著者
石井 智美 鮫島 邦彦
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.79-84, 2006 (Released:2014-03-15)
参考文献数
23

モンゴル遊牧民はヒツジ,ヤギ,ウシ,ウマ,ラクダの乳を様々に加工してきた。ゴビ地方のラクダはフタコブラクダで,搾乳の中心家畜であるが,飼育地域が限られ,モンゴル遊牧民のラクダ乳利用に関する報告はまだ少ない。筆者らは,モンゴル国のラクダ乳の成分,ラクダ乳からつくられたチーズ aaruul の一般成分分析,微量成分分析を行った。その結果,ラクダ乳はウシ乳より,脂肪含有量が高かった。ラクダ乳 aaruul は脱脂したモンゴルのウシ乳 aaruul に比べ,蛋白質,脂肪,カルシウム含有量が高かった。ラクダ乳 aaruul に健康に良いと生の野草を加えることも行われていた。そしてモンゴルのヒツジ,ウシ乳の加工で行われる脱脂がラクダ乳では行われていなかった。Aaruul の硬さを Tensile Tester で測定した結果,脱脂したウシ乳 aaruul より早い時間で崩れた。aaruul の硬さには乳脂肪含有量が関与しているのではないかと考えた。ラクダ乳酒中から乳酸菌は複数種の Lactobacillus 属と Lactococcus 属菌株,酵母は Kluveromyces marxianus var. lactis を分離した。
著者
石井 智美 鮫島 邦彦
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.50, no.8, pp.845-853, 1999-08-15 (Released:2010-03-10)
参考文献数
21
被引用文献数
1

A dietary survey on the nutritional intake of the Mongolian Gel tribe was conducted while living with the tribe from June to July in 1997. The traditional Mongolian diet consists mainly of dairy products in the summer and meat in the winter, supplemented by flour. The meals are of a very simple style, with five of the nine main dishes being dairy products which are consumed almost daily. The average energy intake for a householdhead is around 2, 200 kcal, which is just sufficient for health maintenance. Dairy products account for 48% of the total energy intake and 40% of the total protein intake. Although the use of flour in the summer diet is thought to ensure an adequate dairy energy intake, flour is also thought to lead to an increase in salt intake. Lactose in dairy products, and collagen in meat both help to make up for the lack of vegetables in the Mongolian diet, while vitamin C is provided by the consumption of internal organs and blood, as well as by-kumiss. The Gel tribe are therefore able to effectively obtain sufficient by utilizing all of the available foodstuffs.
著者
今村 薫 斎藤 成也 石井 智美 星野 仏方 風戸 真理 Nurtazin Sabir Azim Baibagyssov
出版者
名古屋学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

世界には、おもにモンゴルに分布するフタコブラクダとアラビア半島からサハラ砂漠に分布するヒトコブラクダの2種の家畜ラクダがいる。これらは別種だが、カザフスタンでは昔から目的に応じて2種の交配が行われてきた。近年は、乳量の多いヒトコブラクダと、寒さに強くてカザフスタンの気候に適したフタコブラクダを交配させたハイブリッドの作出が盛んになってきている。そこで、ラクダの動物としての特性をDNA、生態、行動の点から解明すると同時に、ラクダを人間がどのように利用してきたか、その相互交渉の歴史と現状についての研究を進めた。
著者
塩崎 美保 石井 智美
出版者
The Japanese Society of Nutrition and Dietetics
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.303-306, 2004-10-01 (Released:2010-02-09)
参考文献数
16
被引用文献数
1 2

The Ainu are indigenous people of Japan who have mainly resided in the Hokkaido and Tohoku regions. They have traditionally obtained starch and onturep from roots of the lily (Cardiocrinum cordatum var. glehnii) which is thought to have been their main edible plant for use as a food and medicine.We prepared starch and onturep in this study and analyzed their compositions. Starch was extracted from roots of the lily, and the remaining root materials were fermented, dried, and made into onturep. They had a high carbohydrate content. Onturep was made into gruel, the energy of the gruel for one meal being calculated to be about 240kcal.The Ainu have traditionally made dried foods high in energy level and fiber content by using starch extracted from the roots and the remaining root materials. The consumption of these dried foods has enabled the Ainu to maintain a stable and nutritious diet.
著者
石井 智美 鮫島 邦彦
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.173-178, 2004-08-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
11

モンゴル遊牧民の食は, 家畜由来の乳・肉に依存する割合が高く, 野菜の摂取がほとんどない。連続した雪害は家畜に大きな被害を与えた。雪害が食に及ぼした影響を検討するため, 1997年に調査を行った世帯と同一の世帯で, 食に関する調査を行った。その結果, 夫のエネルギー摂取量は1997年夏季で平均2,191±589kcal, 2002年夏季で平均2,108±618kcalと, 顕著な差はなかったが, 2002年夏季では雪害前に比べ乳製品の摂取量, 種類が減少し, 小麦粉を使った料理が多くなっていた。小麦粉の消費量は雪害以前より3倍に増加していた。夏季のエネルギー摂取量の半分近くを賄っていた馬乳酒の飲用もなかった。この馬乳酒から充分な量のビタミンCを摂取していたことが明らかになった。自家製乳製品は各種微量成分が豊富であった。乳製品の摂取不足が続くことで健康に影響の出る可能性が考えられた。近代化の波が押し寄せる草原で, 遊牧民の食は大きな岐路に立っている。
著者
石井 智美 小長谷 有紀
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.281-285, 2002-10-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
7
被引用文献数
7 13

馬乳酒 (kumiss) は, モンゴル国の遊牧民の間で長い間大切にされてきた飲みもので, 乳酸菌と酵母によってウマの生乳を発酵させてつくられる伝統的な飲料である。遊牧民の成人男子においては夏季に毎日3Lの馬乳酒が飲まれていた。食生活において馬乳酒が, エネルギー摂取量に示す割合を調べた。調査世帯では, 成人男子における1日のエネルギー摂取量のうち, 約50%を馬乳酒によって摂っていることが明らかになった。さらに調査の結果, 1999年の旱魃, 2000年, 2001年の雪害によって, 多くの家畜が死んだ。このことで夏季に新鮮な乳製品が摂れなくなっていた。馬乳酒は遊牧民のエネルギー摂取に大きな役割を持っている。伝統的な発酵乳製品が摂取できなくなることによって, 食生活が変化すると, 遊牧民の食形態と健康に大きな影響をもたらすものと考える。
著者
森永 由紀 ヤダムジャブ プレブドルジ バーサンディ エルデネツェツェグ 高槻 成紀 石井 智美 尾崎 孝宏 篠田 雅人 ツェレンプレブ バトユン
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.128, 2014 (Released:2014-10-01)

モンゴル高原では数千年来遊牧が生業として営まれるが、そこには遊牧に関する様々な伝統知識があり、寒冷・乾燥フロンティアといえる厳しい自然条件の下での土地利用を支えてきたと考えられる。牧民の伝統的な食生活には、乳の豊な夏には乳製品が、寒い冬にはカロリーの高い肉製品が主に摂取されるという季節的特徴がある。乳製品の中でも代表的といわれる馬乳酒は、馬の生乳を発酵させて作られ、アルコール度が数%と低く、産地では幼児も含めて老若男女が毎日大量に飲む。夏場は食事をとらずに馬乳酒だけで過ごす人もいるほど貴重な栄養源で、多くの薬効も語られる。今も自家生産され続け、年中行事にも用いられる馬乳酒には重要な文化遺産としての意味もあるが、その伝統的製法は保存しないとすたれる危険があり、記録、検証することには高い意義がある。本研究では、名産地の馬乳酒製造者のゲルに滞在して、製造期間である夏に製造方法を記録し、関連する要素の観察、観測を行った。馬乳酒の質は原材料となる馬乳と、それを発酵させる技術(イースト、容器、温度管理など)で決まると考えられる。そこで①馬の飼養と搾乳、②馬乳の発酵方法を調査した。 調査の概要は以下のとおりである。調査地:モンゴル国北部ボルガン県、モゴッド郡にある遊牧民N氏(52歳)と妻U氏(51歳)のゲル 期間:2013年6月15日~9月22日観測項目:上記の①に対応し馬群およびその環境の観察・観測(GPSによる馬の移動観察、体重測定、牧地の植生調査、ゲル近傍および内部の気象観測)、搾乳の記録観察、②に対応し馬乳酒の成分調査、発酵方法の聞き取り、製造過程の撮影などを、モンゴル国立気象水文環境研究所の協力のもとで行った。馬乳酒の日々の搾乳量を記録した。N氏のゲルでは7月11日に開催されるナーダムという夏祭りに首都で売るために6月25日の開始後約2週間は精力的に製造に励み、約250リットルを販売した。その後一時製造のペースが下がったが、8月下旬から再び搾乳回数を増やして、秋には作った馬乳酒のうち約1トンを冬場の自家消費のために冷凍保存した。期間中の製造量は合計5.1トンだった。今後は、データ整理をすすめ、馬乳酒製造法とそれをとりまく環境の記録を残す。また、気象データの解析により、気象条件と馬の行動、搾乳量、馬乳酒の発酵(温度、pH,、アルコール度など)の関係の解析、および冬営地の気象条件の考察などを行い、馬乳酒製造と気候の関係を明らかにしていく。
著者
石井 智美 小宮山 博
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.125-130, 2010 (Released:2014-03-15)
参考文献数
28
被引用文献数
1

モンゴル国ではゴビ地方でフタコブラクダが飼われてきた。伝統的にラクダを飼育してきたゴビ地方ではラクダ乳酒(ホルモグ)をつくってきた。ウムヌ・ゴビ県でホルモグを製造する遊牧民宅と,首都に近いダルハン・オール県で,新たにホルモグをつくり始めた遊牧民宅で調査を行った。ダルハン・オール県のホルモグの性状は酸度1.2%,pH 4.2,アルコール度1.5%で,ウムヌ・ゴビ県のホルモグと大きな違いは無かった。ホルモグの一般成分分析をした結果,アイラグと比べたんぱく質,脂肪,可溶性無窒素物が多かった。飲用量は成人男性で 1 日あたり 2~3 L,女性で 1 L だった。製造方法はスーダンのラクダ乳酒であるガリス,カザフスタンのシュバトと同様だった。スターターにはゴビ地方と同じく,ヤギ乳の発酵乳を用いていた。飲用には「健康に良い」「内臓の病気に良い」等の効能が伝承されていた。発酵に関与する微生物由来の代謝産物が,腸管で良い働きをするとともに,免疫賦活作用があると考える。ホルモグに伝承されてきた効能を科学的見地から明らかにすることは,民族飲料の価値について考えるきっかけになると思われる。