著者
川端 美季
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.133-140, 2015-09-26 (Released:2016-11-01)
参考文献数
62

本稿は、欧米のPublic Bath Movementの背景及び展開とその基底にある身体観および道徳観を整理したうえで、大正期の公設浴場設立におけるPublic Bath Movementの理念や思想の受容や導入について清潔さの意味を中心に検討する。欧米で19世紀後半推進されたPublic Bath Movementは貧民や労働者の身体を清潔にし、彼らの道徳性を向上させ市民化させるという意味をもっていた。欧米と同様に労働者や貧民をめぐる社会問題を抱える日本でも欧米を参考にして公設浴場を設立するに至った。日本でも公設浴場は労働者や貧民を対象にするものであったが、入浴に労働力の再生産を意味する慰安という意味が新たに付与された。また、入浴習慣が途絶えていた、あるいはなかった欧米と比較する過程で、日本人が清潔を好む国民・民族であるという認識と結びつき、「日本」的道徳性が日本の清潔さには内包されていった。
著者
大谷 いづみ 川端 美季
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本課題の第3年度に当たる2017年度は、研究代表者である大谷が体調不良で3ヶ月病気欠勤することとなった。とはいえ、2016年7月におきた相模原障害者殺傷事件の1周年にあたる7月から9月にかけて、諸方面から、相模原障害者殺傷事件と優生思想、安楽死思想についての招待講演の依頼を受け、「安楽死・尊厳死論の系譜と相模原障害者殺傷事件」をテーマに、一般市民を対象とした学習会、自立生活を営む重度障害者とその支援者を対象とした学習会、福祉行政や実務家を対象とした研修講座等において研究成果を還元するとともに、その成果を一般市民の目から検証することができた。また、日本医学哲学・倫理学会第36回研究大会(於・帝京科学大学)のワークショップ「正常さと異常さの境界」において、「「生きるに値しない生命」殺害の医療化と規範化」と題する研究発表を行った。フロアには50名ほどの参加者があり、活発な討議が行われた。同年度後半には、ナチスドイツ政権下で実行されたT4「安楽死」政策の事実がアメリカや日本に知られるようになった経緯について資料収集の緒に就いた。これは、本研究の主題の中核をなす、J・フレッチャーの安楽死思想の淵源をさぐると同時に、本研究を日本を含む東アジアと欧米キリスト教圏の歴史的経緯において検討するという、さらなる研究への発展を企図している。また、研究分担者の川端は、安楽死・尊厳死論につながる日本の文化的土壌の成立および変容過程について検討し、「近代日本の国民道徳論における「潔白性」の位置づけ」として『人間科学研究』37号において成果を発表した。加えてキリスト教・西欧の医学の日本への影響を視野に入れ、ドイツ・イタリア・イギリスを中心に医学史・身体史に関する調査、日本で医学史と教育史における言説の資料調査を行った。
著者
香川 知晶 大谷 いづみ 竹田 扇 川端 美季
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

生命倫理学では「モンスター」という語が、医学的な「奇形」という意味を離れて、新たな医療技術のもたらす「怪物」といった意味に拡張されて使用されている。ここでは、この疾病概念のメタファー使用の典型例について、その歴史的起源を検討した。その結果、「モンスター」概念は、16世紀以来、何よりも神の意図を蔵している「驚異」の典型として論じられており、医学的な「奇形」概念と比べれば、もともとメタファーとして理解されていたことが明らかとなった。生命倫理学におけるメタファーとしての用法は「驚異」概念の現代における復活として解釈されるのである。