著者
宍倉 正展 宮内 崇裕
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.235-242, 2001-06-01
参考文献数
28
被引用文献数
1 9

房総半島南部沿岸には,過去の地震に伴う地殻変動を記録した離水海岸地形が複数のレベルに発達する.その詳細な調査に基づくと,1703年元禄関東地震に伴う地殻上下変動は従説とは異なり,南端での隆起と保田,小湊での沈降を伴った北への傾動運動であることが明らかになった.また本地域には,元禄関東地震や1923年大正関東地震と同様の2つのタイプの固有地震が離水海岸地形から確認され,元禄型地震は完新世最高位旧汀線の離水より4回,大正型地震は6,825~6,719cal yrs BP以降少なくとも11回発生している.大正型地震の再来間隔は,離水海岸地形の年代からみて380~990年,最高位旧汀線高度から成分分析した平均再来間隔は290~760年と推定される.沿岸低地の完新世における地形形成は,くり返し発生した元禄型・大正型地震に伴う地殻変動の累積変位に強く影響を受けており,特に海面に対して沈降を伴う元禄型地震時の変動に規定されて多様な発達過程を示す.
著者
宍倉 正展 原口 強 宮内 崇裕
出版者
公益社団法人 日本地震学会
雑誌
地震 第2輯 (ISSN:00371114)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.357-372, 2001-06-15 (Released:2010-03-11)
参考文献数
32
被引用文献数
1 8

Two major historical earthquakes of the 1703 Genroku Kanto Earthquake (M 8.2) and the 1923 Taisho Kanto Earthquake (M 7.9) occurred along the Sagami Trough, where the Philippine Sea Plate subducts beneath the North American Plate. As a result of the coseismic crustai movements associated with these earthquakes and with the repeated characteristic earthquakes of two types (the Genroku-type Earthquake and the Taisho-type Earthquake), Holocene emerged shoreline topography has developed along the southern coast of the Boso Peninsula. We investigated the emerged shoreline topography and beach sediments in the Iwai Lowland with help of a new sampling method using the long geo-slicer to clarify the timing and recurrence interval of the Taisho-type Earthquake. A series of ten narrow emerged beach ridges, which are named the BR-I to BR-X in descending order, are distributed below the highest emerged shore platform, 15.5m high above sea level in the lowland. At least eleven times of coseismic events, probably the Taisho-type Earthquake, can be recognized from the number of the emerged shoreline topography. Based on the 14C ages and sedimentary sequences related to the BR-I-IX, the Taisho-type Earthquake occurred at least three times between 6825-6719 cal yrs BP and 5304-5055 cal yrs BP. After the other three non-dated events succeeded, four events are confirmed at 3300-3100 cal yrs BP, before 2306-2118 cal yrs BP, 1292-1264 cal yrs BP and around 900 cal yrs BP. The lowest BR-X was judged to be emerged during the 1923 event by comparing between the topographic map issued in 1886 and the present one. Analyzing intermittent emergent age of beach ridges, the recurrence interval of the Taisho-type Earthquake is within 990 years, and is 380 years at shortest.
著者
副田 宜男 宮内 崇裕
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.83-102, 2007-04-01 (Released:2008-06-19)
参考文献数
47
被引用文献数
2 2

第四紀後期河成面の変位様式の解析に基づき,東北日本内弧の上部地殻の短縮による活構造の進行と,出羽丘陵の隆起過程を考察した.雄物川および岩見川流域の河成段丘面群のうち,M1面とされた地形面は洞爺火山灰(Toya)との層位関係などから,最終間氷期最盛期(125ka)に対比される.M1面の高度分布から推定される出羽丘陵の第四紀後期における平均隆起速度は最大0.5mm/yr, 横手盆地西縁で0.1mm/yrである.実際の地表変形をもとに地下の断層形状と変位量を検討した結果,北由利断層群から地震発生層下限まで延びる2つのランプを有する東傾斜の逆断層が導かれ,断層折れ曲がり褶曲の成長に伴う出羽丘陵の隆起が示された.求められた水平歪速度(6.6×10-8/年)は,出羽丘陵が第四紀後期も強短縮の場にあることを示す.また,浅部において断層面上のすべりが大きく減衰するという計算結果は,断層の深部と浅部で地殻短縮のプロセスに違いがあることを示唆する.
著者
宮内 崇裕
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.1-19, 1987-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
54
被引用文献数
4 9

本稿の目的は,東北日本弧の非火山性外弧に属する上北平野の第四紀地殻変動を地形学的方法と火山灰編年学的方法によって区分・編年のなされた段丘の変位や基盤の地質構造から明らかにすることである.そして,以下のような結果を得た. 上北平野の西縁は,第四紀前期における三浦山断層と辰ノロ撓曲の活動によって奥羽脊梁山脈や三戸丘陵から分化した.辰ノロ撓曲の運動は鮮新世より第四紀を通じて継続してきた.この構造線は平野周辺の地域を上北ブロックと奥羽-三戸ブロックの2つのブロックに分けているようにみえる.平野北部では東西の軸をもつ褶曲運動が,平野南部では北方への傾動運動がみられる.北方への傾動運動は北上山地の曲隆を示唆する.ほぼ南北にのびる活構造は,第四紀の東北日本に卓越する東西水平圧縮の広域応力場のもとでの地殻短縮を示しているが,東西方向に軸をもつ地殻変動は同じ応力場では起こりにくい. 平野全体の隆起運動は少なくとも第四紀後期には継続している.段丘の変位が褶曲運動や傾動運動に伴うものであるとすると,上北ブロックは最近12万年間には0.1~0.2mm/年の速度で広域に隆起してきたことになる. 奥羽-三戸ブロックの広域隆起速度は,辰ノロ撓曲の活動を加えることによって0.3~0.41mm/年と推定される.上北平野のこのような広域隆起は,日本海溝から平野の沖合にかけて発生した大地震に伴う地殻変形,あるいは東北日本弧の長波長の地殻変動によるものと考えられる.
著者
野田 朱美 宮内 崇裕 佐藤 利典 松浦 充宏
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2015年大会
巻号頁・発行日
2015-05-01

房総半島南端部には沼Ⅰ~Ⅳ面と呼ばれる完新世海成段丘が発達している.このうち最低位の沼Ⅳ面は1703年元禄地震の際に離水した浅海底地形(波食棚から海食台付近)であることが知られており,元禄段丘面とも呼ばれる(松田ほか, 1974).この元禄段丘面と高位の沼Ⅰ~Ⅲ面の高度分布パターンが良く似ていることから,従来,沼Ⅰ~Ⅲ面も昔の元禄型地震によって離水したと考えられてきた(Matsuda et al., 1978; Shimazaki & Nakata, 1980; 宍倉, 2003).しかし,プレート境界地震の場合,地震時にすべった領域(震源域)はやがて再固着するが,それ以外のプレート境界では地震間を通じて非地震性すべりが進行するため,地震時の隆起・沈降パターンは時間と共に徐々に失われていき,最終的に残るのはプレートの定常沈み込みによる変動だけである(Matsu'ura & Sato, 1989).従って,沼Ⅰ~Ⅲ面の形成は元禄型地震の発生とは関係なく,その成因は太平洋プレートとフィリピン海プレートの沈み込みによる房総半島南端部の定常的な隆起運動と完新世の海水準変動に帰すべきものである(松浦・野田,日本地震学会2014年度秋季大会講演予稿集,D11-03).こうした考えの妥当性を検証するため,本研究では,波浪による浸食と堆積,地盤隆起,及び海水準変動を考慮した海岸地形形成モデルを構築し,房総半島南部の完新世海成段丘発達の数値シミュレーションを行った.海岸地形の形成過程は概念的に次のような式で記述される:標高変化=-浸食+堆積+地盤隆起-海面上昇.海岸での海-陸相互作用のモデル化に際しては,浸食レートは波浪エネルギーの散逸レートに比例し(Anderson et al., 1999),浸食によって生産された浮遊物質の堆積レートは岸から遠ざかるにつれて指数関数的に減少していくとした.また,房総半島完新世海成段丘の発達シミュレーションでは,地震性の間欠的な隆起運動は考慮せず,プレートの沈み込みに起因する定常的な隆起運動(Hashimoto et al., 2004)のみを考慮し,酸素同位体比記録に基づく平均海面高度の時系列データ(Siddall et al., 2003)を3次スプライン関数の重ね合わせでフィッティングした海水準変動曲線を用いた.海食崖と海食台は海水準変動曲線の変曲点(山と谷)付近で発達する.1万年前から現在までの海水準変動曲線には7つの変曲点(4つの山と3つの谷)があるため,7つの海成段丘が形成される.しかし,隆起速度が遅いと,形成された段丘の殆どは現海面下に沈んでしまい観測されない.隆起速度が早い場合でも,古い段丘と新しい段丘の重なり合いや逆転が生じ,段丘面の形成年代と現在の高度の対応関係は単純ではない.このことは,房総半島南部の完新世離水海岸地形の詳細な調査に基づいて,既に指摘されている(遠藤・宮内,日本活断層学会2011年度秋季大会講演予稿集,P-06).今回のシミュレーションでは,隆起速度を3~4mm/yrとすると沼Ⅰ~Ⅳ面に相当する明瞭な段丘面が発達することが分かった.但し,その場合でも,古い段丘と新しい段丘の重なり合いや逆転が生じているため,最高位の段丘面の形成年代が最も古いわけではないことに注意する必要がある.
著者
伊藤 谷生 宮内 崇裕 金川 久一 伊勢崎 修弘 佐藤 比呂志 岩崎 貴哉 佐藤 利典
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2000

今年度は本研究の最終年度であるため、2000年9月に行われた日高超深部地震探査結果の解析を行い、日高衝突帯の超深部構造を明らかにする糸口を見つけだすことが中心的課題であった。このため、年度の前半は、探査結果解析のための前処理を千葉大学所有の反射法処理システムを用いて行い、後半は、新たに導入した汎用地震探査処理システムSuper XCを用いて解析作業を進めた。また、この作業と平行して、測線周辺の地質調査を行った。これらを通じて明らかになったことは以下の点に要約される。1)日高主衝上断層(HMT)は低角であり、しかも地下2km程度でほとんど水平になる。これは、変成岩類主帯の構造から推定されてきたことと調和的である。2)TWT14秒付近に顕著な反射面群として把握されているものは、自然地震の震源分布との対応関係から太平洋プレート上面と推定される。3)デラミネートした千島下部地殻下半分のイメージは現在までの処理過程では把握されていない。その理由としては、高角なためイメージングできない、破砕されているため地震波が散乱し反射面を形成できない、エクロジャイト化して上部マントルと区別できない、の3つが考えられるが、1つを特定できない。4)東北日本側のウェッジにも顕著な反射面が認められ、当初考えられていた単純なデラミネーションーウェッジモデルよりも複雑な"刺しちがえ"構造の存在が碓定される。5)イドンナッブ帯中の冬島変成岩類の西縁断層は衝上断層である。6)日高超深部地震探査と平行して行われた遠地自然地震のレシーバ関数解析についての予察的研究によれば、4)に対応するインターフェースの存在が確認される。これまでの解析は最もベーシックな段階であるにもかかわらず、日高衝突帯超深部構造解明の糸口を与えるものである。今後の木格的な処理作業によって、解明へ大きく前進するであろう。