著者
大村 一史
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要. 教育科学 (ISSN:05134668)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.131-142, 2011-02

要旨:注意欠陥・多動性障害(attention-deficit/hyperactivity disorder:ADHD)は衝動性、注意散漫や多動を特徴とする発達性の行動障害であり、神経伝達物質のドーパミンの異常や、前頭葉-線条体(fronto-striatal)のシステム不全が指摘されている。ADHDの生物学的基盤が明らかになりつつも、未だにADHD診断の基本は行動特徴に基づく判断基準に依っている。この背景には、ADHD固有の決定的な生物学的マーカーが存在しないという理由がある。これにより現実的な診断場面においては、ADHDを規定する難しさがつきまとう。近年、実行機能という観点から、ADHDの本質的な障害が衝動性(行動制御の弱さ)にあり、その認知過程を反映する指標として事象関連電位(event-related potential:ERP)が有効であることが示されてきている。本論文では、行動抑制を対象とした認知課題の観点からADHDにおけるERP研究を選択的にまとめ上げ、ADHDの実行機能を評価する指標としてのERPの適用を検討する。
著者
大村 一史
出版者
山形大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2009

本研究では生理指標(事象関連電位)と行動指標(心理行動実験)の組合せによって測定される実行機能を ADHDの中間表現型に据えて、ADHDに関連するパーソナリティ特性や遺伝子多型により実行機能(課題成績および脳活動)がどのように影響を受けるのかを検討し、心理-脳神経プロファイルに基づいたADHDアセスメントの基礎確立を試みた。中間表現型としての課題遂行中の脳活動は、特に自己制御に関連する衝動性傾向に強く影響を受けるものの、その影響の程度は一定ではなく、実行機能の個人差には、定型発達と非定型発達を分ける分水嶺が存在する可能性が示唆された。
著者
大村 一史
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要. 教育科学 = Bulletin of Yamagata University. Educational Science
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.55(113)-64(122), 2007-02-15

近年、神経心理学の立場から、注意欠陥・多動性障害(attention-deficit/hyper activity disorder: ADHD )の本質は、衝動性(行動抑制の弱さ)にあり、注意散漫や多動は二次的に現れたものとする考え方が提唱されている。ADHD における衝動性は、将来の目標遂行のために目前の反応を抑制できない自己のコントロールの障害として観察される。その原因として、前頭葉における行動抑制機能の障害と、それに関連する実行機能(注意の統制、行為の持続、および適切な計画性など)の問題が指摘されているが、衝動性行動の原因は未だ完全には明らかにされていない。現在、ADHD の生物学的基盤を探るために、双生児研究や分子遺伝学研究などの遺伝的アプローチから障害に関連する遺伝子を探る研究が精力的に行われ、特に脳内ネットワークの情報伝達に欠かせない神経伝達修飾物質の異常が指摘されている。本論文では、ADHD の関連遺伝子を概観し、実験室で測定される実行機能を指標とした行動-遺伝的アプローチによる ADHD の衝動性メカニズムの解明への可能性についてまとめる。 Several researchers have proposed that symptoms of attention-deficit/hyper activity disorder (ADHD) arise from a primary deficit in behavioral inhibition (impulsivity) followed by inattention and hyperactivity. Impulsivity of ADHD represents a disorder of self-regulation, that is, a deficit in maintaining an appropriate short-term behavior in order to attain a later goal. It has been suggested that dysfunctions of behavioral inhibition in the prefrontal cortex and its marginal executive function (e.g., attention control, maintaining action, and planning) are causes for ADHD. However, the underlying neural substrates are still unclear. Several studies based on genetic approaches such as twin and molecular genetic studies have sought to identify candidate genes and variants that increase susceptibility to ADHD. Dysfunction in some neurotransmitters has been postulated to cause ADHD. In this paper, we reviewed candidate genes associated with the vulnerability to developing ADHD and discuss the behavioral-genetic approach used to investigate the mechanisms of impulsivity in ADHD.
著者
高橋 純一 安永 大地 杉村 伸一郎 行場 次朗 坂本 修一 堀川 友慈 齋藤 五大 大村 一史
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究が対象とする「アファンタジア(aphantasia)」は,実際の知覚は機能しているにもかかわらず心的イメージが機能しない特質のことであり,新たな事例として提唱された。心的イメージとは刺激対象が実際に目の前に存在していなくとも,それを疑似体験できる機能である。私たちは想像(創造)や思考など日常生活で意識せずにイメージを多用しているが,アファンタジア当事者はイメージを思い浮かべることが少ないことから,結果的にイメージ以外の情報処理機構を用いていると推測できる。本研究は,アファンタジアという新たな事例の認知・神経科学的理解を通して,社会におけるアファンタジア理解を促進しようとするものである。
著者
高橋 純一 杉村 伸一郎 大村 一史
出版者
福島大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2022-06-30

本研究が対象とする「アファンタジア(aphantasia)」は2015年に提唱された新たな事例で,実際の知覚は機能しているが心的イメージを形成しにくい特質である。現在,成人を対象とした研究が展開されており,その知覚および心的イメージの特徴について知見が得られ始めている。アファンタジアは先天的な特質であるため,幼児期・児童期でも既に心的イメージ形成の困難さが生じている可能性が推測される。本研究は,幼児期・児童期におけるアファンタジアの新奇事例を提唱し,その定義を可視化できるアセスメントツールを開発しようとするものである。
著者
大村 一史
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-10-21

定型発達と非定型発達を隔てうる分水嶺を探るための手がかりを、情動的実行機能(情動処理機能)と認知的実行機能(抑制機能)の両面から捉え、課題遂行時の課題成績・脳活動に及ぼす性差および障害特性傾向の影響を調べた。情動処理機能および抑制機能ともに、課題成績・脳活動に及ぼす性差および障害特性傾向の影響を明らかにするまでには至らなかった。情動処理機能の解析は今後も継続し、更なる検討を進めていく予定である。
著者
菅原 里枝 新井 猛浩 大村 一史 楠本 健二
出版者
日本食生活学会
雑誌
日本食生活学会誌 (ISSN:13469770)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.222-231, 2010-12-30 (Released:2011-01-24)
参考文献数
30
被引用文献数
1

The purpose of the present investigation is to determine how one′s nutritional status affects an unsettled state of mind, especially the impulsivity trait, in university students. Three hundred twenty-four university students completed a self-rating questionnaire. They were assessed using a brief-type self-administered diet history questionnaire (BDHQ), the Barratt Impulsiveness Scale (11th version; BIS-11), and the Beck Depression Inventory-Second Edition (BDI-II). Based on BDHQ scores, the participants were classified into three groups according to their nutrient intake: low-energy density nutrient intake, moderate-energy density nutrient intake, and high-energy density nutrient intake. A one-way analysis of variance revealed significantly higher BIS-11 scores in the case of low-energy protein intake and low dietary intake of the soy and soy food groups. The vitamin and mineral deficiencies influenced the impulsivity trait, and the n-6 fatty acid deficiency possibly led to an increase in the impulsivity level. The results suggest that an unbalanced nutritional status is a risk factor for a higher impulsiveness in university students.
著者
大村 一史
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要. 教育科学 = Bulletin of Yamagata University. Educational Science
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.67-84, 2010-02-15

要旨 : 従来から認知神経科学研究における様々な疑問に答えるために使用されてきた脳波(electroencephalogram : EEG)を利用した研究が見直され始めている。そのような流れの中で、注意欠陥・多動性障害(attention-deficit/hyper activity disorder : ADHD)を主とした発達障害児のセルフコントロールトレーニングとして、ニューロフィードバック(neurofeedback)または脳波フィードバック(EEG feedback)という手法が注目されている。この技法においては、自身が脳波をモニタリングしながら、脳活動をコントロールすることによって、知的機能や注意行動を改善させることを目的としている。この10年ほどで、批判はあるものの、ニューロフィードバックの利用が劇的に増加してきた。ニューロフィードバックの効果を慎重に検討した研究報告では、ADHDの新しい代替療法としての可能性が支持されている。本論文では、主にADHDを対象としたニューロフィードバックを概観し、教育分野における将来の可能性を展望する。