- 著者
-
平高 史也
- 出版者
- 社会言語科学会
- 雑誌
- 社会言語科学 (ISSN:13443909)
- 巻号頁・発行日
- vol.16, no.1, pp.6-21, 2013-09-30 (Released:2017-05-02)
本稿では,ウエルフェア・リングイスティクスの視点から言語教育の4領域(日本語教育,母語・継承語教育,国語教育,外国語教育〉をとらえなおし,公立小学校での実験授業の報告をまじえながら,言語教育の新たな可能性や限界について論じる。そして,これらの言語教育の領域を一つの包括的な視点からとらえること(言語教育の連携),言語教育を国語や英語だけではなく他の教科でも実践すべきこと(教科の連携),異文化間教育や国際理解教育の知見も取り入れて進めるべきこと(教育の連携)の重要性を説く.異言語異文化との接触が日常化している今日では,このように言語教育の射程を広げて考えることが重要である.それは言語教育が単に言語灘ミュニケーション能力の育成にとどまらず,多様性や異質なものに対して寛容な市民の育成にも貢献しうることを意味する.また,これらの三つの連携の重要性について論じる過程を通して,ウエルフェア・リングイスティクスも,弱者や少数派の話者の言語的差別の是正のためだけではなく,多数派を含むコミュニティの全構成員を豊かにするためのものであることを明らかにする.日本の言語教育ではこうした理念はまだなかなか見られず,制度的にも限界が少なくないが,本稿で示した広い意味での言語教育の実現こそが,多文化共生社会におけるウエルフェア・リングイスティクスの理念の具現化を意味するものと考える.