著者
福本 理恵 平林 ルミ 中邑 賢龍
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.379-388, 2017-06-01 (Released:2019-08-21)
参考文献数
13
被引用文献数
1

ICT機器の普及はLD児の障害機能の代替を可能にしている。それと同時に法律と社会インフラの整備により,教科書など子どもたちが使用する紙の印刷物をアクセシブルな形でLD児に提供可能になった。これによりLD児の読み書きの負担は低減してきている。しかし,こういった技術発展と制度整備があるにも関わらず,特別支援教育やリハビリテーションは,治療訓練するアプローチが中心でICTを活用した代替に移行できないでいる。治療訓練は子どもによっては大きく効果を上げる場合もあるが全ての子どもに有効な訳ではない。効果のない訓練が学習の遅れをさらに拡大し,それが子どものモチベーションを低下させ,自己効力感を消失させることになる。一方,ICTを早期から導入することでLD児が高等教育に進学する事例が出てきている。ただし,ICT活用にも限界はある。それは,学習に大きな遅れが生じ,学習へのモチベーションを失っている場合は,ICTを導入したところで問題が解決するわけではない。こういった子ども達を学習に戻す事は容易ではなく,別のアプローチが必要となる。本稿では彼らのモチベーションを高め,現状の能力で学べる教材と場所を提供する取り組みを紹介し,今後のLD児への教育に求められる視点を展望した。
著者
平林 ルミ
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.113-121, 2017-03-30 (Released:2017-09-29)
参考文献数
47
被引用文献数
2 2

2014年1月,日本は国連の「障害者の権利に関する条約(通称, 障害者権利条約)」を批准した。その中にある合理的配慮(reasonable accommodation)とは,「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し,又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって,特定の場合において必要とされるものであり,かつ,均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう」と定義されている。本稿では,学習障害(LD)のある子どもへの合理的配慮としてのICT活用に焦点をあてる。まず目に見えない障害と言われるLDのある子どもへの合理的配慮とプライバシーに関する最新の知見を展望する。次に合理的配慮の対象を判断するための評価研究の動向についてRTI研究及び学業スキルの流暢性評価に焦点をあてる。さらに,LDのある子どもへのICT導入の次の段階としての指導法研究を紹介し,LDのある子どもへの合理的配慮としてのICT活用の動向を整理する。
著者
平林 ルミ 河野 俊寛 中邑 賢龍
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.275-284, 2010
被引用文献数
1

書字障害の評価は、これまで書字速度と正確さを測度とする方法が中心であり、書字困難の要因を特定するには不十分であった。そこで本研究では、デジタルペンを用いて小学1年生から6年生までの618名に対し、文章の書き写し課題を実施し、書字行動を運動フェーズと停留フェーズに分けて分析した。その結果、運動に関しては、仮名は小学2・3年生間で、漢字は4・5年生間で急激に書字運動速度が増加すること、停留に関しては、仮名は1年から3年にかけて、漢字は4年から5年にかけて停留時間が短くなることが明らかとなった。停留は運動よりも発達変化がゆるやかであり、また仮名と漢字では発達の過程が異なっていた。運動フェーズは視覚運動協応と、停留フェーズは文字の形態分析や音・意味との結びつきと関連していると考えられ、デジタルペンを用いた新たな書字評価の方向性が示された。
著者
江田 裕介 平林 ルミ 河野 俊寛 中邑 賢龍
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.257-267, 2012 (Released:2013-09-18)
参考文献数
29
被引用文献数
1

特別支援学校(知的障害)高等部に在籍する軽度障害の生徒201名を対象として、視写書字速度とその正確さを測定した。生徒は漢字の含有率が異なる小学3年生水準と6年生水準の文章を、有意味文と無意味文の条件で3分間ずつ書き写した。生徒の書字数の平均を、課題の (1) 学年要因、(2) 意味要因、および (3) 生徒の性別の3要因で分析した。その結果、3年生水準では有意味文の視写が無意味文の視写より速いが、6年生水準では意味要因による差を生じなかった。生徒の性別では、どの条件でも女子の書字数が男子より多かった。また、同時に調査を実施した障害のない成人の平均書字数を2標準偏差下回った。視写速度と正確さについてエラーを調べたところ、エラーのない生徒の書字速度はエラーのある生徒より遅かった。一方、エラーのある生徒のエラー率は書字速度と負の相関がみられた。文の意味を記憶しながら書く方略が弱く、1文字ずつ転写する傾向があり、特別支援学校生徒には正確だが速度が遅いという特徴が多くみられた。
著者
高橋 麻衣子 川口 英夫 牧 敦 嶺 竜治 平林 ルミ 中邑 賢龍
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 = Cognitive studies : bulletin of the Japanese Cognitive Science Society (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.296-312, 2009-09-01
参考文献数
52
被引用文献数
6

This study proposes a new framework for teaching programs, introducing the practice of “Reciprocal Observation of Thought”, and subsequently examines its effect on fostering children's practice of observing others' thought reciprocally, we used the “Digital Pen” system, an ICT (Information and Communication Technology) system used to share information between all children in a classroom. Using this system, we conducted a five-day program for 35 fourth-graders. In each class, lectures about how to read and write critically were provided first; then, students worked independently on the given questions, presented their ideas to the others, and observed others' work using the Digital Pen system. After the program, it was found that the students who had evaluated others' ideas effectively during the program developed their skills to write essays with more objective and effective arguments, and also to make appropriate counterarguments against others' essay including problems of logical structure. These results were interpreted in terms of the function fo the meta-cognition framework.
著者
中邑 賢龍 坂井 聡 苅田 知則 近藤 武夫 高橋 麻衣子 武長 龍樹 平林 ルミ
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、デジタルペンを用いて小学生の読み書きデータを取得し、読み書き速度の標準データを明らかにした。同時に、書字プロセスを時系列的に分析する事で、書き困難を3つのタイプに分類することが出来た。それぞれの困難さに対応した支援技術は即効的であった。支援技術を早期から導入する事で学習の遅れを防ぐ事が出来ると考えられ、その利用を前提にした教育が必要である。