著者
室野 重之
出版者
日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会会誌 (ISSN:21880077)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.161-164, 2020-04-20 (Released:2020-05-20)
参考文献数
12

節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型(鼻性NK/T細胞リンパ腫)は,主に鼻腔に初発し,顔面正中部に沿って進行するNKあるいはT細胞由来の予後不良なリンパ腫であり,Epstein-Barrウイルス(EBV)関連腫瘍とされている.高度の壊死像と細胞浸潤のためHE染色では確定診断できないことも多い.咽頭に初発し,軽度ではあるもののEBV抗体価の上昇も見られた症例につき報告する.症例は63歳の男性で主訴は咽頭痛であった.上・中咽頭に腫瘍性病変を認め生検したが壊死と肉芽組織であった.種々の検査を進める中,VCA-IgG 640倍,VCA-IgA 10倍,EA-IgG <10倍,EA-IgA <10倍と軽度ではあるがEBV抗体価の上昇を認めた.あらためての生検による確定診断に先立ち,本疾患を鑑別の中でも上位として念頭に置いた.血清中EBV DNA量が320コピー/mLであることもこれを支持する結果であった.鼻性NK/T細胞リンパ腫ではEBV抗体価が上昇する例はさほど多くないとされるが,診断に難渋する例において上昇を認める場合は本疾患が疑われるため,測定が望ましい.
著者
丸山 裕美子 笠原 善弥 塚田 弥生 荒井 和徳 米田 憲二 室野 重之 吉崎 智一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.119, no.6, pp.867-873, 2016-06-20 (Released:2016-07-02)
参考文献数
15
被引用文献数
3

口蓋扁桃摘出術は主に良性疾患に対し若年者を対象として行われることが多い一般的な手術であるが, 時に致死的経過をたどる危険性をもつ. 今回19歳女性の扁桃摘出術中に制御困難な咽頭出血を認め選択的動脈塞栓術により救命し得た症例を経験した. 扁桃摘出術中の重篤な出血に対する血管内治療はこれまで報告されていないが, 安全で有効な治療法の一つとして検討する価値があると考えられた. また自施設における5年間の扁桃摘出術症例を検討したところ, 後出血は11.8%に認められ, 出血レベルは全例グレード1 (保存的加療で止血) であった.
著者
室野 重之
出版者
日本喉頭科学会
雑誌
喉頭 (ISSN:09156127)
巻号頁・発行日
vol.33, no.02, pp.86-88, 2021-12-01 (Released:2022-03-25)
参考文献数
15

Although laryngo-tracheal papilloma, also known as recurrent respiratory papillomatosis, is a benign disease, it tends to recur and spread throughout the larynx and trachea. The incidence rate in Western countries has been reported to be less than 1 per 100,000 for both juvenile-onset and adult-onset types. Surgical approaches to managing this disease have varied over time. For example, a carbon dioxide laser was the most popular modality in the 1990s in the United States, whereas a microdebrider has been widely used since the 2000s in both the United States and Europe. Our previous survey revealed that a carbon dioxide laser, microdebrider, and cold steel surgery were used with almost equal frequency in Japan. We are currently conducting a nationwide survey that will help clarify the epidemiology of this morbid disease in Japan. The disease is caused by human papillomavirus (HPV), especially the low-risk types of HPV6 and HPV11. Therefore, the 4- and 9-valent HPV vaccine may reduce the incidence of this disease, as observed in anogenital warts.
著者
室野 重之 吉崎 智一
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.S39-S43, 2010

上咽頭癌組織中に EB ウイルス DNA や EB ウイルスに由来する蛋白、RNA が検出され、EB ウイルスと上咽頭癌の密接な関連が示唆されるとともに、上咽頭癌組織中の EB ウイルスは単クローン性であることが示され、上咽頭癌は EB ウイルスにより発癌することが確定的となった。この密接な関連は上咽頭癌の診断に応用され、EB ウイルス抗体価および EBERs に対する in situ hybridization が普及している。血清中の EB ウイルス DNA の定量は、一般レベルまでには普及していないが、治療後の病勢も反映することから利用価値は高いと思われる。一方、EB ウイルスに着目した上咽頭癌治療は、臨床への応用は散見される程度であるが、EB ウイルスの感染状態の複製サイクルへの誘導や抗ウイルス薬の利用などが期待される。
著者
今泉 光雅 松井 隆道 大槻 好史 菊地 大介 佐久間 潤 室野 重之
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.245-251, 2019

<p>聴性脳幹インプラント(auditory brainstem implant: ABI)は,蝸牛神経に障害を受けた際に,中枢側である脳幹の蝸牛神経核に電気刺激を加え,聴覚を獲得させることを目的とする人工聴覚器である.今回我々は,両側の聴神経腫瘍術後,高度難聴に至りABI埋め込み術を施行した症例を経験し,術後1年間の経過観察する機会を得たので報告する.症例は44歳,女性.両側の聴神経腫瘍術後,高度難聴に至ったためABI手術を脳神経外科と共同で行った.ABI術後1年を経過し語音明瞭度検査は,術前が単語0%,文章0%,読唇併用の際は単語32%,文章46%であったものが,単語4%,文章0%,読唇併用の際は,単語68%,文章43%と改善を認めた.ABI単独での会話は困難な状態であるものの環境音の聴取は可能となった.両側聴神経腫瘍術後症例に対するABI埋め込み術は,聴覚獲得の一手段になり得ると考えられた.</p>