著者
久永 明人 伊藤 隆 新沢 敦 横山 浩一 喜多 敏明 寺澤 捷年
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.501-505, 2002-01-20
参考文献数
9
被引用文献数
3

閉塞性睡眠時無呼吸症候群に半夏厚朴湯が有効であった1例を経験した。症例は32歳の男性で, 21歳頃よりいびきと睡眠時無呼吸を指摘され, 27歳時に口蓋垂軟口蓋咽頭形成術を受けたが改善なく, 日中の過度の眠気を自覚するようになり来院した。「咽中炙臠」と考えられる咽喉部不快感を認めたため半夏厚朴湯エキス (ツムラ, 7.5g/日) を投与し, 2週間後には咽喉部不快感が消失した。1ヵ月後にはいびきが消失し, 日中の過度の眠気が自覚的に改善した。投与前と投与5ヵ月後に終夜睡眠ポリグラフィを施行したところ, 無呼吸指数は19.2から10.3に, 無呼吸低呼吸指数は19.2から12.8に改善していた。本例の経過から, 半夏厚朴湯が上気道抵抗を上気道下部において減弱させた可能性があると推察した。
著者
貝沼 茂三郎 伊藤 隆 津田 昌樹 古田 一史 三潴 忠道 嶋田 豊 寺澤 捷年
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.463-467, 2004-07-20
参考文献数
8
被引用文献数
4 10

我々は面状発熱体を使用した新式の電気温鍼器を作成し, 健常人男性2人で, 温鍼器を人体腰部に当て, 放熱温度に関する測定を, 旧式の豆電球方式の電気温鍼器と比較検討を行った。その結果, 旧式と新式を比較すると, 旧式の2段階が新式の5チャンネルに相当することがわかり, また温鍼器中央温度は, 旧式と新式で立ち上がりは同じでほぼ同様の曲線を描き, 10分後には140℃程度に達した。しかし, その後旧式では, 温鍼器の中央温度が上昇し続けたのに対し, 新式ではプラトーに達し, 新式の方が安全性に優れていると考えられた。また19例を対象に, 新式の5チャンネルで有効方剤と電気温鍼耐久時間の関係を検討すると, 10分未満では陽証, 30分以上では陰証 (特に烏頭, 附子含有方剤) の方剤が有効であった。耐久時間と証に一定の相関が認められたことより, 新式の電気温鍼器は証の決定に有効な補助手段に成りうると考えられた。
著者
寺澤 捷年 竹田 眞 八木 明男 地野 充時
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.165-167, 2017 (Released:2017-10-20)
参考文献数
2

漢方医学においては腹部の診察は証の決定に必須である。筆者らは腹診によって診断した腹部大動脈瘤の二症例を経験した。腹部動悸という症候に動脈瘤を伴うことは非常に稀なことではあるが,全ての臨床家はこのことに注意を払う必要がある。
著者
寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.1-12, 2016-01-20 (Released:2016-05-27)
参考文献数
26
被引用文献数
2 1

漢方医学において腹部の触診は非常に重要である。なぜならばある種の腹部徴候は特定の方剤群を指示するからである。最近,著者は心下痞鞕と背部兪穴の硬結が緊密に関連していることを見出した。また,28症例の検討によって,この旁脊柱筋の硬結を鍼によって緩めると心下痞鞕が即座に解消されることを明らかにした。この新知見は二つの事実を示唆している。則ち何等かの共通の要因が心窩部と背部兪穴に同時的に徴候を現していること,及び上部消化管からの迷走神経の痛覚求心性信号が背部兪穴からの求心性信号によって視床への投射が遮断されることである。すなわち心下痞鞕という腹部徴候が出現する背景には迷走神経・交感神経反射系の存在が示唆された。この知見は漢方と鍼灸のパラダイムの相違を乗り越えたものであり,今後の伝統医学の在り方に発想の転換を求めるものである。
著者
久永 明人 伊藤 隆 新沢 敦 横山 浩一 喜多 敏明 寺澤 捷年
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4-5, pp.501-505, 2002-01-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
9

閉塞性睡眠時無呼吸症候群に半夏厚朴湯が有効であった1例を経験した。症例は32歳の男性で, 21歳頃よりいびきと睡眠時無呼吸を指摘され, 27歳時に口蓋垂軟口蓋咽頭形成術を受けたが改善なく, 日中の過度の眠気を自覚するようになり来院した。「咽中炙臠」と考えられる咽喉部不快感を認めたため半夏厚朴湯エキス (ツムラ, 7.5g/日) を投与し, 2週間後には咽喉部不快感が消失した。1ヵ月後にはいびきが消失し, 日中の過度の眠気が自覚的に改善した。投与前と投与5ヵ月後に終夜睡眠ポリグラフィを施行したところ, 無呼吸指数は19.2から10.3に, 無呼吸低呼吸指数は19.2から12.8に改善していた。本例の経過から, 半夏厚朴湯が上気道抵抗を上気道下部において減弱させた可能性があると推察した。
著者
寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.57-66, 2018 (Released:2018-07-04)
参考文献数
10

三焦は漢方医学における六腑の構成要素のひとつである。このものと体内の如何なる臓器が関連するかについての論考は『井見集』に初出し,その後大友一夫により臓側腹膜(腸間膜)と対応するとの学説が呈示されている。 最近,腸間膜に関する総説が The Lancet 誌に公表されたが,これには腸間膜を一つの臓器として認識すべきことが提案されている。大友学説は1980年に公表されたものであるが,本稿は最新の解剖学的知見を基にその学説の妥当性を論じる事を意図した。
著者
後藤 博三 新谷 卓弘 三潴 忠道 寺澤 捷年
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.459-465, 1995-11-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
8
被引用文献数
1 2

慢性関節リウマチ (RA) においてアミロイドーシス (ア症) による腎障害は予後増悪因子として重要である。今回我々は, 全身性ア症による腎障害を伴ったRAに対し, 大防風湯を投与しRAの活動性と腎機能の改善を認めた一例を経験したので報告する。症例は64歳の女性。主訴は多関節痛。約10年前にRAの診断をうけ金製剤・副腎皮質ステロイド製剤等の投与を受けた。1993年2月に腎機能低下を認め, RAおよび腎障害の加療を希望し同年〓飯塚病院漢方診療科入院となった。入院時RAは Class II, Stage IV で, 胃十二指腸粘膜と腎糸球体にアミロイドの沈着を認め全身性ア症と診断した。大防風湯を投与し2週間後にランスバリー指数は64%から39%に改善し, 4週間後にS-Cr値が1.7mg/dlから1.5mg/dl, 1日尿蛋白が約4gから約2.5gに改善した。退院後, 1年以上を経過しているが, RAおよび腎機能とも増悪なく経過している。
著者
笠原 裕司 小林 豊 地野 充時 関矢 信康 並木 隆雄 大野 賢二 来村 昌紀 橋本 すみれ 小川 恵子 奥見 裕邦 木俣 有美子 平崎 能郎 喜多 敏明 寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.519-525, 2009 (Released:2010-02-23)
参考文献数
16
被引用文献数
4

奔豚と思われた諸症状に呉茱萸湯エキスと苓桂朮甘湯エキスの併用が奏効した症例を6例経験した。5例はパニック障害,1例は全般性不安障害と推定され,6例いずれも,動悸,吐き気,めまい,頭痛やそれらに随伴する不安感などを訴えて,肘後方奔豚湯証と考えられた。呉茱萸湯エキスと苓桂朮甘湯エキスの併用投与で症状軽快し,あるいは肘後方奔豚湯からの変更で症状は再発しなかった。呉茱萸湯エキスと苓桂朮甘湯エキス併用は肘後方奔豚湯の代用処方として奔豚の治療に有効である可能性が示された。
著者
藤本 誠 森 昭憲 関矢 信康 嶋田 豊 寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.655-660, 2004-09-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
11
被引用文献数
3 1

帰耆建中湯が有効であった潰瘍性大腸炎の2症例を経験した。症例1は35歳, 男性。他院にて潰瘍性大腸炎と診断され, ステロイド治療などの内科治療を受けたが寛解に至らず, 漢方治療を希望して当科紹介受診。帰耆建中湯を投与したところ約2週間の内服で腹痛・粘血便・下痢が消失して退院した。症例2は28歳, 女性。他院にて潰瘍性大腸炎と診断され, ステロイドパルス療法, 顆粒球除去療法などを繰り返し, 発症後10年が経過していたが寛解に至らず, 1日10回以上の腹痛を伴う粘血便・下痢を主訴に当部を受診した。帰耆建中湯加文葉山東阿膠の約4週間の服用で腹痛・粘血便・下痢が消失した。今回の経験から, 帰耆建中湯が潰瘍性大腸炎の治療方剤の一つになり得る可能性が示された。
著者
寺澤 捷年 土佐 寛順 伊藤 隆 三潴 忠道 嶋田 豊
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.735-746, 1996-03-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
18
被引用文献数
1

吉益東洞の『建珠録』に記載された4人の越中の僧侶達, すなわち第43症例・玉潭, 第34症例・僧樸, 第2症例・誓光寺主僧, および第37症例・勝楽寺後住について, その伝記等を調査し, 東洞との出会いの時期, ならびに記載された症例の病態について検討した。これら越中の僧侶達はすべて浄土真宗の僧侶であり, 彼らは『建珠録』に記載された全54症例の中で, 東洞の医説を積極的に受容したと考えられる特異な例であることが分かった。吉益東洞の医説とこれを受容したこれら僧侶達の思想的背景に共通する要素のあることを考察した。
著者
藤永 洋 萬谷 直樹 喜多 敏明 柴原 直利 寺澤 捷年
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.267-273, 1999-09-20
被引用文献数
1

激しい腹痛発作を繰り返すガス症状優位型の過敏性腸症候群に対して、『医学統旨』の柴胡疎肝湯が著効した一例を経験した。 患者は31歳男性。1994年11月より2〜3ヶ月ごとに激しい腹痛発作と腹部膨満感を訴え、近医へ救急受診を繰り返していた。これまでに3回入院して精査を受けたが器質的異常は認められなかった。腹痛発作に腹部膨満感などのガス症状を主に伴うことよりガス症状優位型の過敏性腸症候群と診断した。また、腹部単純X線写真で左結腸脾彎曲部に著名なガス像を認めたことから脾彎曲部症候群が疑われた。1996年6月より当科外来で『医学統旨』の柴胡疎肝湯を開始したところ、その後症状は出現しなくなった。さらに感情不安定や立ちくらみ、皮膚症状なども軽快した。 柴胡疎肝湯の目標は四逆散証で気鬱の病態が強いことであり、ガス症状優位型の過敏性腸症候群に対して有効な処方であることが示唆された。
著者
寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.938-955, 2010 (Released:2011-03-01)

『医界之鉄椎』の初版本が発刊されたのは明治43(1910)年であり,今年は正に100周年である。この警世の書は医学が専門分化の道を辿り統合的な理解が困難となった医療界の現状を憂え,漢方こそが統合的治療の根幹に据え置かれるべきものであることを主張した医療論である。この初版本に対して,論理だった反論を展開した人物が存在した。それが平出隆軒氏である。平出氏は奇しくも当時の名古屋医療界の泰斗である。彼は『医界之鉄椎』を熟読し,これに反論(一部同意)を加えた見識と品格を高く評価したい。この平出隆軒氏の反論を輯録した第二版は大正4(1915)年に出版された。平出隆軒氏の指摘した事項は今日の我々にも突きつけられた刃である。そこで,平出氏の指摘した課題を整理し,私共がその課題にどのように取り組んできたか。将来に解決を待たなければならない課題は何かについて論じた。
著者
小川 恵子 並木 隆雄 関矢 信康 笠原 裕司 地野 充時 中崎 允人 永嶺 宏一 寺澤 捷年 秋葉 哲生
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.641-645, 2008 (Released:2009-01-15)
参考文献数
12
被引用文献数
1

我々は,短腸症候群を漢方治療で安定した状態に管理できた1例を経験した。症例は,74歳,女性。主訴は,重症下痢,腹満感,腹痛である。23歳で結核性腹膜炎と診断され,26歳時,腸閉塞により小腸・大腸部分切除術を受け,短腸症候群となった。60歳,漢方治療目的に,当院受診。茯苓四逆湯を投与したところ,腹痛・腹満・下痢ともに改善した。さらに,蜀椒を加味することにより,大建中湯の方意も併せ持つ方剤とした。茯苓四逆湯加蜀椒にて,経過を見ていたところ,64歳には,体重45kgと,術後初めて術前体重に戻った。短腸症候群は,予後の悪い疾患ではあるが,本症例は14年間漢方治療で安定した経過を得ることができた。
著者
塩谷 雄二 嶋田 豊 松田 治巳 高橋 宏三 寺澤 捷年
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.823-831, 1995-04-20
被引用文献数
2 1

駆〓血生薬であるサフランの薬理学的作用を明らかにする目的で,まず投与前に性成熟期の12人の健常女性の月経期,卵胞期,黄体期で11-dehydro TXB_2,血小板凝集能, 血液粘度, 血液生化学の検査を行った。月経期では卵胞期または黄体期に比べ,血液粘度,血小板凝集能, 11-dehydro TXB_2の上昇と平均赤血球容積(MCV)の増加を認めた。このことから血液粘度を上昇させる要因としてMCVの増加による赤血球変形能の低下が考えられた。月経期では子宮内膜のPGE_2が最高値を示すことから,MCVの増加にPGE_2が関与していることが推測された。次いで6例の対照群には白湯を投与し(約4週間),他の6例にはサフラン振り出し液を投与し(約4週間), これらの指標の変化を比較検討した。サフランは月経期においてMCVと血液粘度を明らかに低下させたことから,血液粘度の低下の要因にはMCVの減少による赤血球変形能の改善が関与しているものと考えられた。また血中エストロゲンが低値の卵胞期において11-dehydro TXB_2を低下させた。〓血病態においては全血粘度が上昇していること,血小板のトロンボキサン合成が冗進していることが報告されているが,サフランはこれらの指標に対し明らかな作用を持つことから,駆〓血作用を有することが健常の性成熟女性-C示された。