著者
尾崎 孝宏
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿大史学 (ISSN:04511913)
巻号頁・発行日
no.59, pp.15-28, 2012
著者
尾崎 孝宏
出版者
日本沙漠学会
雑誌
沙漠研究 (ISSN:09176985)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.9-15, 2023-06-30 (Released:2023-06-30)
参考文献数
20

モンゴルの遊牧という生業を規定するのはステップの自然環境である.しかし,遊牧民も社会や国家の中で生きており,人文社会的な事象が彼らの遊牧実践に大きく影響している.例えば近現代においては,社会主義化や民主化といった政治経済体制の変化が大きな影響を与えてきた.本稿では,科学技術や社会制度から波及する要素,主として諸インフラを取り上げて論じる.モンゴルにおける近現代に発生した質的変化として,セメントや重機を使った建築や井戸などの構造物の出現が挙げられる.例えば1950年代末から本格的に始まるネグデル期のインフラ構築は,学齢期の子供や高齢者の越冬地としての定住集落と,遊牧民の労働場所としての草原の双方を睨みながらの季節移動や営地選定といった,現在まで続く新たな空間利用の形態をもたらした.また移動技術と結びついたモータリゼーションも近現代の質的変化の一つである.2000年以降には季節移動の手段としての自己所有の自動車の普及や,放牧を含む近距離移動手段としてのバイクの利用などが頻繁にみられるようになった.また同時期に及した生活用具の中で,特に大きな影響力を持っていると思われるものは,発電機と蓄電池のセット,携帯電話,プラスチック容器などである.プラスチック容器は従来,世帯レベルでの商品化が困難であった乳製品を容易に運搬可能とした点で大きな意義があるが,その背景として携帯電話の普及によるコミュニケーションの簡便化,さらには携帯電話の利用を可能とする電力へのアクセスによってもたらされた変化である.現状ではインターネットが遊牧実践に及ぼす影響の更なる増大が予測される.近年,スマートフォンの普及に伴いSNS利用の拡大などが見られ,その結果インターネットへのアクセス可否が営地選定に大きな影響を及ぼしている.この新しいインフラの普及は過去の社会制度の変化や災害と同様,再び彼らの牧畜戦略を変化させる可能性がある.
著者
尾崎 孝宏
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.505-523, 2020

<p>本論は中国内モンゴル自治区中部における「旅游点」で展開されるエスニックツーリズムを事例に、筆者の実食データと対照させつつ、トランスカルチュラル状況の食文化の在り方について考察を加えることを目的とする。内モンゴルの旅游点で提供されるものは、食を中心としたエスニックツーリズムである。旅游点で提供される歌舞やアトラクションは、中国におけるエスニックツーリズムの大規模拠点である民族テーマパークにおける表象と連続性が見出される。一方、旅游点における食は、基本的にはと畜直後のヒツジの内臓と肉を塩ゆでで提供するという、モンゴル族の牧畜民における宴席の延長線上に位置づけることが可能である。メニュー構成の調節においてはゲストの嗜好性が反映されている一方、すべてを観光の場や漢族の眼差しに帰することは不適切である。例えば乳製品の抜絲(飴がけ)は、都市のモンゴル料理店で一般的に提供される。また、内モンゴルの内外で提供されるメニューがモンゴル料理店のメニューに取り込まれる過程にも、漢族との関係性への考慮は特に必要ない。エスニックツーリズムには異文化接触における身体性の適度な調節が不可欠である。内モンゴルの旅游点で出されるメニューに対してゲストが抱く安心感は、旅游点を訪れたゲストの直接的な経験とは切り離されているものの、都市のモンゴル料理店およびモンゴル族を中心としたその顧客を経由して構築されている。</p>
著者
森永 由紀 ヤダムジャブ プレブドルジ バーサンディ エルデネツェツェグ 高槻 成紀 石井 智美 尾崎 孝宏 篠田 雅人 ツェレンプレブ バトユン
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.128, 2014 (Released:2014-10-01)

モンゴル高原では数千年来遊牧が生業として営まれるが、そこには遊牧に関する様々な伝統知識があり、寒冷・乾燥フロンティアといえる厳しい自然条件の下での土地利用を支えてきたと考えられる。牧民の伝統的な食生活には、乳の豊な夏には乳製品が、寒い冬にはカロリーの高い肉製品が主に摂取されるという季節的特徴がある。乳製品の中でも代表的といわれる馬乳酒は、馬の生乳を発酵させて作られ、アルコール度が数%と低く、産地では幼児も含めて老若男女が毎日大量に飲む。夏場は食事をとらずに馬乳酒だけで過ごす人もいるほど貴重な栄養源で、多くの薬効も語られる。今も自家生産され続け、年中行事にも用いられる馬乳酒には重要な文化遺産としての意味もあるが、その伝統的製法は保存しないとすたれる危険があり、記録、検証することには高い意義がある。本研究では、名産地の馬乳酒製造者のゲルに滞在して、製造期間である夏に製造方法を記録し、関連する要素の観察、観測を行った。馬乳酒の質は原材料となる馬乳と、それを発酵させる技術(イースト、容器、温度管理など)で決まると考えられる。そこで①馬の飼養と搾乳、②馬乳の発酵方法を調査した。 調査の概要は以下のとおりである。調査地:モンゴル国北部ボルガン県、モゴッド郡にある遊牧民N氏(52歳)と妻U氏(51歳)のゲル 期間:2013年6月15日~9月22日観測項目:上記の①に対応し馬群およびその環境の観察・観測(GPSによる馬の移動観察、体重測定、牧地の植生調査、ゲル近傍および内部の気象観測)、搾乳の記録観察、②に対応し馬乳酒の成分調査、発酵方法の聞き取り、製造過程の撮影などを、モンゴル国立気象水文環境研究所の協力のもとで行った。馬乳酒の日々の搾乳量を記録した。N氏のゲルでは7月11日に開催されるナーダムという夏祭りに首都で売るために6月25日の開始後約2週間は精力的に製造に励み、約250リットルを販売した。その後一時製造のペースが下がったが、8月下旬から再び搾乳回数を増やして、秋には作った馬乳酒のうち約1トンを冬場の自家消費のために冷凍保存した。期間中の製造量は合計5.1トンだった。今後は、データ整理をすすめ、馬乳酒製造法とそれをとりまく環境の記録を残す。また、気象データの解析により、気象条件と馬の行動、搾乳量、馬乳酒の発酵(温度、pH,、アルコール度など)の関係の解析、および冬営地の気象条件の考察などを行い、馬乳酒製造と気候の関係を明らかにしていく。
著者
篠田 雅人 尾崎 孝宏 大谷 眞二 島田 章則 黒崎 泰典
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009-04-01

モンゴルの砂塵嵐の影響を、気象災害のリスク=大気現象の規模x遊牧社会の脆弱性(社会経済・保健医学・獣医学要因)という新しい枠組みでとらえ、気象解析により砂塵嵐の規模を評価するとともに、牧民の社会経済調査、健康調査、家畜の病理学調査により遊牧社会の脆弱性評価を行うことで、砂塵嵐が引き起こした影響を解明した。とくに、同じ規模の砂塵嵐が通過した地域でもその影響が異なる場合、遊牧社会の脆弱性に差異があるかを検討した。
著者
森永 由紀 尾崎 孝宏 高槻 成紀 高槻 成紀
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

遊牧の知識の客観的検証のために、モンゴル国北部のボルガン県の森林草原地帯で気象学的・生態学的・人類学的調査を実施した。一牧民の事例ではあるが、谷底にある夏営地と斜面上の冬営地の気温差から、盆地底の冷気湖の上にある斜面温暖帯に冬営地が設置されている可能性を指摘し、家畜にとって冬営地の気象条件が夏営地のそれより、冬季にいかに有利かを体感気温の観点から検証した。また、家畜の群れを移動群と定着群に分けて体重測定を実施した結果から、移動する場合のほうが体重増加に有利であることを示した。さらに、聞き取り調査により、調査地域が都市近郊に形成されている牧民集中地域であり、現在のモンゴル国における典型的な牧畜戦略のひとつとして、都市近郊に居住することで現金収入を最大化させようとする志向があることを明らかにした。