著者
吉崎 智一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.117, no.10, pp.1245-1248, 2014-10-20 (Released:2014-11-21)
参考文献数
7

ウイルスが地球上に登場したのは少なくとも30億年前と考えられている. 太古の生物の誕生以来, 生物とウイルスは共存しながら, 互いの進化に影響を及ぼしつつ, 長い時間を過ごしてきた. ウイルスの病原性は細胞内絶対寄生性に起因する. このようなウイルス感染が生じた際にウイルスおよび感染細胞に生じる現象は, 細胞溶解感染, 不稔感染, 持続感染, 発癌感染, に分類される. Epstein-Barr ウイルス (EBV) が発見されて今年で50年, これまでに, 分かってきた上咽頭癌発癌機序として, まず, 一般に上皮細胞に EBV が感染すると, ウイルス複製が亢進して, 発癌どころか感染細胞が溶解してしまうことから, EBV が潜伏感染状態を維持することが必須である. 次に EBV 潜伏遺伝子発現が起こる. 中でも EBV 癌遺伝子 LMP1 は単独で線維芽細胞や上皮細胞を形質転換する. やがて遺伝子変異が蓄積して癌化する. そして, その間, 感染細胞が免疫監視機構, 特に NK 細胞や細胞障害性 T リンパ球から逃れることが必要である.
著者
橋本 かほる 能登谷 晶子 原田 浩美 伊藤 真人 吉崎 智一
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.336-340, 2012 (Released:2012-10-09)
参考文献数
16

0歳代から金沢方式(文字-音声法)で言語訓練中の聴覚障害幼児4例を対象に,日本語対応手話に指文字または手話による助詞が挿入された文に含まれる格助詞の出現時期について検討した.(1)格助詞の初出年齢は1歳11ヵ月~2歳2ヵ月で,健聴児の時期とほぼ同時期であった.(2)4例ともに共通して初出した格助詞は「を」であった.(3)聴覚障害児であっても,幼児期早期より日本語の文構造に沿った日本語対応手話よる単語(助詞は指文字または手話)を用いることにより,健聴児の助詞の発達にそった理解・表出が可能であることが示唆された.
著者
丸山 裕美子 笠原 善弥 塚田 弥生 荒井 和徳 米田 憲二 室野 重之 吉崎 智一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.119, no.6, pp.867-873, 2016-06-20 (Released:2016-07-02)
参考文献数
15
被引用文献数
2

口蓋扁桃摘出術は主に良性疾患に対し若年者を対象として行われることが多い一般的な手術であるが, 時に致死的経過をたどる危険性をもつ. 今回19歳女性の扁桃摘出術中に制御困難な咽頭出血を認め選択的動脈塞栓術により救命し得た症例を経験した. 扁桃摘出術中の重篤な出血に対する血管内治療はこれまで報告されていないが, 安全で有効な治療法の一つとして検討する価値があると考えられた. また自施設における5年間の扁桃摘出術症例を検討したところ, 後出血は11.8%に認められ, 出血レベルは全例グレード1 (保存的加療で止血) であった.
著者
丸山 裕美子 塚田 弥生 平井 信行 中西 庸介 吉崎 智一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.1, pp.53-61, 2015-01-20 (Released:2015-02-05)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

Vocal cord dysfunction (VCD) における声帯奇異運動は一般的に一過性かつ発作性である. われわれは36例の VCD 加療経験の後, 持続的に声帯奇異運動を認める症例を経験し, 声帯奇異運動が「口すぼめ吸気法」施行中に改善し呼吸法中止により再発することを確認した. VCD は気道刺激に対する声門閉鎖反射亢進と, 吸気時の声門下陰圧に対する能動的声帯内転運動により生ずると考えられている. 今回われわれが初めて提唱した「口すぼめ吸気法」は, 緩徐な吸気の実現を容易にし, 声門上腔の陰圧化により声門上下腔の気圧差を減少でき, 器具を用いず即実行できる簡便な方法であり, VCD に対し試行する価値があると考える.
著者
吉崎 智一
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌 (ISSN:24357952)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.143-145, 2021 (Released:2021-12-28)
参考文献数
7

宇宙誕生から130億年,地球誕生から46億年,最も原始的な生物誕生から30億年が経過した。現在,コンセンサスが得られている生物の定義におけるキーワードは自己複製と代謝である。この定義に基づくとウイルスは特定の生物との間に密接な相互作用を示すにもかかわらず生物とはいいがたい。それともウイルスを生物か無生物のどちらかに分類すること自身に無理があり,意味のないことなのかもしれない。ウイルスというと悪役のイメージが強いが,例えば哺乳類の胎盤の獲得など,生物の進化に果たしてきた役割は大きい。ウイルスの誕生から今日に至るまでの道のりを縦糸とし,生物と無生物,自己と非自己,病原性と共生,など免疫,アレルギー,感染症的視点を横糸として,本学会で取り扱うテーマの学術的側面を深く考察する。
著者
杉本 寿史 永井 理紗 波多野 都 吉崎 智一 武居 渡
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.320-325, 2021 (Released:2022-03-31)
参考文献数
10

石川県では平成22年に「いしかわ赤ちゃんきこえの相談支援センター(みみずくクラブ)」が開設された。このセンターは保護者に対して3回の個別相談を行うことで難聴児を療育へつなぐ橋渡しを行っており,開設してから11年目を迎え96名の難聴児を受け入れてきた。今回このセンターをより良いものにするために,平成22年度から平成30年度に当センターに紹介された保護者を対象にアンケートを行い,今後の改善点について考察した。このセンターに対するアンケート結果は概ね良好であったが,下記の項目が今後検討すべき課題と考えられた。(1)システム:精密医療機関との連携強化。養育中の保護者に参加してもらうことも検討。(2)医学的情報提供:説明用の資料を保護者に提供し,資料にそって網羅的に説明する。(3)療育とサポート:療育担当者に参加してもらうことも検討。難聴児へのサポートに関する情報をまとめた資料を保護者に提供する。
著者
室野 重之 吉崎 智一
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.S39-S43, 2010

上咽頭癌組織中に EB ウイルス DNA や EB ウイルスに由来する蛋白、RNA が検出され、EB ウイルスと上咽頭癌の密接な関連が示唆されるとともに、上咽頭癌組織中の EB ウイルスは単クローン性であることが示され、上咽頭癌は EB ウイルスにより発癌することが確定的となった。この密接な関連は上咽頭癌の診断に応用され、EB ウイルス抗体価および EBERs に対する in situ hybridization が普及している。血清中の EB ウイルス DNA の定量は、一般レベルまでには普及していないが、治療後の病勢も反映することから利用価値は高いと思われる。一方、EB ウイルスに着目した上咽頭癌治療は、臨床への応用は散見される程度であるが、EB ウイルスの感染状態の複製サイクルへの誘導や抗ウイルス薬の利用などが期待される。
著者
中西 清香 吉崎 智一
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.11-14, 2019 (Released:2020-03-31)
参考文献数
13

IgG4関連疾患は本邦より提唱されて以来,全身多種多様にわたる病態の報告がなされている.耳鼻咽喉科領域では特に,唾液腺炎に関する病態が確立されているが,頭頸部全体でも様々な病態がある.今回我々は嗅覚障害に着目し調査を行ったところ,IgG4関連疾患患者における嗅覚障害は全体の52%に中等度以上の嗅覚障害を認め,健常人よりも多いことが明らかになった.さらに,治療経過で嗅覚障害が改善した症例もあり,可逆的な症状として我々耳鼻咽喉科医師が認識しておくべきものと言える.
著者
白井 明子 小川 真生 広田 京子 吉崎 智一 小川 恵子
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.22-27, 2015 (Released:2015-06-29)
参考文献数
15
被引用文献数
2

滋陰至宝湯は『万病回春』巻之六・婦人虚労門収載の中国・明時代(1368~1644)の方剤で,気鬱を伴う慢性咳嗽に有効であるとされている。滋陰至宝湯は,その構成生薬から,滋養し,虚熱を冷まし,気を巡らせ,消化機能を高めるという滋陰清熱,理気健脾の方剤と言える。今回われわれは,本方剤が奏効した舌痛症,咽喉頭異常感症の3症例を経験した。口渇,口乾,粘稠痰といった陰虚症状を伴い,腹部右側の鼓音をはじめとする気鬱の症候を認める舌痛症,咽喉頭異常感症には,滋陰至宝湯は有効な処方となり得ると考えた。
著者
能登谷 晶子 原田 浩美 外山 稔 山﨑 憲子 木村 聖子 諏訪 美幸 金塚 智恵子 石丸 正 三輪 高喜 吉崎 智一
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.163-170, 2019-04-28 (Released:2019-06-01)
参考文献数
15

要旨: 「金沢方式」による訓練を0歳~1 歳代より開始し, 訓練途中の2~3歳代に人工内耳を装用した小児聴覚障害児8例について, 人工内耳術前後の言語獲得経過を報告した。8例が最初に理解した言語モダリテイは手話であった。その後, 聴覚口話や文字の理解が進み, いずれの児も 1 歳代で可能となった。手話による助詞付き 2語連鎖文は 1 歳7ヵ月~2歳2ヵ月までに出現した。8例は術後 1 年を経ないうちから, 自発文での手話が少なくなり, 装用 1 年経過時には話し言葉のみで会話が可能となり, 健聴児が幼児期に習得する様々な文型の出現を認めた。以上より, 術前から文構造を意識した言語聴覚療法は, 高度聴覚障害児の言語発達を促進することが示唆された。
著者
東 朋美 神林 康弘 藤村 政樹 大倉 徳幸 吉崎 智一 中西 清香 西條 清史 早川 和一 小林 史尚 道上 義正 人見 嘉哲 中村 裕之
出版者
日本エアロゾル学会
雑誌
エアロゾル研究 (ISSN:09122834)
巻号頁・発行日
vol.29, no.S1, pp.s212-s217, 2014-02-20 (Released:2014-04-01)
参考文献数
33

The frequency and scale of Asian dust events have increased rapidly in East Asia since 2000. In connection with this, the effects of Asian dust (kosa) on human health, especially on allergic diseases, are major concern in Japan. We herein discuss the effects of kosa on allergic diseases, including asthma, chronic cough and Japanese cedar pollinosis. Epidemiological studies, as well as experimental studies, have demonstrated the association between kosa and the exacerbation of asthma and allergic diseases.The kosa particles increase airway inflammation as one of the major sources of atmospheric particulate matter. Furthermore the kosa particles absorb various atmospheric gases, including air pollution. Such environmental pollution enhances the response to allergens, including Japanese cedar pollen. Recently, some epidemiological studies used the kosa data obtained by the light detection and ranging (LIDAR) system, which distinguish between mineral dust and other spherical particles, by identifying differences in the shape of the particles. Further studies using the LIDAR system will help to identify the kosa aerosol components that have adverse health effects, leading to provide new strategies to prevent environmentally induced allergic diseases.
著者
東 朋美 神林 康弘 藤村 政樹 大倉 徳幸 吉崎 智一 中西 清香 西條 清史 早川 和一 小林 史尚 道上 義正 人見 嘉哲 中村 裕之
出版者
日本エアロゾル学会
雑誌
エアロゾル研究 (ISSN:09122834)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.s212-s217, 2014

The frequency and scale of Asian dust events have increased rapidly in East Asia since 2000. In connection with this, the effects of Asian dust (<i>kosa</i>) on human health, especially on allergic diseases, are major concern in Japan. We herein discuss the effects of <i>kosa</i> on allergic diseases, including asthma, chronic cough and Japanese cedar pollinosis. Epidemiological studies, as well as experimental studies, have demonstrated the association between <i>kosa</i> and the exacerbation of asthma and allergic diseases.The <i>kosa</i> particles increase airway inflammation as one of the major sources of atmospheric particulate matter. Furthermore the <i>kosa</i> particles absorb various atmospheric gases, including air pollution. Such environmental pollution enhances the response to allergens, including Japanese cedar pollen. Recently, some epidemiological studies used the <i>kosa</i> data obtained by the light detection and ranging (LIDAR) system, which distinguish between mineral dust and other spherical particles, by identifying differences in the shape of the particles. Further studies using the LIDAR system will help to identify the <i>kosa</i> aerosol components that have adverse health effects, leading to provide new strategies to prevent environmentally induced allergic diseases.
著者
橋本 かほる 能登谷 晶子 原田 浩美 伊藤 真人 吉崎 智一
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.132-137, 2012 (Released:2012-06-15)
参考文献数
10

幼児期金沢方式による言語訓練中に人工内耳を装用した12例の就学後の問題点と対策について報告した。就学時までに3000語以上の文字言語理解を獲得した文字先行移行パターンを示した8例中7例は就学以降も学業に著しい問題を示さず, 人工内耳においても文字言語の有用性が示唆された。幼児期に手話先行未移行パターン, 文字先行未移行パターンを示した例は就学以降の言語習得に問題が多いことがわかった。したがって, 人工内耳装用後も就学前に十分な言語力を獲得しておく必要があると考えた。さらに, 就学以降も言語力ならびに構音の維持のために定期的な評価・指導の必要性が示唆された。
著者
原田 浩美 能登谷 晶子 橋本 かほる 伊藤 真人 吉崎 智一
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.78-85, 2011 (Released:2011-04-16)
参考文献数
17
被引用文献数
2

金沢方式による言語聴覚療法を受け, 1歳から5歳代に人工内耳の装用を開始した11例を対象に, 理解語彙の聴覚読話移行に影響を及ぼす要因を検討した。手話理解・文字理解の視覚系言語から音声言語理解への6歳までの移行には, 文字先行移行パターン, 聴覚先行移行パターン, 手話先行未移行パターン, 文字先行未移行パターンの4つがあり, 移行パターンにかかわらず, 聴覚読話移行可能となるまでの期間は, 平均12ヵ月であった。6歳までに11例中7例が手話から聴覚読話へ移行した。聴覚読話への移行を可能にする要因を装用開始年齢と手話や文字による理解語彙数からみると, 人工内耳装用開始が2歳前後の場合は理解語彙が350語, 3歳前後の場合は700語, 3歳6ヵ月前後の場合は1000語程度獲得していた例で聴覚読話へ移行していたことがわかった。