- 著者
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浅井 潔
- 雑誌
- 情報処理
- 巻号頁・発行日
- vol.46, no.3, pp.271-276, 2005-03-15
バクテリアに始まりヒトを含む多くの真核生物のゲノム配列が決定されたが,もとよりゲノム配列の決定はその解読ではなく,ゲノム配列情報の意味を解明するためには多くの課題が残されている.その第一は遺伝子発見と機能アノテーションである.多くのゲノム配列が遺伝子位置,機能が注釈付けされた形で公表されているが,その作業は熟練した研究者の人手によるところが多く,自動化された技術としては確立していない.遺伝子制御ネットワーク,代謝パスウェイ,シグナル伝達パスウェイなどを解明し,データベース化することはより高次の課題であるが,ゲノムに存在する遺伝子セットの機能アノテーションが前提となっている.今後は,DNA マイクロアレイによる発現解析,タンパク質相互作用の解析,タンパク質立体構造などの多元的な情報と配列情報を統合した取り組みが主流となっていくであろう多くのゲノムが決定されたことにより可能になった「比較ゲノム」の研究により,共通の保存領域の中には,タンパク質コード領域ではない部分(非コード領域)の方が多いことが明らかになった.このうち相当部分が機能を持つRNA ではないかと考えられている.RNA 干渉とmiRNA の発見によっても注目を浴びているRNA ではあるが,実はRNA 配列の情報解析技術は確立された技術とは言いがたい.二次構造と配列相同性の両方を考慮した実用的な配列の比較・検索手法はまだ存在しないが,近年カーネル法や共通二次構造予測など,新しい手法が提案されている.