著者
増田 昌敬 長縄 成実 宮沢 政 田中 彰一
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

微小な隙間内において低粘性流体が高粘性流体を置換する場合、流体間界面に不安定性が生じてフラクタルなパタ-ンを形成する。本研究では、0.8mmの隙間をもつアクリル板を2枚重ねたHeleーShaw実験モデルを製作し、この上下板間の微小な隙間に満たされたある流体が他の流体により置換される時の流体界面の形状を観察した。上下のアクリル板は、各々、直径60cmと66cmの円板であり、厚さ2cmである。実験では、まずモデル内に一方の流体を満たした後、下板の中心に開けられた径1mmの注入孔より、他の流体を放射状に圧入する。本年度は、濃度200、500、1000ppmのポリアクリルアミド水溶液を水で置換する場合の流体界面の形成過程の観察を行い、流体のレオロジ-特性が流体間の界面の不安定成長に与える効果について解析した。観察デ-タを画像解析した結果、以下のことが言える。(1)低粘性のニュ-トン流体が高粘性の擬塑性流体を置換する場合は、ニュ-トン流体同士の置換の場合に比べて、その流体間界面にはより大きな不安定性が生じる。この置換パタ-ンのフラクタル次元d_fは1.69〜1.81の値であり、前年度に得られたニュ-トン流体同士の置換の場合の1.80〜1.96に比べて小さくなる。(2)流体間の界面に生じる不安定性(フラクタルなパタ-ン)は、時間経過とともに大きなフィンガ-(指状体)に成長していく。この成長過程においては、流体のレオロジ-特性が大きな影響を及ぼす。2次元流れの数値シミュレ-ションでは、差分法を用いてラプラス方程式を解いた。計算の初期条件として、流体間の界面にゆらぎを与えることにより、流体界面の不安定性の成長過程はある程度予測できた。しかし、実験に特徴的であった樹枝状のフィンガ-の成長は再現できなかった。
著者
大矢 雅則 須鎗 弘樹 渡邉 昇 下井田 宏雄 宮沢 政清 戸川 美郎
出版者
東京理科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

この一年間に亘る研究成果について述べる.数理科学を対象とする領域は多様であるが,その中で情報科学と関連のあると考えられる分野に焦点を当て,それを解析的,特に函数解析や確率解析の手法を用いてできるだけ統一的に展開した.つまり,多様な分野を横に結ぶ″Key″となる概念を見い出し,それによって統一的に様々な分野を扱い,具体的に次のような内容の研究を行なった.1.情報理論の基幹であるエントロピー理論を解析的,確率論的,量子論的に展開し,量子制御通信過程における誤り確率の数学的な一般式を導き,光パルス変調方式の効率を数理的に調べた.2.遺伝子配列の整列化,相互エントロピーを用いた生物の類縁度の定式化による系統樹を作成し,遺伝子の情報論的取り扱いの有用性を示した.3.一般量子系の状態に対して,幾つかのフラクタル次元,及び量子ε-エントロピーを定式化し,それの具体的な力学系への応用を議論した.4.ニューラル・ネット及びシミュレーティッド・アニーリングについて数学的に厳密に定式化を行なった.特に,ニューラル・ネットを用いた最適値問題の解法における解の安定性を保障する幾つかの結果を得た.5.R^<n+>上で定められた非線形力学系の漸近安定解の外部からのノイズの影響について研究を行った.また,負性抵抗を含む回路がストレイキャパシタンスの影響により不安定になるケースについて調べた.6.デジタル回路網におけるバースト型のトラフィック問題を待ち行列モデルを使って解析し,光通信における通信路や交換機バッファーの容量,誤り確率等の最適値問題を数理的に研究した.7.最近のスーパーコンピュータの発達と数式処理のソフトウェアの発展を利用して函数値の高速かつ精密な算法を情報理論的見地から再検討し,組合せ最適値問題や非線形画法などで利用可能な新しい計算手法を開発するための基礎的研究を行なった.
著者
戸川 美郎 須鎗 弘樹 渡辺 昇 下井田 宏雄 宮沢 政清 大矢 雅則
出版者
東京理科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

今年度の研究実績について述べる.エントロピー理論はClausius,Boltzmann,Shannon等に始まり,その後,von Neumannによって,量子力学構築が試みられ,量子系のエントロピー理論が生まれ,現在も様々な分野において,その研究が続けられている.本研究計画においても,以上のような背景にもとづいて,次に示すような研究実績をあげてきた.(1)解がカオス的に境界に漸近する力学系において,境界が存在する相空間上の位相的エントロピーのパラメーター依存性を調べた.(2)画像処理に用いられる回路の安定性の条件を見つけることができた.(3)光通信における誤り確率の定式化並びに相互エントロピーによる変調効率の比較等を行うことができた.(4)ガウス通信過程への相互エントロピーの応用等を論じた.(5)量子系のエントロピーの最大化,ファジーエントロピーの諸性質などについても論じた.(6)遺伝子解析にエントロピー理論を応用するため,2個の生物塩基配列,あるいはアミノ酸列をコンピュータによって,整列化する際,DP matcingを用いたアルゴリズムを提案し,従来の整列化法を比較検討した.(7)また,2個の塩基配列だけでなく,n個の塩基配列を同時に整列化する方法も提案し,その速さ等を従来の方法と比較検討した.(8)RGSMP(Reallocatable Generalized Semi-Markov Process)と呼ばれる一般の待ち行列ネットワークに応用することが出来る確率過程を提案し,その基本的な特性の解析を調べた.(9)RGSMPの定常分布の構造をあらかじめ仮定することにより,RGSMPの状態推移の構造が定常分布にどのように反映しているかを議論した.(10)ポアソン到着を持つ無限窓口待ち行列の系内仕事量のモーメントを計算しバースト型到着モデルへの応用を論じた.(11)率保存則についてサーベイを行うとともに,パルム測度に関する基本的な公式や各種の確率過程の定常分布を特徴づける式などがすべて率保存則より導かれることを示した.
著者
高橋 幸雄 牧本 直樹 滝根 哲哉 高橋 敬隆 宮沢 政清 大野 勝久
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

情報通信ネットワークの新しい性能評価法に関して、基本的な研究および応用的な研究を行った。研究自体は個人あるいは少人数のグループベースで行い、月1回の月例会と年1回のシンポジウムの場で情報交換と研究成果の検討を行った。情報通信ネットワークは急速に変容しており、研究の内容も当初予定していたものとは多少違う方向で行わざるを得なかった。研究計画であげたテーマは次の4つであり、それぞれの研究の進展状況は以下の通りである。1. 入力過程の研究 長期依存性(long-range dependence)のある入力過程の研究と複数の入力がある待ち行列の解析が中心であった。そのなかで特筆すべきひとつの結果は、バッファの溢れ率に着目した場合、長期依存的であるかどうかよりも、ピーク時の入力過程の挙動が本質的であることが示されたことである。2. 極限的状況の研究 マルコフ性あるいは大偏差値理論を用いて、客数分布の裾が幾何的に減少することがかなり広い範囲のケースについて証明された。3. 混雑伝播の研究 ネットワークの多様性のため、研究が進展しなかった。4. コントロールの研究 ATMネットワークを中心に多くの研究がなされ、いくつもの新しい考え方が提案された。とくに移動体通信に関するものや料金によるコントロールの研究が始まり、新たな研究の芽が生まれた。