合わせは,青いアイシャドウとピンクの口紅の組合わせよりも,「派手」,「近づきがたい」と評定された.この結果は,アイシャドウのような物理的にはごくわずかな色の差であっても,顔の印象に影響を与えることを示している.
著者
加藤 隆 鈴木 博
出版者
横浜国立大学教育学部附属理科教育実習施設
雑誌
横浜国立大学教育学部理科教育実習施設研究報告
巻号頁・発行日
vol.8, pp.77-97, 1992-03-27

According to MIYAKE (1978, 1982), there have been three species of the mole crabs, Hippa adactyla FABRICIUS, H. truncatifrons (MIERS) and H. pacifica (DANA) (Hippidae, Anomura, Decapoda, Crustacea) in the Japanese waters. Only one species, H. adactyla have been known from Sagami Bay. In the course of this study, the latter species, H. truncatifrons and H. pacifica were newly found from Sagami Bay, and H. truncatifrons predominates among the three species throughout the studied areas. In this study, the authors described and illustrated their distribution, variation of the body, colourations, growth rate, and feeding and mating habits. The authors also studies complete larval development of H. truncatifron. The larvae are reared in the laboratory and passed through five zoeal and one glaucothoe stages and reached to the first crab stage. All the larval and the first crab stages are described and illustrated herein, and some brief comparision and discussion with other related species are also given.
著者
加藤 隆弘
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

精神疾患への脳内免疫細胞ミクログリアの関与が最近の研究により示唆されているが、詳細は解明されていない。本研究ではミクログリアがヒトの社会的意思決定プロセスにおいて重要な役割を果たしているのではないか?という仮説の元で、健常成人男性を対象としてミクログリア活性化抑制作用を有する抗生物質ミノサイクリン内服による社会的意思決定プロセスの変化を計るための社会的意思決定実験(信頼ゲーム)を行った。ミノサイクリンを4日間内服してもらい、自記式質問紙による心理社会的項目を測定するとともに、信頼ゲームを実施した。ミノサイクリン内服により、性格や欲動依存の行動パターンが変容することを見出すことが出来た。
著者
堀 雅洋 加藤 隆
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.1071-1084, 2007-03-15
被引用文献数
2

ユーザビリティ評価手法の中でインスペクション法に類別される認知的ウォークスルー法(CW 法)は,分析者自身がユーザの振舞いをシミュレートしながら一連の質問に回答することによって,システムとの円滑なインタラクションの妨げとなる問題点を洗い出す評価手法である.CW 法は漸次改良が加えられてきたが,実用性を重視して簡略化された第3 版では質問記述が抽象的で回答しにくいといった問題が指摘されている.本稿では,操作の対象と行為の区別および知覚と解釈の区別を導入してD.A. Norman の7 段階モデルを拡張した.その拡張モデルに基づき質問項目の見直しと明確化を図り,CW 法の改良を試みた.Web ユーザビリティ評価を題材として問題発見効率について比較実験を行った結果,評価対象の特性を考慮して自明な質問を省略することによって,提案手法は第3版と同等の回答時間でより高い問題検出率を示した.The cognitive walkthrough (CW) is a usability inspection method where analysts are asked to simulate the user's cognitive behavior and answer a series of evaluation questions for each step of a task. Negative answers indicate that such steps will be difficult to learn and thus likely to cause usability problems. The CW underwent a series of modifications to improve its applicability to real-world development processes. The current version, much simplified from its predecessors, has now only four evaluation questions. These questions, however, seem to be so abstract that they are difficult to answer properly unless one has expertise in cognitive science and/or usability evaluation. In this paper we propose a modified CW method whose evaluation questions are formulated based on an extended model of human-computer interaction that explicitly distinguishes between object and action, and perceiving and understanding. Applied to Web usability evaluation, the modified CW was shown to be more effective in identifying usability problems while remaining as efficient as the current CW.